キッズデザイン賞金賞受賞「ふじようちえん」を訪問しました < 後編 >
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セコムの舟生です。
前回に引き続き、第1回キッズデザイン賞で金賞 〔 感性創造デザイン賞 〕 を受賞した、東京都立川市のふじようちえんの訪問記です。
園内を見学したあと、別棟・スマイルシェフのランチルームでふじようちえんの給食をいただきながら、加藤園長先生にお話を伺いました。
今日の給食メニューは「スパゲッティミートソース」。ほかにもサラダやスープ、牛乳、プリンまで付いていて、おいしい給食でした。これなら子供たちも喜んで食べるでしょう (^_^)
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舟生:これだけ開放的ですと防犯面が気になりますが、何か対策はされていますか?加藤園長先生:子供たちの通園時間以外は門を施錠していますし、監視カメラや警備員も配置しています。それに、セコムさんのセキュリティシステムも導入しています。しかし何よりも、園舎の内側だけでなく外側も全てガラス張りで見通しがよい構造になっていますので、開放的だからこそ人の目が行き届いて安全が確保できると、私たちは考えています。
舟生:周囲の目を確保することは、防犯の基本的な考え方ですが、ここまで思い切りがよい建物は珍しいので感心しています。
加藤園長先生:私をはじめとする幼稚園スタッフは園内PHSを携帯しているので、スタッフ同士のきめ細かな連携が可能です。さらに、このPHSを使って全館に一斉放送を流すこともできるので、いつでも、どこからでも、すばやく園内放送ができるようになっています。
舟生:人の力と防犯システムの双方を上手に取り入れているわけですね。
加藤園長先生:そうですね。開放的にするメリットは防犯面だけではありません。開放的にすることで「仲間はずれのない幼稚園」になれば―。そんな願いもあるんです。
舟生:ところで、給食は幼稚園でつくっているのですか? 園児の数が多いので、給食をつくるのも大変ではないですか?
加藤園長先生:スマイルシェフ内にキッチンがあり、調理スタッフが給食を作っています。本当なら、パンからデザートまで全部手づくりの給食が出せれば素晴らしいのでしょうが、そこまで用意するのはとても無理です。だから、パンやデザートなどは市販品を使用していますし、保護者の方にも「市販品を使っていますよ」と、きちんと伝えています。給食だけではなく何でもそうですが、正しく公表することが大切です。良い点も改善すべき点も。嘘をついたり隠したりすると、保護者との信頼関係が崩れてしまいます。
舟生:共働きの家庭も多くなりました。幼稚園にも給食があると、お母さんの負担も軽くなりますね。
加藤園長先生:働きながら育児をしているお母さんだけでなく、育児中のお母さんは大変だと思います。でも、子供はお母さんのつくるお弁当が、一番うれしいはずですよ(笑)。ふじようちえんでは、給食とお弁当持参を選択できるようになっています。確かに共働きの家庭は増えてきましたね。そこで、なるべく働くお母さんを支援したいと、給食だけでなく、別棟を使って、長時間保育などの預かり保育も行っています。
舟生:それにしても、教室の中にケヤキの樹が立っていて、建物内から屋上を突き抜けるように伸びているのにはびっくりしました。天井には、子供が落ちないようにネットが張られていて、そこは園児達の恰好の遊び場のようですねー。
加藤園長先生:ネットは相当な重量に耐えられるように、安全性にももちろん配慮しています。このケヤキは、2007年に園舎を建て替えるずっと以前から、ここに立っていたものです。屋上で木登りをすることもできますし、背の高いところの葉っぱや木の実も間近で見られるので、それらが地面に落ちる様子もはっきりと見て、仕組みを学ぶことができるんです。舟生:桐の箱家具で各教室を間切りして、開放感のある教室にしていますが、隣の教室の音などは気になりませんか?
加藤園長先生:幼稚園では、歌やお遊戯のときにピアノを使います。当初、「これでは、うるさいんじゃないか?」と思ったりもしましたが、実際、そんな心配は無用でした。子供たちは集中すると雑音を気にしませんし、聞き取ろうとして、より集中力が増すようです。ガラス張りの窓も同じですね。通行人が通っても、子供たちは集中しているとき、見向きもしません。
舟生:自由度の高い空間の中で、遊んでいる子供たちもとても楽しそうですね。
加藤園長先生:子供は遊びが仕事です。遊びから子供は学び、遊びによって子供は育つと考えています。そこで、アートディレクターの佐藤可士和さんの「園舎が巨大な遊具」というコンセプトのもと、幼児期でなくては得られない実体験ができる園舎を、建築家の手塚夫妻らと一緒に完成させました。屋上は、わずかですが園庭側(内側)に傾斜しています。朝礼のとき、園児たちは柵から足をぶらりと出すように座り、私は園庭の真ん中に立って話をするんですよ。
舟生:屋上は2階の高さですよね。子供たちは怖がりませんか?
加藤園長先生:通常の2階より、高さは低めになっています。それでも、きっと子供たちはドキドキでしょう。最初は「ちょっと怖いな...」と思う子供も多いはずです。でも、そう感じられることは大切なことです。子供のうちだから感じられる感覚を、経験を通して学ばせてあげたいんです。もちろん、柵の幅は子供がすり抜けて落ちないように考えられています。
舟生:そういえば、教室の中で子供たちは裸足でしたね。
加藤園長先生:ふじようちえんに上履きはありません。家や社会生活の中で、上履きを履く機会ってほとんどありませんよね。子供たちにとって、「本当に必要なものだろうか?」と考えた結果です。裸足だと、足の裏からいろいろな感覚が伝わってきて、その刺激が脳を刺激します。それに、土踏まずの形成にも役立つんですね。子供たちが裸足なので、教室はオンドル暖房(温水式床暖房)で、床から暖めています。また子供たちに木のぬくもりを感じてほしいので、屋上のデッキや教室などに木をたくさん使っているわけです。
ふじようちえんでは、「子供が自ら育つ力」「子供の自主性を延ばすこと」を大切にしています。そういった点からも、いろいろな体験ができる園舎は、私たちの教育方針にピッタリなのです。小学校が「学びの中心」であるように、幼稚園こそ「育ちの中心」であるべきだと思います。便利すぎるとも言える世の中だからこそ、教育に取り入れるべき不便さもあると思うんです。 幼稚園での生活を通して、感じて・学んで・育つことを、これからも大切にしていきたいと考えています。
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子供の防犯や安全においても、子供自らの危険回避能力を高めるよう教育することが大切です。今回のふじようちえん訪問では、子供が楽しみながら自然と学ばせる工夫や、加藤園長の自主性を重んじる教育姿勢など、非常に学ぶべき点が多かったです。私も、子供がもう少し小さい頃に知っていれば、ぜひ通わせたかった (*^ ^*)私が見学に訪れた日は保護者の見学日で、大勢の保護者が園内に来ていました。「(園児の)人数が多いので、何日かに分散して見学日を設けているんですよ」と加藤先生。とても人気のある幼稚園で、毎年、キャンセル待ちがでるそうですが、見学してみて、それも頷ける気がしました。
2008.01.22