お風呂を嫌がる要介護者の方への対応

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お風呂を嫌がる要介護者の方への対応

こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。

無理に入浴を促すのではなく、どうして入りたくないのかを聞くことが大切です。前回から「在宅介護とお風呂」をテーマにお届けしています。
初回となる前回は、お風呂に入るのを楽しみにしている方が多いという話から、お風呂の効用や注意点について紹介しました。

しかし、実は在宅介護では、お風呂を拒否する方も少なくありません。
入浴介助はただでさえ苦労が多いのにお風呂に入ってほしいタイミングでスムーズに入ってもらえないと、ストレスが溜まりますよね。

そこで今回は、「お風呂に入るのを嫌がる方への対応」についてまとめます。
「言うことを聞いてくれない」「どうにもできない」という場合でも、解決の糸口はあるものです。
さまざまな介護現場でたくさんの方の入浴をお手伝いしてきた経験から、入浴に導くためのコツをお伝えします。

● お風呂に入りたくない理由を聞いてみる
「お風呂に入りたくない」という方には、必ず"入りたくない理由"があります。

しかし、介護する側は一日の中でしなければならないことがたくさんあり、「今、入浴させないと」「なんとしても入ってもらわなければ」という意識になりがちです。

お風呂を拒否されたときは、深呼吸をひとつ。
まず理由を聞いてみましょう。

「今日は入らないとだめ」「汚いから」などと否定的な言葉で行動を促すのは逆効果です。
理由がわかれば、お風呂に入ってもらうためのヒントが見つかるかもしれません。

たとえば、要介護の高齢者の方は、「おっくうだから入りたくない」とおっしゃることがあります。
そんなことを言われると、「こっちだって大変なのに!」と言いたくなってしまいますが、少し想像を巡らせてみましょう。

握力や筋肉が衰えると、服を脱ぐのも、浴槽をまたぐのも簡単ではありません。
少しバランスを崩せば転倒してしまうこともあり、お風呂場のように滑りやすい場所では身体も緊張します。

身体の動きが悪くなっているため、日常の動作にも私たち以上に活力を消費しているということです。「お風呂=大変」と感じて入りたくない気持ちになってしまうのも、無理はありません。

お風呂を拒否する理由として言われることが多い「おっくう」や「面倒」という言葉の背景には、いろいろな理由が含まれていると考えましょう。
体力が落ちてきて、入浴にともなう動作がつらくなってきているのかもしれません。
あるいは、たまたま疲れていてお風呂に入る気力が湧いてこないのかもしれません。
もしかしたら、介護するご家族に迷惑をかけたくなくて、強がりを言っているのかもしれません。

ご本人の心の中を想像して「なぜお風呂に入りたくないのか」「どうしたら入れるのか」という視点から、かける言葉や入浴のときに必要なサポートを考えてみてください。


● どうしたらお風呂に入りやすくなるかを考える
お風呂に入りたくない理由は人それぞれ。
理由に付き合うことが重要です。

入浴に必要な体力や身体機能が不十分で入りたくないのなら、手すりや滑り止めマットなどで安全な環境に整えたり、適切な介助をしたりすることで、入りやすくなります。
「手伝うから大丈夫だよ」「まかせて」などと声をかけてあげると、お風呂に入る気持ちになれるかもしれません。

服の脱ぎ着が大変なら、脱衣所にイスを用意して安定した姿勢で行うと良いと思います。
ご本人一人では難しい部分を手伝って、手際よく浴室に誘導してあげると、大変さを感じずに済むのではないでしょうか。
また着替えているときの肌寒さを嫌って敬遠する方もいらっしゃるので、脱衣所や浴室を暖めておくのが効果的です。

疲れている様子なら、「上は脱がなくてもいいから、おしもだけでもシャワーで流さない?」と持ちかけるのも良いでしょう。

これは私がよく使っていた方法で、「それくらいなら...」と聞き入れてくれる方が多かったです。
汚れやすいところを部分的に洗い流すだけでも清潔は保てますし、気分もさっぱりします。
シャワーで洗っているうちに、「やっぱり入ろうかな」という方も多く、湯船につかると「ああ気持ちがいい」とおっしゃいます。
「お風呂そのものが嫌いな方はあまりいない」というのが実感です。

家以外の場所のお風呂をすすめる方法もあります。
たとえば、デイサービスのお風呂や、地域にある福祉会館のお風呂などです。
気分も変わりますし、お風呂を楽しむ気持ちになれる場合もあります。

ご本人が妥協できるポイントを探して、「お風呂に入りたい」という気持ちになってもらえるよう導くのも、解決方法のひとつですね。


● 介助する人の価値観を押し付けていませんか?
たくさんの介護現場を経験して感じるのは、お風呂に対する価値観は人それぞれだということ。
ご本人と介護するご家族の意識が異なっていることも珍しくありません。

私たちはなんとなく「お風呂には毎日入るのが当たり前」になっていますが、ご高齢の方ですと、必ずしもそうではありません。
「毎日入るともったいない」と思っている方もいますし、「洗髪は週に一度で十分」という方もいます。
入浴の頻度だけではなく、好みのお湯の温度や入浴にかける時間も、人それぞれ違います。

お風呂に対する考え方や習慣は、その方の人生の中で長年かけて培われてきたもので、要介護になったからといって簡単に変わるものではありません。

介護する側の考えを一方的に押し付けてもうまくいかないのです。
ご本人の希望に耳を傾け、できるかぎり尊重することも、入浴をスムーズに進めるポイントだと思います。

どんなふうにお風呂に入りたいのか、ご本人が大切にしたいことは何か、じっくり話しを聞いて、
「それならお風呂に入ってみてもいいかな」と思って貰える、本人の折り合いどころを一緒に考えてみてはいかがでしょうか。
在宅介護では、介護者側のペースでものごとを進めてしまいがちですが、「入りたくない」と言うならそれも選択肢のひとつです。
入らないことで健康状態に差し障るなら少し無理をしても入っていただく必要がありますが、清潔を維持するのが目的なら身体を拭くことでも代替できますし、痛みのある部分を温めるのが目的なら、蒸しタオルなどで温める方法もあります。

お風呂に入ることだけがすべてではありません。
「今日は無理しなくてもいいか」という日をつくると、介護する側の気持ちも少しラクになりますよ。

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【関連ページ】
在宅介護の「お風呂」の効用と注意点

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