歩けなくなってきた高齢者に必要なのは「歩行訓練」か?「車いす」か?

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歩けなくなってきた高齢者に必要なのは「歩行訓練」か?「車いす」か?

こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。

歩行も、車いすも自由に移動するための手段です。高齢になると、誰でも歩く力が衰えてくるもの。
「転倒」も、歩行に支障が生じる原因のひとつです。
入院中に足の筋力が衰え、歩行がおぼつかなくなってしまう高齢者は少なくありません。
脳梗塞などでまひが残り、歩行が難しくなるケースもあります。

リハビリすればある程度は機能回復が見込めますが、それでも若いころのように何の不安もなく歩けるようになるわけではありません。
また、リハビリもつらいものです。

「歩く力」を維持し続けることは、決して簡単ではないということ。
しかし歩けなくなったからといって、移動の自由を失ってしまうわけではありません。

今回のテーマは、移動のための福祉用具のひとつである、「車いす」という選択肢についてです。
車いすで生活はどのように変化したのか、実際のエピソードも交えてまとめます。

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● 歩行訓練の目的はどこにあるのか?
病院や在宅介護でリハビリをおこなう際には、ご本人やご家族の要望を考慮して目標を立て、課題を克服するための訓練を実施します。
歩行訓練もそのひとつです。

ここで注意したいのは、歩行は移動の手段のひとつだということ。
歩くリハビリは、歩くことだけを目標にしているわけではありません。
「歩くことによって何をかなえたいのか」という観点で考えることが必要です。

歩けなくなったことで何に困っているのか、この先どんな暮らしがしたいのか。
「人に頼らず自分の意思で外出がしたい」「ひとりでトイレに行けるようになりたい」など、歩行の先にある目標があるはずです。

「自分の足でしっかりと歩けるようになりたい」という目標なら歩く力を鍛えるリハビリは必須。
しかし、家のなかを自分の意思で動いたり、外に出て行動範囲を広げたりすることが願いなら、車いすなど福祉用具を利用した移動手段も、選択肢として視野に入れることができます。

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● 「車いす」という選択がもたらした介護生活の変化
車いすに頼ることを、ネガティブに考える方もいらっしゃいます。
歩くことをあきらめてほしくない思いも、ご家族にはあるでしょう。
ご本人がつらそうな様子でも、なんとか励まして歩くリハビリをがんばってもらったり、ご自分の負担をいとわず歩行介助を続けたりしている介護家族もいらっしゃいます。

しかし、車いすを利用することは、決して消極的な選択というわけではありません。
そのことが伝わってくる、車いすエピソードをご紹介します。

・エピソード1:Aさんの場合
脳梗塞による半身まひで、歩く力を失ってしまった男性Aさん。
自分の将来を悲観し、リハビリを拒否。
自宅に引きこもる生活を続けていました。

ご家族に厳しくあたり、介護する側もすっかり参っていました。
そんなAさんに車いすを勧めたところ、生活は一変。

どんどん行動範囲が広がり、ひとりで電車を乗り継いで買い物に行ったり、私たちの訪問介護ステーションまで遊びに来たりと、明るく活動的になったAさんに驚きました。
Aさんは、一度は失ってしまった「自分の意思で行きたいところに行く自由」を再び手に入れたのです。車いすがくれた移動の自由が、Aさんの生きる意欲を引き出しているようでした。

・エピソード2:Bさんの場合
Bさんは、息子と二人暮らしの女性で、ほぼ寝たきりの状態。
トイレまでの移動にも介助が必要でした。

息子さんが仕事でいない日中の時間帯は、ヘルパーの訪問を待つかおむつ。
認知機能に問題のなく、しっかりした女性です。
「トイレに行きたいのに自分ではどうしようもない」状態は、とてもつらかったと思います。

そこで、家のなかで使える車いすを提案。
端坐位になる練習、車いすへ移乗する動線の確認などを行い、やがて自走できるようになり、ひとりで過ごす時間帯も、自分の意思でトイレに行けるようになりました。
1日中誰かが来てくれるのを待つ生活を送っていたBさん。車いすを選択したことで、自由に家のなかを移動できるようになりました。
トイレ介助のために急いで帰ってきていた息子さんが、仕事帰りにちょっと寄り道ができるようになったことも、母親であるBさんにとって、嬉しいことだったようです。


● 車いすを上手に操作するためのリハビリもある
「歩けなくなったから車いす」ではなく、行動範囲を広げてより生活を楽しむため、自分の力でやりたいことをする体力を温存するために、あえて車いすを使う考え方もあるのです。

不安なまま歩くことを継続するより、車いすで移動するほうが、リスクが減って安心ですし、遠くまで行けるようになるかもしれません。
家のなかでの移動にも転倒リスクが高い方は、車いすを使えば、誰にも頼らずにトイレに行ったり、過ごす場所を変えたりすることが可能になります。

歩行も車いすも「自分の力で行きたいところへ行く自由」のための手段です。
目標や方針をしっかり持って必要な訓練をおこなえば、車いすを使いこなす能力を獲得できる可能性があります。
車いすという新たな移動手段が新しい世界を開いてくれるかもしれません。

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