高齢者が転倒しやすい場所とタイミング
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
在宅介護で心配なことのひとつに「転倒」があげられます。
高齢者になると、筋力や視力などの低下、バランス感覚の衰えなどにより、ちょっとしたことで転倒してしまうことがあります。
若い時分には考えられないような原因で転倒することが多いため、ご家族も驚いてしまうことが多いようです。
高齢者には、高齢者ならではの転倒の原因があります。
在宅介護で転倒リスクを減らすためには、転倒しやすい場所やタイミングについて理解を深めることが大切です。
介護家族が知っておきたい、転倒についての知識をまとめます。
● 高齢者が転びやすくなる理由
高齢者の転倒は、決して珍しいことではありません。
消費者庁に寄せられた転倒事故の情報によると、後期高齢者(75歳以上)の転倒事故は、前期高齢者(65~74歳)の2倍以上にのぼり、高齢になるほど転倒しやすくなることがわかります。
また、高齢者の転倒事故の約半数は、自宅内で発生しているそうです。
年齢を重ねると、住み慣れた自宅でも、転倒する危険性が増すということ。
たとえば、ご高齢者の転倒事故は次のような原因で発生しています。
<高齢者によくある自宅での転倒の原因>
・原因1:つまずく
薄いカーペットや畳のヘリなど、わずかな段差に足を取られて転倒することがあります。
筋力が低下し、本人の感覚よりも足があがっていないのかもしれません。
足裏が変形して地面をとらえにくくなり、つまずきやすくなっている場合もあります。
・原因2:足を滑らせる、足が引っかかる
フローリングで足を滑らせたり、ビニール袋など滑りやすいものをうっかり踏んでしまったりして、転倒することがあります。
俊敏性が低下したご高齢の方の場合、とっさに手や足が出ないので、転倒時の衝撃が大きく、大腿(だいたい)骨の骨折など、大けがに至ることが少なくありません。
スリ足で歩く方の場合、すべり止めのマットや、滑りにくいよう加工したフローリングなどで、足が引っかかって転倒してしまうことも。また、病院の廊下が転倒防止用に滑りにくい床になっているところもあり、スリ足で歩く方にはかえって足が引っかかる原因にもなります。
・原因3:バランスを崩す
ドアを開ける、手を伸ばしてテレビのリモコンを取るなどの動きで転倒することがあります。
これは、体重移動の際に体幹の筋肉が身体を支えきれず、バランスを崩してしまうからです。
身体の柔軟性が落ちて、関節の可動域が狭くなっていることも、姿勢が保てずバランスを崩す原因になります。
・原因4:膝折れする
下肢の筋力が衰え、自身の体重を支えきれないと、急にガクッと膝折れして転倒してしまうことがあります。
ベッドで横になっている時間が長く、運動量が少ない方や、車いすを利用している方などによく見られる転倒です。
高齢者の転倒の原因は、「つまずく」だけではありません。
若い方には想像しにくいことですが、お茶を飲もうとしただけで、後ろにひっくり返ってしまうような転倒事故もあるので、油断は禁物です。
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● 高齢者が転倒しやすい場所とタイミング
高齢者の日常生活では、あらゆる場所に転倒事故のリスクが潜んでいます。
消費者庁のデータでは、「浴室・脱衣所」「庭・駐車場」「ベッド・布団」「玄関・勝手口」「階段」などで多くの転倒事故が発生していました。
また、「トイレ」「廊下」「台所」「居間」「ベランダ・縁側」でも、転倒事故が報告されています。
自宅のどこでも転倒事故が起きているということです。
特に転倒事故が起こりやすいのは、次のようなタイミングがあげられます。
<高齢者が転倒しやすいタイミング>
・体調が良くないとき
ご高齢の方の体調は、日々異なります。
身体の調子が良くないときや、疲れているときなどは、しっかり足で踏ん張ったり、体幹で身体を支えたりする力がうまく発揮できないことがあるようです。
・薬を飲んだ直後
血圧を下げる薬や、睡眠剤などを飲んでいると、ふらついたり、ボーッとしてとっさに障害物に身体が反応できなかったりすることがあります。
めまいや足元のふらつきなど、転倒リスクを高める副作用があるときは、医師や薬剤師に相談したほうが良いでしょう。
・夜間のトイレや、朝起きたとき
身体が完全に覚醒していないときは、転倒事故が起きやすいタイミング。
身体も硬直していて、スムーズに関節や筋肉が動かないので、ベッドから立ち上がろうとしたときや、歩き出したときなどに転倒事故が起きやすくなります。
しばらく同じ姿勢でじっとしていたときなども同様です。
・急いでいるとき
突然の電話に出ようとする、トイレに急ぐときなど、慌てていると、気持ちが身体に追い付かず、転倒してしまうことがあります。
・靴を脱いだり、着替えたりするとき
高齢者の方がバランスを崩しやすいのは、一番は片足になる動作です。
それ以外にも袖を通すのに腕を伸ばすだけの動作でもバランスを崩すこともあります。
「玄関で靴を脱ぐ・履く」「ズボンを脱ぐ・履く」は片足になる代表的な動作。
時間は短いですが、片足で身体を支える瞬間に転倒することがあります。
・「ながら」歩きをしているとき
電話をしながら、上着をはおりながらなど、歩行以外の動作を同時にしようとすると、バランスを崩しやすくなります。
・急に呼びかけられたとき
呼びかけに反応して身体の向きを変えたり、立ち上がろうとしたりしたときなどに、よく転倒事故が発生します。
座っていても、椅子や車いすからずり落ちて転倒事故になることがあるので注意が必要です。
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● 高齢者の転倒リスクを減らすには?
転倒しやすい場所やタイミングは、人それぞれ異なります。
ご本人の身体の状態や歩き方をよく見て、住環境を見直したり、見守りやサポートをおこなったりすることが重要です。
また、ご本人が「自分は転びやすくなっている」という意識を持つことも大切。
どんなにお元気な方でも、年齢を重ねれば身体の衰えは避けられません。
要介護や要支援になれば、少し前まで当たり前にできていたことが、おぼつかなくなってくることもあるでしょう。
しかし、本人に自覚がなく、以前と同じようにやろうとして転んでしまうことも多いのです。
転びやすくなっていることを自覚していれば、ひとつひとつの動作を確かめながら、ゆっくり行動するはず。
これを心がけるだけで、転倒のリスクはかなり減らせます。
一度止まってから次の動作に移るなど、ゆとりを持つと良いでしょう。
周りの方も、せかしたり、驚かせたりするのは、転倒の原因です。
おだやかな気持ちで、そして、ゆっくりペースでサポートしてくださいね。
万が一、転倒してしまったときは、必ず医療機関を受診して全身をチェックしてもらいましょう。
高齢者の場合、大丈夫と思っても受診したら骨折していたということがしばしばあります。
病気や薬の副作用など、思いがけない転倒の原因が見つかることもあります。
ご本人の病歴や身体の状態をよく知る「かかりつけ医」を持っておくと、いざというとき安心です。
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