[悔いのない介護(1)]「この先、どうしたいか?」を話し合うには

介護情報なら安心介護のススメ

介護のミカタあれこれ

介護の現場での取り組みやエピソードを、
介護関連の専門職の方々にお聞きします。

  • ツイート
  • facebookでシェア
  • LINEで送る
  • ツイート
  • facebookでシェア
  • LINEで送る

[悔いのない介護(1)]「この先、どうしたいか?」を話し合うには

こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。

日常の会話からも価値観や考え方がわかります。在宅介護は、ずっと同じことの繰り返しではありません。
介護される方の状態は一定ではなく、心身に変化が訪れます。

これまでのような在宅介護が難しくなってしまったら、その先どのような介護、暮らし方を選択すべきか。
要介護度が変わるような心身の変化を迎えたとき、介護する家族に残された選択肢はいくつあるのでしょうか。

そのときがいつ来るのか、言い当てるのは難しいもの。
今のうちから「ご本人の意思」にきちんと向き合い、家族としてどのように寄り添うのかを考えておくことが大切です。

今回から3回にわたり「悔いのない介護」をテーマに読者Aさんの体験談を紹介します。
娘として自宅で父親の介護を続けてきたAさん。在宅介護を続けるなかで、容態は変化しました。
介護が次の段階にきたと感じたそうです。

悩み、迷いながらも、お互いが納得し、父と娘が穏やかに向き合える「今」をつくりあげてきたと言います。
読者Aさんの体験談には、「悔いのない介護」のヒントが詰まっています。

悔いのない介護を続けるために、家族は何ができるのか。
初回のテーマは「ご本人の意思確認」です。

● 介護を続けるうえで欠かせない「ご本人の意思確認」
「最後まで自宅で暮らすのか、それとも施設を選ぶのか?」
「延命措置はするのか、それとも静かに最期を迎えるのか?」

家族としてもご本人に聞きにくいものです。
もし本人が意思表示できない場合、その選択は家族に委ねられることになります。
どのような選択をするにしても、「本当にこれで良かったのか?」という後悔や迷いが残るものです。

読者Aさんは、どのようにして「意思」を確認していったのでしょうか。

「このあんしん介護ブログにあった、医療のドキュメンタリーやドラマなどをきっかけに話を聞き出す方法が参考になりました。
折に触れて『どう思う?』『どうしたい?』を聞きました」とAさん。

"誰かの出来事"を借りて、本人の気持ちを聞くと、深刻になり過ぎず、本音に迫ることができます。

読者Aさんの場合は、生死にかかわる話だけではなく、「もしも歩けなくなったら、どのように暮らしたいか?」「病状が悪化して自宅で生活するのが難しくなったら、どんな場所で過ごしたいか?」といったことなども話題にしてきたそうです。

「これからどうしていきたいかを具体的に話し合うようになったのは、主治医の先生から予後を聞かされたからです。
医師から病気はどのように進行するか、それにともない父の状態がどう変わるかを聞きました。

体力的に通院はつらくなるかもしれない。
歩くことが難しくなるかもしれない。

そういう将来が想像できました。そのときどんなケアを望むのか。
父と何を話すべきか、明確になりました」。

予後を医師に確認することは、介護される側、介護する側が話し合いをはじめるきっかけになるということです。

主治医の話を踏まえて、通院から在宅医療に切り替えたAさんご家族。
話し合いを重ね、「延命処置や救急医療など、積極的な治療は望まない」「自宅での処置が難しいときは、対処療法や緩和ケアが受けられる病院に搬送してもらう」「歩けなくなったとき、意思表示が難しくなったときは、希望するケアに対応してくれる施設にお世話になる」など、状況ごとに「どうしたいか」を意思確認したそうです。

【あわせて読みたい!意思確認の具体的な方法】
最期はどこで?延命治療は?「そのとき」困らないために今できること


● 「本人の価値観」を感じ取る方法
直接、「こういうとき、どうしたいか?」を問わなくても、価値観や考え方から想像できることもあります。

「父との同居生活は、長いこと一緒に暮らしていなかったこともあり、大変なこともたくさんありましたが、父がどんな人かをあらためて深く知る機会にもなりました。
枕元に飾った花を見て『花があるとやっぱり良いね』と父が言えば、花が好きなのだと知れますし、テーブルクロスのゆがみを気にする様子からは、整然としていないと嫌なのだと気づけます。
父のひと言ひと言から、父ならではの価値観や考え方が垣間見えるようでした。
価値観や考え方を想像するのが"癖"のようになりました。日常のあちらこちらでそれを感じ取ることができました」

在宅介護においては、「気持ちが通じない」「本音が見えない」は、よくありますが、日常の言動から本心を推し量る方法もあるということです。

相手を思いやりながら、丁寧にコミュニケーションを重ねること。
言葉の奥にある"想い"を想像すること。
身内だとおろそかにしてしまいがちですが、思い出したときだけでも、心の感度を高めてご本人と向き合ってみることをおすすめします。

「在宅療養に切り替えてから、何度か救急搬送され、いよいよ自宅でのケアが困難になってきました。
今は父の望み通りに、緩和ケアが受けられる医療介護施設にお世話になっていますが、入居先を探すときに、"父の価値観を想像する癖"がヒントになりました。

こういう雰囲気の施設なら、父も嫌な気持ちにならないだろう
こういうかかわり方をされると、父なら気を遣ってしまうかもしれない

などと思いを巡らせて施設見学ができました。
父が懸念するであろうことを先回りして施設側に確認したので、スムーズに入居する施設を決めることができ、穏やかに過ごすことができているようです」

いつか交わした会話が、本人に代わって決断しなくてはならない場面で、本人の意思を推し量る手がかりになるのです。

【あわせて読みたい!介護施設の選び方、考え方】
在宅介護?それとも施設介護?選択のタイミングと決め手


● 人生の終盤に「合理性」は必要ない?
通院から在宅医療へ、そして自宅から医療介護施設へ...と目まぐるしく介護生活が変化。
父を介護する娘であり、働く母でもあるAさんにとって、日々のスケジュールを対応するので必死だった時期があったそうです。

「仕事もあるし、子どもの予定もある。
父のことで決めなくてはならないことや、直接出向かなくてはならないこともある。
私としては、どうにか効率よく予定を組み、山積みのタスクを最小限の労力でこなしたいと思うわけです。
やることが多すぎてゆとりのない気持ちで過ごしていたとき、父がお世話になっていた主治医の先生にいさめられたことがありました」

Aさんの大変さに理解を示しながらも、医師は「合理的であることは大事かもしれないけれど、人を相手にしていると、合理性だけで片付けられないこともあるんですよ」と話したそう。

「父になるべく負担をかけないように...と考えながらも、どうにか予定をやりくりすることばかりに頭を巡らせていました。
そんな私のせわしない様子を見かねた先生が『いいじゃないですか、合理的じゃなくても』と言ってくださったのです。
その言葉になんだか肩の力が抜けました」

子育て世代、働き盛り世代の介護は、どうしても時間と気持ちのゆとりに欠けるもの。
ついつい急ぎがち、せかしがちになってしまう...そんな覚えがある方は少なくないでしょう。

「なんとかうまく回していかなくては」という気負いがあるものです。
でもその気負いから解放されると、がんばらなくてもいい部分に気づくと思います。
なんでも完ぺきにしようとしなくても大丈夫です。

提出しなくてはならない書類、通院、介護サービスの利用予定など、介護家族が把握しなくてはならないこと、対応しなくてはならないことは多岐にわたります。
しかし、それらを取りこぼさないように必死になるより、目の前にいるご本人としっかり向き合い、穏やかな時間を共有するほうが、ご本人にとっても、あなたにとっても価値があることなのではないでしょうか。

予定をこなすことを優先すると、ご本人の意思、気持ちを置き去りにしてしまうこともあるのです。

手をかけて自分の負担を増やすのではなく、ご本人のペースを尊重し、見守ってあげてください。
せわしない日常に流されず、立ち止まって深呼吸することは、あなた自身が後悔のない介護を続けていくために必要なことです。

「まあいいか」と思える気持ちのゆとりが、本当に大切なことを思い出させてくれます。

【あわせて読みたい!ゆとりある介護のコツ】
介護家族のちょうど良い「距離感」とは?
最近なんだかヘン...?加齢とともに訪れる「心の変化」とは

セコムの介護応援ブログTOPへ