水の事故を防ぐために
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セコムの舟生です。
海や川などで水の事故が多く発生しています。
例年、水の事故が特に多いのは7~8月。
今回は、水の事故に詳しい池袋 さくらクリニックの倉田大輔院長に話を伺ってきました。
倉田院長は海浜事故や船舶事故など、海の事故全般を長年研究されており、海上保安庁の安全推進活動に協力するなど、積極的に水難事故の予防・啓発活動を続けていらっしゃいます。
子どもの水の事故の原因や対策について、とても参考になる話を聞くことができました。
夏休みをひかえ、水辺でのレジャーを計画するご家庭は多いかと思います。
水の事故を防ぐためのポイントを確認しておきましょう。▼ 海や川は「去年と同じ」ではない
舟生:
毎年、夏休みの時期は子どもの水の事故が多発しています。
なぜ同じような水難事故が繰り返されてしまうのでしょうか。倉田院長:
海や川には波や流れがあります。
水面より下の状態がどうなっているのかを地上から知るのはとても難しいです。
海は、波や潮の満ち引きの影響で、浅瀬でも突然深くえぐれているところがたくさんあります。
足が着くと思って進んでいたのに急に深くなり、頭まで一気に水につかってしまうとパニックから溺れかねません。
川も同様です。
川底が掘られてできた「急な深み」がいたるところにあります。
川の事故では「突然深みにはまって溺れた」というケースが非常に多いです。
舟生:
海も川も自然のもので、目で見える水面の穏やかさだけでは判断できないということですね。
倉田院長:
海水浴場って、毎年同じ場所ではないということをご存じでしょうか。
海開きの前に管轄の管理機関が海岸の状況、ライフセーバーや監視員の配置などを入念に調べて遊泳可能な海水浴場を決定しているので、前年と比べて数メートル離れていることもあり得るのです。
「去年はここで泳いだから大丈夫だろう」と安易に海に入ると、離岸流によって流されるなどの危険があります。海水浴場に関する情報は所在地の行政機関のホームページなどに掲載されていますので、事前に調べておくことをお勧めします。
自然は常に変化しているので、「いつも遊んでいる場所」が「危険な場所」に変わっていることもあることを覚えておかなくてはなりません。
舟生:
さっきまで楽しく遊んでいたのに一歩先の深みにはまった瞬間、溺れてしまう。
海や川では決して珍しいことではないということですね。
▼ 「子どもから目を離さない」は難しい
倉田院長:
子どもの水の事故を防ぐ方法として「子どもから目を離さない」ことがよく言われます。
しかし子どもから一瞬も目を離さないのは現実的には難しいのではと思います。
「ちょっとスマートフォンの画面を見る、時計に目をやる、周辺の状況に目を配る」といった場面は十分にあり得ます。
怖いのは、そのほんの一瞬でも溺れてしまうということ。
ですから、水に入るときは大人が必ず同行してください。
ずっと子どもを凝視し続けることは難しくても、水のなかで大人がすぐそばにいることは重要です。
舟生:
保護者がレジャーシートを広げている間に子どもが溺れてしまった事故がありました。
子どもだけでは絶対に水に入らないよう言い聞かせなくてはなりませんね。
倉田院長:
いざ海や川を目の前にすると子どもは興奮しますよね。
現地で言い聞かせたり落ち着かせようとしても難しいかもしれません。
旅行準備の段階から、子どもだけで水に入ることがいかに危険か、子どもにもよく理解させておくことが重要だと思います。
▼ 水辺の5メートル以内の場所では「ライフジャケット」を
舟生:
具体的に水難事故予防の準備としてどんなことが必要でしょうか。倉田院長:
海水浴でも川遊びでも、「ライフジャケット」は必須です。
流されてもとりあえず浮くので、呼吸を確保することができます。
子ども用(股下用ベルトがあり脱げにくい)のライフジャケットが市販されています。
必ず着用させるようにしてください。
たとえ本格的に泳ぐ予定がなくても、水辺に行くなら準備しておいた方がいいでしょう。
浜辺で遊んでいても離岸流に流されることもありますし、川の浅瀬で深みにはまることも決して珍しいことではありません。
消防機関の隊員は水辺に近づくときは、ライフジャケット(救命胴衣)をつける決まりがあるそうです。私は一般の方の場合、水辺まで5メートルくらい近づくことが想定される場面ではライフジャケットをつけるべきと考えています。
海上保安庁の潜水士も、家族で海の近くに行くときは必ずライフジャケットを持っていくと聞いたことがあります。救助のプロがそれくらい用心深く備えるほど、自然の水辺は危険が存在するということです。
舟生:
キャンプ場のそばに川があるとか、堤防で釣りをするといった場合も、ライフジャケットが必要だということですね。
倉田院長:
ライフジャケットも買っただけでは不十分です。
使い慣れていないと正しく装着できないかもしれませんし、子どもも嫌がるでしょう。
あらかじめお風呂のなかでお湯や水をかけたりして試してみるのが良いと思いますよ。
穴あきなどの破損がないかをチェックできますし、空気の入れ加減や仕組みなども確認できます。
遊びを兼ねて子どもがライフジャケットになじめるようにしてあげてください。
それから、自然の水辺で遊ぶときは、ビーチシューズやリバーシューズを必ず着用しましょう。
ビーチ「サンダル」ではなく、足全体をおおう「シューズ」で、水のなかでも脱げないものですね。
海や川のなかで、足裏をケガすることは非常に多いですし、感染症のリスクもあります。
触れたもので手を切ることもありますので、できれば(ダイビングやシュノーケリング用)グローブや軍手なども着用していたほうが安心ですね。
舟生:
そのほか、海や川で遊ぶときに準備することや、子どものために気にかけたほうがいいことはありますか?
倉田院長:
準備体操を必ずしてください。
プールでは準備体操をしていても、海や川で行っている人はあまり見かけませんよね。
しかし実際はプールよりも厳しい環境ですから、溺れる事故を防ぐためには体の準備も十分にしておくことが大切です。
水のなかでは足がつることがありますので、屈伸運動やアキレス腱を伸ばすことがかかせません。
腕や肩をよく回して肩甲骨周りもほぐしておきましょう。準備体操は皆さんも出来るラジオ体操がおすすめです。
水分補給にも気をかけてあげてください。
水のなかは遊んでいても涼しいですし、汗をかいても水に流れてしまうので忘れがちですが、体内の水分は確実に失われています。
脱水症状や疲労は足がつるなどの原因になり溺れる危険も高まりますので、こまめに休憩をはさんで水分を摂らせてあげてください。
▼ 浅瀬でも溺れる?「溺水」のメカニズム
舟生:
膝が出るほどの水深で子どもが溺死する水難事故も起きています。倉田院長:
海水や淡水問わず、誤嚥(ごえん)した水が気管や肺に入り、呼吸障害をきたすプロセスのことを「溺水」と言います。
たとえ水深が浅くても顔に水がかかり誤嚥(ごえん)すれば、溺水する危険があるということです。
私自身も水深10~20cmほどの浅瀬で空を見上げ、大の字の姿勢で寝そべって試したことがありますが、波や流れで絶えず顔に水がかかり、うまく呼吸ができませんでした。
まさか溺れるはずがないと思うほどの浅瀬でも、息を止める準備もせず突然水をかぶればパニックになります。子どもであればなおのこと、命にかかわることがあっても不思議ではありません。
舟生:
深いところではもっと溺水のリスクが高まるということですね。
倉田院長:
泳ぎが得意でも、足がつるなどのハプニングはあります。
「溺れたら浮いて待つことが重要」と言われていますが、水面で予期せぬできごとが起きたときに落ち着いて行うのはなかなか難しいかもしれませんね。
なんとか水面から顔を出すことができても、波をかぶって水が鼻から入ったり飲み込んでしまったりすれば、平常心を保つのはまず無理でしょう。
パニックになればなるほど十分に呼吸ができず、肺の空気がなくなってしまうという悪循環に陥りかねません。
よくマンガや映画などで、溺れた人がバチャバチャ水をかいてもがきながら「助けて!」とさけぶシーンを見かけますが、実際にああいったことできるのは立ち泳ぎできる脚力や泳力がある人だけでしょう。
ふつうなら顔を出すのがやっとで、声をあげることもできないはずです。
大声を出す空気もなくなり、顔を出すのも困難になって静かに浮いたり沈んだりを繰り返す。水のなかでもがいていても見えないのでまず溺れているかがわかりませんし、わずかな時間で水底に体が沈んでしまうこともあります。現実は「子どもは静かに溺れる」ことを知って欲しいですね。
舟生:
浜辺で大人が見守っていて、子どもが海に入って遊んでいるような状況では、溺れていることに気づかないかもしれませんね。
倉田院長:
イルカやシャチなどを模したような、大型フロート遊具をお子さんだけで使うのは危険を伴うと思います。
大きな浮き具遊具は、子どもがそこから落ちて溺れていても体が隠れて見えないことがあります。
また、そのそばで子どもが浮いたり沈んだりしていても、「遊んでいるのかな」「浮き具に登ろうとしているのかな」と思ってしまい、まさか溺れているとは考えない可能性もあります。
大きな浮き具は風にあおられやすい性質がありますので、沖に流されてしまうリスクも高まります。
「子どもだけで遊んでおいで」と送り出すのではなく、必ず大人がそばについてあげてほしいですね。
▼ 溺れた人を助けるには?二次被害を防ぐために
舟生:
子どもの水難事故では、助けに行った人が命を失うケースがありますね。
溺れている子どもを見たらなんとかして助けたいと思うのが当然ですが......どのように対応すべきなのでしょうか。
倉田院長:
すぐにでも助け出したい気持ちになるのは当然ですし、心情としては十分に理解出来ます。
しかし人が溺れるほどの危険な場所に、自分の安全確保や準備をせずにいきなり飛び込んでしまうのは無謀な行為で避けるべきと言わざるを得ません。
溺れた人を助けるために真っ先に対応してほしいことは、次の2つ。
(1)身近にある「浮くもの」を投げ入れる
(2)携帯電話などで救助要請をする(海の事故「118番(海上保安庁)」、河川の事故「119番(消防)」、「110番(警察)」)
「浮くもの」として浮き輪やライフジャケットのほか、ペットボトルやクーラーボックスも利用できます。ペットボトルに少量の水や砂を入れれば遠くまで投げることが可能です。
水辺に行くときはもしもに備えて安全に投げ入れられるものを用意しておくといいでしょう。
救助要請先の118番は海上保安庁、119番は消防救急の緊急通報、110番は警察です。
各機関同士は連携が取られていますので連絡先はどこでも構いません。
とにかく一刻も早く水難事故の発生と救助の要請をおこなうことが肝心です。
ひとりで同時に対応するのは難しいので、近くの人と声をかけあって協力してもらうようにしてください。
舟生:
救助が到着する前に溺れた人を水から引き上げることができたら、どうしたらいいでしょうか。
倉田院長:
通常の一次救命処置と同じで、回復体位をとらせてください。
あとは救助要請先の指示に従いましょう。* * * * * * * * *
舟生:
遊び慣れた場所でも、泳ぎが得意でも、水の事故は起きるということですね。
倉田院長:
日本は海や川などの自然に恵まれた国です。
小さいころからプールの授業やスイミングスクールなどで水に親しむ機会が多くあります。
水に慣れていると「大丈夫」という意識になるかもしれませんが、油断してはいけないということを覚えておいてください。
海上保安庁「Water Safety Guide(ウォーターセーフティガイド)」は水辺の安全対策にとても役立ちますので、ご覧になることをお勧めします。
舟生:
海や川など自然の水辺には、誰にも予測できない危険がある。
だからこそ無防備で近づいてはいけない。本日はどうもありがとうございました。2024.07.25