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在宅介護を悩ませる「排泄(せつ)の失敗」とどう向き合うか

こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。

介護する方とされる方の双方にストレスがないよう、「排泄(せつ)」の問題と向き合うことが大切です。在宅介護において、排泄(せつ)の介助は苦労することのひとつ。
寝たきりの方や、認知症でトイレの失敗が多い方ですと、おむつ交換や排泄(せつ)物の後始末などが大変で、精神的な負担になっている家族もいます。

これまで、「排便トラブルを防ぐために」や「スムーズな排便のコツ」などを紹介してきましたが、現実の在宅介護ではうまくいかないことが多々あるものです。

介護する方とされる方の双方が、少しでもラクに、ストレスなく、「排泄(せつ)」の問題と向き合うには、どうしたら良いのでしょうか。今回は「排泄(せつ)の失敗」への対応方法についてまとめます。

● 介護する家族が苦労する「排泄(せつ)介助」の悩みとは
排泄(せつ)に人の手を借りることはとてもつらいことです。
家族への気兼ねもありますし、恥ずかしさもあります。
要介護の方の気持ちを思えば、「大丈夫だよ」「気にしないで」などと声をかけて、手早くできるのが理想ですが、なかなかそのようにできるものではありません。

排泄(せつ)物の始末は簡単に慣れることではなく、肉体的な大変さはもちろんですが、精神的にきついと感じる方が多いようです。

健康的な便ならば比較的苦労は少ないですが、排便トラブルを抱えていると、便秘のあと、おむつからあふれるほどの大量の便失禁をしたり、衣服やベッドまで汚してしまったりすることもあります。
認知症のある方ですと、おむつ交換のときに便に触れてしまう、排泄(せつ)の途中に動き出して周辺を汚してしまうことなどもあり、負担は増すばかりです。
排便があるたびに周囲が汚れ、洗濯や掃除にヘトヘトになり、においに悩まされ...このような日常を繰り返していたら、介護そのものが限界だと感じてしまうこともあるでしょう。

私も訪問介護でいろいろな方の排泄(せつ)介助をしてきましたので、排便処理の大変さはよく知っています。
悪い状況下ではプロでも苦労するものです。
介護する家族が投げ出したい気持ちになっても無理はありません。

大切な親やパートナーであっても、排泄(せつ)物の始末に抵抗感があるのは当然のこと。
むしろ家族だからこそ、割り切れないものです。
大切な人に対して怒りを覚えてしまう罪悪感、老いや衰えを直視しなくてはならない悲しみ、いつまで続くかわからない不安など、ご家族ならではの複雑な感情がそこにはあります。
排泄(せつ)の失敗を繰り返すことが原因で、優しい気持ちで介護に当たれなくなり、悩んでいる方もたくさんいます。

「私さえ我慢すれば...」と考える方もいますが、それでは解決にはなりません。
ひとつ間違えると、不適切なケアや虐待にもつながりかねない問題ですので、だまって耐え続けるべきではないと思います。


● 「排泄(せつ)の失敗」に対応する方法
排泄(せつ)の失敗に多いパターンを例に失敗を減らすためのコツをいくつかご紹介します。

<認知症の方の排便誘導>
認知症の方は、「トイレで排泄(せつ)する」という行動そのものを忘れてしまう、便意を感じないまま垂れ流してしまうなどの症状が見られることがあります。
介護する方は、便意の兆候を読み取ってさり気なくトイレに誘導してみてください。
便意を明確に自覚できなくても、落ち着きがなくなる、機嫌が悪くなるといったサインがある場合が多いです。
兆候は人によって異なりますが、注意深く見ていると「これはお通じに行きたいんだな」とわかるようになると思います。
タイミングを逃さず、トイレに行って座ってもらう、便座に座ったり立ったりを繰り返してもらうなどすると、うまく出せることが多いです。
また、腸の動きが活発になる食後など、毎日決まったタイミングでトイレに行くのも有効な方法と言えます。

<排便後のおむつ交換>
あふれるほどの排便があったあとのおむつ交換は大変なものですが、準備を万全に整えて落ち着いて対応することが肝心です。
在宅介護では、ひとりでおむつ交換をしなくてはならないことが多いので、とにかく段取りが大事。
おむつ交換に必要なものは全て手元にそろえ、使用する順番や後始末のことを考慮して配置しましょう。
おむつを開けてしまうと、足りないものを取りに行ったり、探したりすることはできません。
新しいおむつは広げておく、ウエットティッシュのふたは開けておく、新聞紙やゴミ袋の口も広げておくなど、小さなことでも先回りして準備し、それぞれの配置も工夫すると、おむつ交換にかかる時間も手間がずいぶんかわります。
また、片方の手は清潔な状態を保つことが重要なポイント。
両手が汚れてしまうと、必要なものを取ることもできませんし、途中で動こうとする要介護者の方に対応することもできません。
私の場合は、手袋を両手につけてしまうと無意識に両手を使ってしまうので、片手は手袋をせず、「絶対にこっちの手は汚さない!」と意識していました。
片手を清潔に保つことを意識して、手袋をつける方の手には、複数枚かさねてつけておくなど、工夫しましょう。
利き手やベッドの配置にもよりますが、物を取る方の手は汚さないようにして、おむつ交換にチャレンジしてみてくださいね。


● 「これ以上はがんばれない」とSOSを出すことが大切
排泄(せつ)介助のコツを身につけても、介護者の方の精神的な負担が軽減されるわけではありませんよね。
ひとりで奮闘して在宅介護を維持している方もいますが、介護する人ががんばり続けることでしか維持できない介護は、いつか限界がきてしまいます。

医療や介護の専門家からは、「なるべくトイレで」「自然排便を促せるよう体調管理を」といった声もよく聞かれます。
確かにそのとおりなのですが、毎回汗だくで奮闘しているご家族からすれば、マニュアル的なアドバイスは救いにならないこともあるものです。
「こうあるべき」にしばられて、さらに追い詰められたように感じることもあるでしょう。

「排泄(せつ)介助が本当につらい」「これ以上は続けられない」ということがあるなら、それを言葉にしてケアマネジャーや訪問介護のスタッフに伝えてください。

「この間は大変だったのよ」と言うだけでは、手を差し伸べてはもらえません。
つい先程まで大変な思いをしていても、介護される方が清潔な状態になっていれば、それを見た周囲の人は「在宅介護をちゃんとやれている」と思ってしまいがちだからです。

「私にはもうできない」「助けてほしい」とはっきりと伝えましょう。
場合によっては、定期的に摘便をして排便をコントロールしたり、ショートステイやデイサービスを上手に利用してご家庭で排便に立ち会う機会を減らしたりする方法も考えられます。

在宅介護には、清潔な状態を保つことに必死になるより、もっと大切なことがあります。
それは一緒に歌うことかもしれませんし、目を合わせてコミュニケーションを取ることかもしれません。
排泄(せつ)の失敗で不機嫌になるより、穏やかな笑顔で向き合えるほうが、どれだけ介護生活を幸せにするかわかりません。

「汚いものの後始末をするのは家族の仕事」と勘違いして無理をしてしまう人が多いのですが、後始末は介護スタッフにもできることです。
ご家族には、つらさを我慢するより、幸せになることにエネルギーを費やしてください。

介護される方の尊厳や権利ばかりが語られがちですが、介護する方も「嫌なものは嫌」という権利はありますし、介護する人の尊厳も守られるべきだと私は思います。

排泄(せつ)の失敗を目にし続けることで、大切なパートナーや親への愛情や尊敬の念が損なわれるのは悲しいことです。
在宅介護においては、逃げないこと、直視することだけが解決策ではありません。
「やりたくない」と思うことを恥じなくても良いのです。
ご自身が限界を迎える前に、どうか私たちのような介護のプロにSOSを伝えてくださいね。

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