これって身体拘束(こうそく)?在宅介護で「してほしくないこと」を止めたいときの対応

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これって身体拘束(こうそく)?在宅介護で「してほしくないこと」を止めたいときの対応

こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。

身体拘束(こうそく)が必要なのか、3つの要件に照らし合わせて検討しましょう。「転倒の恐れがあるのに、車いすから立ち上がってしまう」
「認知症で徘徊(はいかい)の症状があり、家から勝手に出て行ってしまう」

在宅介護では、このような行動で、対応に悩んでいるご家族が少なくありません。
けがや命の危険がともなうとき、どのようにその行動を止めれば良いのでしょうか。

ご本人の意思に反して行動を抑制する行為は、「身体拘束(こうそく)」と呼ばれます。
高齢者ケアにおいては望ましくないこととされており、「安全のために、どこまで許されるのか?」在宅介護での判断が難しいところです。

今回は、介護家族を困らせる「してほしくないこと」にどう対応すれば良いかを考えます。
どのような行為が身体拘束(こうそく)にあたるのか、やむを得ない事情があるときはどう対応したら良いのかなど、わかりやすくまとめます。

「危ないから仕方ないんだけど、なんだか後ろめたい...」
在宅介護で、こんな思いを抱いたことがある方は、ぜひご参考にしてくださいね。

● 要介護者の尊厳を傷つける「身体拘束(こうそく)」とは何か?
「身体拘束(こうそく)」というと、身体を縛り付けるようなイメージがあるかもしれませんが、それだけではありません。厚生労働省が公表している「身体拘束(こうそく)ゼロの手引き」を参考に、身体拘束(こうそく)にあたる行為を具体的に挙げてみました。

・自分で降りられないようにベッドを柵(サイドレール)で囲む
・夜中に徘徊(はいかい)してしまうので、部屋の外側から鍵をかける
・肌をかきむしってしまうので、手にミトンを付ける
・車いすから立ち上がろうとするので、前にテーブルを寄せる
・興奮しているので、落ち着かせるために向精神薬を服用させる

転倒など大けがにつながりかねない行動を見たら、とっさにそれを止めることは、介護する側にとってはやむを得ないことのように思えますが、ご本人の意思に反して行動を抑制する行為は、すべて「身体拘束(こうそく)」に該当します。

「じゃあどうすればいいの?けがをしたら、もっと大変なことになるのに...」
「それでは介護する側はやってられないわ!」
そう感じるのもごもっともです。

問題提起されているのは、「安易に行動を止めることが、当たり前になっていないか?」という問いかけにほかなりません。

ご本人の意思による行動を止めることは、尊厳を傷つけること。
たとえ認知症の方であっても、「今、これをしたい」という意思があることには変わりません。
自分が思うようにできなければ、不安や怒りを感じ、ストレスも高まります。
それが、かえって拒否や抵抗につながることにもなるのです。


身体拘束(こうそく)をすれば、「してほしくないこと」を一時的に止めることはできるかもしれませんが、根本的な解決にはなりません。
なぜご本人はそれをしようとしたのかなど、原因を考えてみましょう。
原因がわかると、問題になる行動が起きる前に対応できたり、安全を守るために先回りして対策できたりしますので、「身体拘束(こうそく)」をする必要がなくなる場合もあります。


● 「身体拘束(こうそく)」がやむを得ないときもある
在宅介護では、「してほしくないこと」を止めなくてはいけないことがあると思います。
原因を取り除き、対策するのが理想ですが、介護家族からすれば、難しいこともあるものです。

「身体拘束(こうそく)がやむを得ない」と考えられる状況について、厚生労働省が示した3つの要件が参考になります。
介護や医療の現場では、「本当に身体拘束(こうそく)が必要か」を判断する際に、この3つの要件をしているか多職種間で協議して検討を重ねます。記録を残し、家族の同意を得るなど、さまざまな過程を踏まえたうえで、ようやく身体拘束の必要性が容認されるのです。

<身体拘束(こうそく)が認められる3つの要件>
(1)切迫性
ご本人、または周囲の人の命や身体が危険にさらされる可能性が高いこと。
(2)非代替性
身体拘束(こうそく)やその他の行動制限を行う以外の介護方法がないこと。
(3)一時性
危険を回避するための一時的な抑制であり、継続的に身体拘束(こうそく)をしないこと。

ご家庭においては、切迫した状況を切り抜けるために抑制してしまうことが少なくありませんが、「非代替性」や「一時性」についても念頭に置いておけば、より広い視野で対処方法を考えることができます。

ご家庭においては、切迫した状況で抑制してしまうことが少なくありませんが、非代替性や一時性についても念頭に置いておけば、より深く考えることができ、「この方法しかなかったんだ」と納得することができるのではないでしょうか。

また、介護される方ばかりではなく、ご自身のことも考えてください。
「してほしくない行動」のために、一瞬も目を離せず休息もままならなかったり、健康を害してしまったりすることがあれば、介護生活そのものが破綻してしまいます。
介護する方の健康や生活を守るために、「身体拘束(こうそく)がやむを得ない」こともあるでしょう。

介護される方の自由はどこまで尊重されるべきなのか。
そして、介護する方はどこまでがんばらなくてはならないか。

難しい問題ですが、ずっと我慢してばかりでは、いつかは限界がきてしまいます。
家族は対等なのですから、ときには介護される方に我慢してもらうことがあっても良いのです。


● 正解がないからこそ、第三者と考えることが救いになる
3つの要件をご紹介しましたが、実際のところ個人の判断では、「これはしても良いことなのか」「ほかに方法がないのか」を見極めるのは、非常に難しいことです。

「やむを得ないこと」と判断しても、後ろめたさを感じたり、後悔したりすることもあるでしょう。
一番近くで介護する方が、親戚やきょうだいから「なんてひどいことを」「虐待ではないか」などと責められてしまうケースも、在宅介護の現場で見てきました。

このようなつらい立場にならないためには、「身体拘束(こうそく)をせざるをえない状況」について、ひとりで抱え込むのではなく、ひとりでも多くの人に理解してもらうことが肝心です。

身体拘束(こうそく)するのか、しないのか。
複数の人と話せば、客観的に事象を整理できますし、論理的に結論を導き出すことができます。離れて暮らす家族や親戚はもちろん、訪問介護や訪問看護など、在宅サービスのスタッフとも状況の認識を共有すれば、より専門的な知見のもとに検討ができるでしょう。

介護される方の自由はどこまで尊重されるべきなのか。
介護する方はどこまでがんばらなくてはならないのか。

非常に難しいテーマです。
正解がないからこそ、多くの人の意見を聞き、プロセスを踏んで考えることが必要。
そして、関わった人すべてが問題を理解し、納得できる結論を見つけることが大切なのだと思います。

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