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第74回
野球、メディア、ファン。ストーブ・リーグの今と昔
日本シリーズもワールドシリーズも戦った4チームはどこが勝っても久しぶりのチャンピオンになります。それぞれのチームのファンと本拠地都市はヒートアップでしょうが、巨人は日本シリーズ進出に失敗です。したがって私は気楽なテレビ観戦です。一足早く、"ストーブ・リーグ気分"と言ったらいいでしょうか。
近年は、印刷メディアでも電波メディアでもあまり見聞きしなくなったアメリカの昔からの野球用語が「ストーブ・リーグ」ですけれど、私がユニホームを着ていた当時は、秋深まると日常的に使われていた言葉でした。
試合がない冬の間、ファンがストーブを囲んで選手のトレード話や自分が応援するチームの新しいシーズンに向けたチーム造りを熱く語り合う。そんなアメリカの野球ファンの習慣が生んだ言葉ですね。
メディアもファンのこの楽しみの話の種を、と球界ゴシップ、噂話、トレードや監督、コーチの人事予想など、いわゆる「ストーブ情報」を連日報じました。日本もアメリカと同様でした。「放出されるかも...」と気にしている選手、「解任されるのか」と身の振り方を考えているコーチには非常に気になる記事だったと思います。
マユツバ情報もかなりありましたけれど、球団も、例えばコーチや選手の人事で、相手が嫌がりそうな場合には、心の準備をしておいてもらうため、ストーブ記者に情報を流すことも少なくなかったようです。
情報=ネタをつかめば書くのが記者の本能ですから、たいていは記事なる。フロントがいきなり伝えると、人間関係がとげとげしくなるような事柄でも、事前のストーブ記事が潤滑油になって、事がスムーズに運ぶのです。

取材をする側とされる側苦労と事情
選手時代の私はトレードには無縁ですから、興味津々で楽しく読んでいました。ストーブ情報として書かれたトレードがしばらくして実現すると「なるほど、よく取材したものだ」などと思ったりしたものです。
正確なストーブ記事は、一人の話に頼って書かず、裏付け取材で確認する。「それが大変です」と記者たちはよく言っていました。"裏取り"をあちこちでやりすぎると情報が漏れてしまい、トレードが破談になることもある。走り回る記者の"不穏な動き"に他社が気づいて特ダネを逃がすこともある。正確なストーブ記事を書くのは、なかなか大変だったのです。
大物外国人選手の獲得情報をつかんだ。その選手に連絡して裏を取りたいが、アメリカの自宅の電話番号がわからない。仕方なく、球団代表に選手名をぶつけると驚いて「契約前に名前が出ると壊れてしまう。発表前に必ず知らせるから待ってくれ」と代表に頭をさげられた記者がいた。数日たって「書いていい」の連絡。そして「これから発表の記者会見だ」。「ひどい話だ」と記者は怒っていました。

時代の変化がもたらしたストーブ情報の減少
選手時代は、この種の笑い話をずいぶん聞かされ面白がっていましたが、監督になると取材される当事者、笑ってはいられません。「人事は秘密」は承知していますけれど、ウソを言うのは嫌だし、とぼけ続けるのも気がとがめるし...。
小さなニュースは電話取材の対応ですみますが、大きな話題では、夜討ち朝駆けの記者たちに家を襲われます。家の前は張り込みの記者諸君のすごい量のタバコの吸い殻が散らばっている。それがいつの間にか、きれいになった。あまりにひどいので、記者たちが話し合って自主的に掃除することにしたといいます。
重要な話は球団事務所ではなく、出口、入口がたくさんあって張り込みに不便なホテルでやるのが決まりでした。取材する側、される側、まるで鬼ごっこが監督時代の「ストーブ・リーグ」で、いま振り返ると「面白かった」となりますが、最近はどうなっているのやら。
分かるのは「ストーブ情報」記事が少なくなったことです。アメリカでも事情は同じだそうです。「インターネット、ブログ、ツイッター、スマホなどで、球団や選手が記者(メディア)を介入させず、自分たちが直接ファンに語りかけるようになったから」とOB野球記者が言っていました。
どうやら野球、記者、ファンの関係が、私たちの時代の人と人との結びつきからネットにあふれる情報による結びつきに代わったのだと思います。
もっとも、それは野球界ばかりでなくスマホで結ばれる今の人間関係と同じなのかもしれませんが...。時代の変化というものです。
第74回 野球、メディア、ファン。ストーブ・リーグの今と昔
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