入浴を拒否する認知症の方にどう接すれば良い?

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入浴を拒否する認知症の方にどう接すれば良い?

こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。

浴室やお湯の温度、湯気など、いろいろな感覚に働きかけて入浴を促す方法もあります。在宅介護とお風呂」をテーマにお届けするシリーズとして、お風呂の効用や最適な入浴方法の見つけ方や、入浴を嫌がる方への対応入浴介助に役立つグッズと「ボディメカニクス」について、ご紹介してきました。

4回目となる今回は、認知症の方の入浴についてクローズアップします。
入浴を嫌がる方への対応は大変ですが、認知症の方の場合はより大変です。

「なんとかお風呂に入ってもらいたいけれど、言うことを聞いてくれない」
「強引にお風呂に入れていたら、ますます拒絶が激しくなってしまった」

このようなお話を在宅で介護をなさっているご家族から聞くことがよくあります。

認知症の方の場合、ご本人の意志に反して物事を進めることは、あまりおすすめできません。
心を閉ざしてしまったり、周辺症状の悪化を招いたりすることも考えられます。
とはいえ、あまり入浴しないと清潔を保てませんし、ご家族としては気になりますよね。

認知症の方に気持ち良くお風呂に入っていただくには、どうしたら良いのでしょうか。
今回は、その方法をまとめてみたいと思います。

● 認知症の方がお風呂に入りたくない理由
お風呂を嫌がる方には、「なぜ入りたくないか」の理由を聞いて、どうすれば入れるかを考えるのが大事だという話を以前もしました。

認知症の方もそれは同じ。
なぜ嫌がっているのかを知ることが重要です。

しかし、認知症の方の場合、言葉でうまく説明できないこともありますし、ご本人が口にしていることをご家族が理解できない場合もあると思います。
認知症の方によく見られる「お風呂を嫌がる理由」をあげてみましょう。

・着慣れた服を脱いで、裸になるのが不安
・「もう入った」などと記憶違いをしている
・お風呂を強制されることが不快、または嫌な記憶として残っている
・お風呂の入り方が思い出せず、次に何をするのかわからず困っている
・「お風呂」そのものの意味が理解できない

これらはいずれも、記憶障害や判断能力の低下、失行(物の使い方や、日常動作の手順や方法がわからなくなること)や失認(目の前の物や状況などが把握できなくなること)など、認知機能障害によるものです。

以前、「なぜそんなことをするの?「認知症」の方の行動と対応」というテーマでご紹介したこともありあすが、認知症の方のご家族はご本人の「わからない」ことが増える不安や、混乱している心の内を想像することが必要です。

小さな子どもと接する時のように、お風呂を拒絶したり、理解できないことを口にしたりしても、なるべく否定せず、そのまま受け止めてあげましょう。
たとえ間違ったことを主張しても、「そうだったの」「わかるよ」と肯定的な言葉を返してあげてください。
心が落ち着いて安心すると、気持ちが変わることもあります。


● 「お風呂」の伝え方を工夫する
「失行(身体の機能に異常がないのに、それまで当たり前にできていたこと(読み書きや服の着脱など)ができなくなる症状)」や「失認(目や耳などの感覚器に異常がないのに、まわりの状況を把握できなくなる症状)」 でお風呂そのものがわからなくなったり、入り方がわからなくなったりしている場合は、伝え方にちょっとした工夫が必要です。

私たちは「お風呂」と言われれば、脱衣所に行って、服を脱いで、浴室のドアをあけて、シャワーで体を流して...といった一連の入浴手順が体に染み付いています。
認知症の方の場合、その一連の手順がすっぽり抜け落ちてしまうことがあるため、「お風呂に入りましょう」では伝わりません。

次に何をするのか、何のためにそれをするのか、ひとつひとつの動作に対して丁寧に説明します。
お風呂に入るまでのさまざまなプロセスを一気に伝えるのではなく、短く区切って、その都度、次に何をするかを伝えること。
先がわからない不安をなるべく軽減してあげることが、認知症の方にスムーズに行動してもらうコツです。

また、目の前で見せて、肌や匂いでお風呂を感じていただくのも効果的です。
脱衣所に行っていきなり服を脱がせるのではなく、浴室のドアをあけて、温かい湯気があがる湯船を見せながら「お風呂が沸きましたよ。あたたまると気持ちが良いですよ」と伝えたり、湯船に手を入れてお湯の気持ち良さを感じてもらったりすると良いでしょう。

認知症の方は、知覚できる範囲が非常に狭いので、なるべく近くで見せてください。
そこまですると、ようやく「お風呂」が何かわかる方も多いのです。


● ご本人の「記憶スイッチ」を見つけると介助がスムーズになる
失行や失認の症状がある認知症の方に、日常行動を促すのは大変ですが、そこがやりがいのあるところでもあります。
記憶のスイッチがつながるポイントは、人それぞれ違います。

言葉で説明してわからなくても、「お風呂」と文字で書いて見せたり、絵や写真を見せたりすると思い出す方もいますし、ほかにもお気に入りのタオルやスポンジを持たせると何をする道具か思い出す方もいます。
お孫さんが「お風呂に入ろう」と声をかけると、昔の記憶がよみがえることもあるかもしれません。

「お風呂に入ろう」「入りたくない」というやり取りを毎日のように繰り返していたら、介護する側も疲弊してしまいます。
ひとつの進め方にこだわるのではなく、いろいろなアイデアを出してご本人の「記憶スイッチ」を探ってみましょう。
次の日は同じ方法ではうまくいかないこともあるのですが、あれこれトライすることを楽しむのも、介護を長く続けるポイントなのだと思います。


● 認知症の方の入浴介助で気をつけたいこと
認知症の方は不安の感情が大きいため、常に穏やかな表情で接することが非常に大事です。
また、入浴介助では体に触れることが多いですが、後ろから急に触ったり、上から腕をつかんだりすると、恐怖を与えてしまいます。
お風呂のように滑りやすい場所では、落ち着いて行動していただくためにも、介助する方に特に意識していただきたいところです。

認知症の方に触れるときは、ご本人の視界に入る位置まで近づき、必ず目をあわせてください。
上から見下ろすのではなく、正面、もしくは介助する方がやや見上げるくらいの位置だと、安心します。手や腕を取るときは、必ず下から優しく包み込むように触れましょう。

お母さんが小さな赤ちゃんに接するように。
優しく、大切に、入浴介助をしてみてください。

お互いに穏やかな気持ちで体が触れあえば、お風呂は不安な場所ではなく、気持ちが良い場所と認識していただけると思います。

介助するご家族は大変だと思いますが、少し意識を変えるだけで、認知症の方とのコミュニケーションがラクになる場合も多いのです。
結果的にお風呂がスムーズになるはずですので、ぜひ試してみてくださいね。

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