猛暑からセキュリティスタッフを守る空調ベストの開発・導入
セコムでは、サービスを支える基盤として「人財」を最も重要な資産と位置付け、一人ひとりの技能向上を支援するとともに、働きやすさと働きがいを両立できる職場環境づくりに注力し、労働安全リスクの低減と健康の維持・増進に取り組んでいます。その一環として、近年の気候変動による猛暑・酷暑から社員を守るための空調ベストを導入しました。
暑すぎる夏、職場における熱中症対策が急務
日本における猛暑日数は年々増加傾向にあり、とくに都市部ではヒートアイランド現象などの影響による異常高温がより一層顕著になっています。このような気候変動の加速を背景として労働安全衛生規則の改正が行われ、2025年6月から職場での適切な熱中症対策が義務付けられました。とくに屋外作業が多い建設業や運輸業、そして警備業界においては職場での有効な暑熱対策の導入が求められています。
セコムのセキュリティスタッフ※は、24時間365日体制で安全を担う任務に従事しています。現場で任務にあたるスタッフは身体の安全を守るため、防弾、防刃機能を備えた防護ベストを着用していますが、夏季には着用者の体温上昇を招きやすく、快適性に課題がありました。セコムでは規則改正以前より暑熱対策を重要課題として位置付け、防護ベスト着用中も少しでも涼しく快適に働けるよう、冷却スプレーや保冷剤使用などの対策をとり、試行錯誤を繰り返してきました。
- セキュリティスタッフ・・・セキュリティサービスを提供する現場で仕事をしている緊急対処員、常駐警備員、現金護送隊員のこと
防護衣料に強みを持つメーカーと共同でオリジナル空調ベストを開発
こうした中、快適性と安全性の両立を叶える空調ベスト(空調服※)の開発に向け、長年、防護衣料の分野で豊富な実績を持つ東レ(株)および製造パートナーである信和(株)の協力のもと、2024年より開発プロジェクトがスタートしました。
空調服とは、装着したファンから服の中に外気を取り込み、汗の気化熱で身体を冷やし、涼しく快適に過ごすための服です。通常、空調服を着る際はファンから取り込んだ外気を服の中で循環させ、より快適な空間をつくるためにコンプレッションインナーのような薄手の衣類の着用が推奨されます。しかし、セコムでは、まず制服を着用し、その上に防護ベストを着用する必要があるため、防護ベストの上にファンの付いた空調服を着用しても涼しさはほとんど感じられません。涼感を得るには身体に近いところに風を送り込む必要があるため、背中や襟まわりに空気の通り道を確保する大型スペーサーを新たに設け、着用者の身体に直接風を送り込む独自構造を考案しました。約8カ月もの間、試作を何度も行い、トライアンドエラーを繰り返して完成した空調ベストは、セコムのセキュリティスタッフのためだけに作られた独自の仕様となりました。また、素材にもこだわり、難燃性、摩耗や引き裂きに強い耐久性をもつ専用素材で、なおかつ環境にも配慮し、使用済みペットボトルを原料とする再生ポリエステルを採用しています。
- 「空調服」は、空調機能付きの服を2004年に初めて開発した(株)セフト研究所と、(株)空調服が共同で商標権を保有しています。


製品試験をクリアし、空調ベストを現場に導入
2025年に入り、試作が最終段階まで進んだところで製品試験を実施しました。東レが保有する人工気象室を活用し、気温32度、湿度65%の環境を再現した上で3名のセコム社員を被験者に、空調ベストを装着した場合としなかった場合とで体温、発汗量の変化を評価しました。その結果、被験者全員の着用時の発汗量は半分以下、サーモグラフィーでも体温低下が確認できました。
セコムでは2025年7月より空調ベストを導入し、年度内にのべ3,600名に提供する予定です。すでに現場で着用したスタッフからは「体感として涼しい」「汗だくでお客様と接することがなくなった」といった声が寄せられています。しかし、近年の夏の気温上昇は想定以上であることから、セコムではすでに改良モデルの開発を決定し、プロジェクトを再スタートしています。
社会に「安全・安心」を提供することを使命とするセコムでは、暑熱対策という課題に対し、社員の安全を守ることを出発点に、今後も持続的に取り組みを進めていきます。
空調服の効果(防護ベストのみとの比較)




空調ベスト 開発メンバーの声
「外気温が40°Cを超える環境下では今の空調ベストの効果は限定的であり、今後さらに暑くなることを想定し、水冷式やペルチェ素子など他の技術と組み合わせた製品の開発も必要であると考えています。その場合、当社だけでは解決できない課題もありますので、今後もデバイスメーカーや信和様と協業でより快適な衣料の開発を進めていきたいと思います。」

東レ株式会社
機能製品事業部 部長代理
大槻真也様
「今回の開発では身体と防護ベストの間に空気の通り道をつくることに挑戦しました。その過程で、背中のスペーサーに空気を送り込んでも汗で襟が首に張り付いてしまい空気が抜けないことがわかり、襟の部分にもスペーサーを入れることを考えました。これによってファンから取り込んだ空気が襟から抜けていくようになり、目標とする冷却効果が得られました。今後はさらに改良し、酷暑への対応に挑戦していきます。」

信和株式会社
営業第一部 部長
熊澤卓様
「熱中症の発生は本人の健康が脅かされるだけでなく、急な欠員によって他のスタッフの業務負担増にもつながります。労働安全の面からも、当社のサービス品質の維持向上の面からも大きな経営課題です。東レ様、信和様のご協力によって当社の制服基準を満たす空調ベストが導入できたことは非常に嬉しく思います。しかし、これだけで暑熱対策は万全ではなく、まだまだ課題があります。今後もスタッフの安全確保を徹底していきたいと思います。」

セコム株式会社
システム業務部
運用指導グループ 担当課長
安部真治
「空調ベストを早く現場に導入したいという思いで、昨年夏から動き始めたものの、製品試験をいつ行うべきかが非常に大きな課題でした。東レ様の人工気象室のおかげで冬場の2月に本格的な実証試験ができ、空調ベスト導入を今年の夏に間に合わせることができました。現場の評価や声をできるだけ詳細に収集し、空調ベストの改良に反映していきます。」

セコム株式会社
システム業務部
運用指導グループ 主務
南部圭太




















