キッズデザイン賞金賞受賞「ふじようちえん」を訪問しました < 前編 >
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セコムの舟生です。
早いもので、この春に幼稚園や小学校にあがるお子さんをお持ちのご家庭では、そろそろ入学に向けての準備をスタートする時期になりましたね。実は、私の娘も今春小学校に入学します。4月の入学式に向けて、なにかと忙しくなりそうです。
さて、昨年末になりますが、今回は第1回キッズデザイン賞で金賞 〔 感性創造デザイン賞 〕 を受賞した、東京都立川市の「ふじようちえん」を見学してきました。 〔 感性創造デザイン賞 〕 とは、子供の感性を育みやすい環境デザインのうち、特に優れたデザインへ贈られる賞です。楕円形の園舎が特徴的なこの幼稚園は、アートディレクターの佐藤可士和さんが手がけたこともあり、話題を呼んでいます。
この幼稚園では、「仲間はずれの無い1つの村」「懐かしい未来」といった園長のキャッチフレーズをコンセプトにしており、子供の感性を育むことを重視し、様々な工夫を盛り込んだ空間づくりに感動しきりでした。
幼稚園に到着してまず驚いたのは、ガラス張りの園舎であること。楕円形でドーナッツのような形の園舎の内周と外周は、すべてペアガラスの扉になっていて壁はありません。事前に幼稚園のホームページで写真を見ていましたが、これほど開放的だとは...。まさにビックリです!
この日は非常に寒くて園舎のガラス戸は閉まっていましたが、暖かい日は内側75枚・外側99枚のガラス戸はすべて開け放たれているとのこと。歩道を歩く近所の人からも、園児達の元気そうな様子が見えます。園舎の内側にある園庭からは、360度グルッと園舎の様子が見渡せます。
当日は加藤園長が一緒に園内を回って、丁寧に説明してくださいました。
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舟生:第1回キッズデザイン賞で金賞〔感性創造デザイン賞〕を受賞されましたが、幼稚園運営に対する園長のお考えを聞かせていただけますか?加藤園長先生:ふじようちえんは、35年前からモンテッソーリ教育の理念を取り入れ、子供達の自主性を重んじる教育方針をうたっています。遊びを通じていろいろな物に興味を示し、チャレンジしていく中で達成感なども得られるようになり、その積み重ねが自立へと向かうんです。園舎や先生はもちろん、そこに育つ動物や樹木、周囲の畑なども含めた全てのものが、子供たちの育ちへ貢献する環境の一部であると捉えるようにしています。
舟生:やはり、楕円形の園舎は印象的ですね。しかも、屋上に子供たちがあがって、自由に走り回って遊んでいる様子も、とても開放感があります。
加藤園長先生:この園舎には、行き止まりがありません。一般的な幼稚園や学校では、子供たちは直線的な動きをします。例えば、お昼休みになったら教室の扉を出て廊下を通り、玄関から外の遊具へ行って、休みが終われば同じ道を帰ってきます。しかし、この園舎は360度、どこへでも視界が開けているので、子供たちはその場を自由に駆け回り、視界に入ってくる様々な物に興味を示している様子がわかります。
舟生:確かに、一般的な構造の園舎と比べて、子供の自由な発想をかき立てる環境と言えますね。
加藤園長先生:ふじようちえんには、子供が育つ上で必要な行為やマナーを、自然にしつけ、くせづけができるようになる工夫が、たくさん盛り込まれています。例えば室内のこの照明ですが、あえてヒモを引っ張って、灯りを点けたり消したりします。今、ご家庭の照明はスイッチ式やリモコン式がほとんどですよね。
舟生:照明がつく仕組みを、より感覚的に覚えてもらおうというわけですね。
加藤園長先生:電気をヒモで消したり、脱いだ靴をそろえたり、蛇口を閉めたり・・・些細なことのようですが、こうした細かい部分こそ、今の時代が求めている教育の原点だと思うんです。
「濡れる機会がない時代だからこそ」と、設計をお願いした手塚先生の発案でつくられたガーゴイル(雨どいから流れてくる排水口のオブジェ)は、雨に濡れる感覚を子供たちに与えてくれます。
ほかにも、クネクネ曲がる蛇口やサッシの間から入ってくる隙間風など、便利になった今、感じることができない感覚をここで体験できるよう、いたるところに工夫がなされています。舟生:それにしても、とても開放的な職員室ですね~。ガラス戸を開けてしまえば、完全に中庭との仕切りがない。
加藤園長先生:ここでは、できる限りの仕切りを排除しています。まず、どの位置にいても、先生たちからもそうですし、子供たち同士も、誰がどこにいるか視界に入りやすいはずです。また、子供達が自立性を身に付けていくスピードは一人ずつ違うのですが、多くの幼稚園では、四角い保育室で園児を囲み、一つの正解を一斉に求める教育を行おうとしています。ふじようちえんの園舎は、壁の変わりに全てガラスで見通しがよく、しかも簡単に開け放して仕切りを取ることができます。これは教室の概念を変えていると思います。
舟生:それにこれは薪ストーブですか?ストーブは園児には危ないという意見も出たのではないでしょうか?
加藤園長先生:薪ストーブについては、子供たちに「木が燃えて炎があがる様子を見てほしい」という思いで置いています。子供たちも、「ストーブは触ると熱いから危ない」と直感的にわかるようになり、自然に注意ができるようになるんです。
舟生:なるほど。確かに子供たちにとって危険なものを取り除くことは大人の責任だと思いますが、同時に、危険なことを予測し、回避する力を子供たちに身に付けさせることも、大人の責任ですね。
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園内を見学して、「感性創造デザイン賞」がピッタリだと納得のふじようちえん。次回も引き続き、ふじようちえん加藤園長先生へのインタビューをレポートします。2008.01.18