いよいよスタート! キッズデザイン賞 ~後編~
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セコムの舟生です。
今回は、前回に引き続き、キッズデザイン協議会の小野裕嗣専務理事と、キッズデザイン賞の審査員をされる産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センターの西田佳史さんにお話をうかがいます。
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■キッズデザイン賞について舟生:キッズデザイン賞の募集対象、募集部門、賞の構成、審査要領等については、協議会のサイトに掲載されていますが、今回初めて選定するということで、賞の選考にあたり自分の中に評価のスケールを持たなければならず、難しいところもあると思いますが、「子供の安全の観点から評価できる」という基準は、もうすでに西田さんご自身の中でお持ちですか?
西田さん:たとえば遊具を例にするなら、"リスク(risk)"と"ハザード(hazard)"を分けて考えようと思っています。リスクを全て除去した遊具、ケガをまったくしない環境の構築は、実際には不可能です。それに、ケガするリスクを全て回避してしまったら、「難しそうだけど、挑戦してみよう!」という気持ちを潰してしまい、子供の成長を妨げかねません。そこで"重篤なケガに陥るような危険"を、そのほかときちんと分けて、それをハザードと呼び、ハザードについて考慮されているかどうかが、ひとつのポイントではないかと考えています。定量的なスケールがあるかといえば、今のところは「ない」と考えています。
舟生:先日、学校の遊具で木製の棒が1本折れて倒れ、児童が怪我をした事故がありましたね。結果的に、大きなケガにはなりませんでしたが、あの事故については、どのようにとらえるべきでしょうか?
西田さん:結果的には大きな事故にはなりませんでしたが、あのケースは"大きな事故"になりえたととらえるべきでしょうね。なぜなら、これに類似した事故は過去にたくさん起こっています。今回は「たまたま助かった」というべきで、あきらかに「ハザード」ということになると思います。
舟生:そこですね、問題は。「大したケガにならなかったから良かった」と言い切れないものが、事故の中にはたくさんあるわけです。
西田さん:少なくとも、キッズデザイン賞にエントリーしてくる作品については、リサーチ部門のエントリーに関わらず、過去に類似製品でどういう事故があったのかという調査を行った上で、安全性について「どう考慮したのか」を発表してほしいと考えています。
小野さん:キッズデザイン賞は、ある基準を超えている製品を認定するというような賞ではなく、前の製品よりも一歩でも改善されている点を評価していこうというものですから、ある意味で総体的な評価になるかもしれませんし、ある意味では、あいまいな評価という部分も残るかもしれません。ただ、いろいろな専門家の方々の評価で「これは子供目線の製品だ」「子供基準になっている」ということであれば、それはいい評価が出てくる気がします。そのへんは、初めてのアワードになりますので、実際に応募された製品を見てからの判断となると思います。
舟生:製品だけをとってその物のレベルをみるというよりは「これは子供目線の製品だ」「子供基準になっている」といった、総体的なものをみるという感じのようですね。ただ、当然、必要最低限のレベルは、クリアしていなければならないですね。
小野さん:そういうことですね。SGマークとか、玩具ではSTマーク、JISも一部関係がありますが、そういった基準をクリアしていることは必要かもしれません。それプラス、それだけでは子供の"安全・安心"が保てないとすれば、その製品をデザインするにあたって「何を工夫したか」というのもあるでしょう。ただキッズデザイン賞の審査に関しては、あまり基準を明確にしないで"それぞれの製品に適した評価基準で、審査員のみなさんが納得いくものであれば評価をしていく"という柔軟性を持たせています。エントリー側から「これが我々の会社が考えた、キッズデザインです」と提案をしていただいて、それに対して、審査員が判断するというのもいいと思います。
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■子供を育てる"ケガをさせる遊具"の大切さ西田さん:「安全にケガをさせる遊具」といったものも、評価の対象になってくると思うんです。そういうところが、私はキッズデザインだと思うんです。
舟生:2月18日に放送された『NHKスペシャル ドキドキ・ヒヤリで子どもは育つ~遊具プロジェクトの挑戦~』には、一部、そうところがありましたね。火や刃物を使うということに対して、少し前までは、危険だからと子供から遠ざけていましたが、最近、やっと、実際に使ってみて少々のケガなり火傷なりしたとしても、実際に経験することで、本当の意味での火や刃物の危なさを知り、大きな事故を防ぐという考え方が出始めているようですね。
小野さん:企業が市民サービスにつながる取り組みとして"親子で一緒にやるような体験型のプログラム"を行うところも出てきました。そういったことも次世代の子供を育むという点において、キッズデザイン賞の評価対象にしていきたいと考えています。
西田さん:経験が大切といっても"工夫がされているか"という点は重要です。「子供の目の前にただ包丁を置いておけばいい」ということではありません。
舟生:小さな子供を持つ親の世代もナイフで鉛筆を削る世代ではないんです。私もはじめから鉛筆削りを使っていましたから。そういった意味では、今の親向けの商品もたくさん出てきてほしいなというところがありますね。
小野さん:そういったものも、キッズデザインの対象と呼べると思います。「できれば、親子で一緒にやってください」みたいなものですね。教育でもいいし、遊びやエンターテイメントでもいいと思います。親子で一緒に遊べる空間でもいいですね。
西田さん:子供向けの遊びになると、親はどこかに行っていなければならないとか。親子が一緒に安心・安全に遊べるスペースというのは、意外と少ないんです。
小野さん:それから、隠れている財産をもう一回発掘してほしいです。たとえば、ドロップとかトローチの真ん中に穴が開いている理由が、子供が息を詰まらせてしまうことの防止のためであるということを、みなさんはご存じでしょうか? また、糖衣型のガムがあんなに小粒なのは、子供が誤飲をしたときに喉に詰まらせないように、つまり子供目線で作られているんです。そういったものを再評価し、みなさんに知っていただきたいです。
舟生:『セコムと話そう!「子供の防犯」ブログ』を訪れてくれているかたは、企業の人よりも、どちらかといえば子供を持つお母さんが多いわけですが、お母さん方にとって、キッズデザイン賞はどういった意味をもってくるのでしょう?
小野さん:企業の方とか自治体の方が何に取り組んでいるのかを知ることは、母親として、保護者として、気をつけなければいけないことを見つけるひとつのヒントになると思います。また、日頃の子育てで悩んでいることに対する、解決の糸口になる可能性も高いと感じます。
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2回にわたって、キッズデザイン協議会事務局長の小野裕嗣 専務理事と、キッズデザイン賞の審査員をされる産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センターの西田佳史さんにお話をうかがいました。今回お話しました、キッズデザイン賞作品の審査会場や受賞作品を実際に手で触れ、体験できる公開展示会とあわせて親子や学生など、一般の来場者が楽しめるワークショップ、体験イベントが盛りだくさんの「キッズデザイン博2007」が、8月7日~11日に東京青山のTEPIAプラザで開催されます(入場無料)。
夏休みに親子で出かけてみてはいかがでしょうか? 小学生のお子さんなら、自由研究のテーマにもなりそうですね。
次回は、4月26日(木)に記事アップ予定です、お楽しみに。2007.04.25