「予防から共生へ」認知症基本法が示す新しい社会のかたち
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。年齢を重ねることは、変化を受け入れることでもあります。
認知症もその変化のひとつです。
2024年、「認知症基本法」が施行されました。
認知症の人が尊厳を守り、希望を持って暮らす社会の姿を示しています。
すべての人が安心して年を重ねられる社会をつくるためにどうするか。
認知症基本法が社会に、私たちに投げかけているメッセージを一緒に読み解いていきましょう。
【あわせて読みたい!シリーズ「認知症と共に」】
・認知症と「共に生きる社会」とは
● 「予防」だけではない、認知症と向き合う社会へ
これまでの認知症施策は、「予防」が強く意識されたものでした。
健康づくりや生活習慣改善といった取り組みは大切です。
しかし、認知症には完全な予防策がないこともまた事実。
「予防」が先行すれば、「認知症は回避すべきもの」というネガティブなイメージが定着し、認知症当事者やその家族を孤立させてしまうおそれもあります。
認知症は、誰にでも起こりうること。
2040年には65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症(厚生労働省統計)という時代を迎える今、支える社会そのものを変えていかなければ、誰も安心して年を重ねることができません。
こうした課題を背景に、2024年に施行された認知症基本法。
「共生」「尊厳」「希望」という新しいキーワードを掲げています。
従来の予防や治療といったテーマに加え、支える社会づくりが大きな「柱」として取り入れられました。
実は当初、「予防」を前面に押し出した認知症基本法案が作成されましたが、当事者団体からのささまざまな意見や、社会全体の意識変化を受けて、より本人の尊厳保持、社会への参画を中心に据えた法案へと修正された経緯があります。
認知症基本法には、「共生社会の実現」とともに、「尊厳を維持し、希望を持って暮らすことができる社会」を目指す理念が、しっかりと記されています。
認知症を当たり前のこととして受け止める。
支え合いながら生きていく。
認知症への向き合い方は、今大きく変わろうとしています。
● 小さな行動が、大きな安心につながる社会へ
社会をつくるすべての人が、大小にかかわらず「担い手」となり、認知症の人もそうでない人も、安心して生きられる社会を一緒に育てていく。それが認知症基本法の目指す社会です。
国や自治体だけでなく、私たち一人ひとりにも役割を求めています。
国は医療や介護、福祉、住まい、交通、仕事の場づくりなど、幅広い支援体制を整える。
自治体は地域の特性に応じた計画をつくり、認知症と共に生きる人を支える取り組みを推進する。
そして社会をつくる一人ひとりにも、「認知症への正しい理解を深め、共生社会づくりに努める責任がある」とされています。
たとえば、
・働く場やサービスの場で、認知症の人が安心して利用できるように、環境や仕組みに配慮すること。
・困っている人に寄り添うこと、偏見を持たず自然に関わること。
・認知症を自然なものとして受け止め、共生する感覚を育てること。
それぞれが、それぞれの立場で、小さな役割を担うことを求められていると言えます。
●認知症を「私たち自身の未来」として考えてみる
「もし将来、自分自身が認知症になったら」と少しだけイメージしてみてください。
道に迷ってしまったとき、さりげなく手を差し伸べてくれる誰かがいる。
買い物をする場所にも、働く場にも、認知症の人へのあたたかい配慮が自然にある。
多少の失敗や、うまくいかないことがあっても、「大丈夫ですよ」と受け止めてくれる社会だったら。
きっと、それだけで安心して前を向いて生きていけるのではないでしょうか。
ほんの少しの助けがあれば、自分らしく、幸せに暮らせるのではないでしょうか。
今できる「小さな行動」が、未来の自分自身を支える社会を育てる一歩になるのだと思います。
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認知症を「なってはいけないもの」として恐れるのではなく、「なっても大丈夫」と思える社会。
認知症の予防や治療の発展も目指しながら、すべての人が安心して年を重ねられる未来を、一緒につくっていきたいですね。
次回は、認知症の人と関わるときに大切にしたい、「本人の思いに寄り添う」という視点でまとめます。
【あわせて読みたい!関連コラム】
■認知症の方の「お買い物」をサポートする方法
認知症の方のサポートはさほど難しいことではありません。
ご本人が「したいこと」を先回りしすぎず、本当に困っているところだけ手助けするコツをお伝えします。
■認知症の方とのコミュニケーションで困ったら
認知症の方の言動は、否定したり制したりするのではなく、寄り添う気持ちを持つことが大切。
積極的にコミュニケーションを取るためのヒントになるはずです。