在宅介護の目標は「自立」だけではない?それぞれの幸せの見つけ方
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
動かない生活が続くことで身体の機能が衰える「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」や、在宅介護で無理なく「起きる」「座る」「立つ」を取り入れる方法などを紹介しました。
「なるべく動きましょう」
「動かないと身体がどんどん使えなくなりますよ」
このような言葉は在宅介護でよく聞かれますし、介護家族の方はそのことをよくご存じだと思いますが、ご本人にどうもやる気がない、がんばることに充実感がない...ということもありますよね。
そのようなときは、いまの介護生活の目標やリハビリのゴール設定を見つめ直す機会かもしれません。
がんばって自立した生活を目指すことが、必ずしもご本人にとっての幸せとは限りません。
では、在宅介護ではなにを目指して、どんな生活を送れば良いのでしょうか。
今回は、それぞれのご家庭のゴールの見つけ方や、介護する方、される方の両方が幸せになれる介護生活の作り方についてまとめます。
● トイレよりおむつが良いときもある?
在宅介護は、日常生活のなかで繰り返されています。
朝起きて、着替えて、ご飯を食べて...という当たり前の暮らしを自宅で継続し、できるだけ自立度を上げられるようサポートするのが介護の目的です。
要介護の方は、"当たり前の暮らし"を維持するのにもさまざまな困難があるので、理学療法士などのリハビリ職の方が、身体の状態を見てゴール設定をし、どんなサポートが必要なのかを見極めて、介護プランが作られています。
「家での歩行の自立」「トイレ動作の自立」などゴールは、あくまで身体機能の目標です。
その先に「どんな生活を送りたいのか」という視点が欠けていると、がんばる理由が見つからず、つらい思いをすることがあります。
たとえば、「トイレ動作の自立」をゴールに設定していても、トイレまで連れて行くには、ベッドから起こして、家のなかを移動して、トイレのドアを開けて...とさまざまなハードルがあります。
介助するご家族が大変なのはもちろんのこと、ご本人も相当のエネルギーを要することでしょう。
もちろん、「自分でトイレができるようになりたい」という目標を持っている方なら、困難があってもがんばることに意義を見いだせますし、支えるご家族もやりがいがあるでしょう。
しかし、「心穏やかに自宅で暮らしたい」というものだったらどうでしょうか。
トイレのたびに苦労して疲れをつのらせたり、失敗してイライラしたりするよりも、ベッドでおむつを使用した方が気持ちに余裕が生まれるかもしれません。
リハビリのために決められたゴールが、ご本人の最良の到達点とは限りません。
介護サービス側から提案されたことをそのまま受け入れるのではなく、「なにが本人にとって幸せなのか」を考えて目指すべき介護生活を見つけていただきたいと思います。
● 介護生活における「ゴール」は人それぞれ違います
介護生活で、ご本人にとって実現したいこと、絶対に譲れないことはなにでしょうか。
「自分で歩けるようになって、もう一度○○に行きたい」
という目標があるなら、歩行訓練や身体を動かす生活をサポートする介護サービスが必要ですね。「在宅介護に「夢」や「目標」を持ちましょう」というテーマで紹介しましたが、やりたいことや行ってみたいところなどがあることは、介護生活で大きなモチベーションになります。
楽しみが先にあることでがんばれたり、諦めていたことができるようになったりすることもあります。
一方で、介護するご家族にとっての目標を考えてみることも大事。
たとえば、「できるだけ長く、自分の手でお世話してあげたい」「最終的には自宅で看取ってあげたい」という思いがあるなら、ご家族の負担が少なく、無理なく継続可能な介護プランを考える必要があります。
介護する方が息切れしてしまっては、在宅介護は続けられません。
単純にご本人のADL(日常生活能力)を高めることが良いわけではなく、ご家族のキャパシティにあった介護を実現することが重要であり、最終的にはそれがご本人の幸せにつながると思うのです。在宅介護は赤点ギリギリでも、継続することが大事です。
介護生活で目指すゴールは、人それぞれ、ご家庭によって違います。
なにをいちばん大切にしたいのか。
そのために優先しなくてはならないことはなにか。
ご本人ともよく話し合って、ご自分たちだけの「介護のカタチ」を見つけましょう。
誰かにあわせたり、世間の常識で判断したりする必要はありません。
● リスクを知ったうえで介護サービスを取捨選択する
ケアマネジャーが提案する介護プランは、ご本人の身体のことを考えて作られています。
自立度を少しでも改善するために、医療的な見地から検討されていますので、そのまま受け入れている方が多いのではないでしょうか。
しかし、そこにご本人やご家族の希望が反映されていないことは、よくあること。
「どんな生活がしたいのか」をはっきりと伝えないと、望まない介護プランになっていることは少なくありません。
どんなに些細なことでも良いので、自分たちの希望はできるだけケアマネジャーをはじめ、介護サービス側のスタッフに伝えましょう。
不要だと思ったサービスは断ることも可能ですし、最終的にサービスを決定するのは利用者側です。
ただし、提案されたサービスを断る場合のリスクも知っておく必要があります。
リハビリの回数を減らせば、そのぶん廃用症候群(はいようしょうこうぐん:安静状態が長く続いたり活動性が低下することによって起こる、さまざまな心身の機能低下や症状)が進む可能性もありますし、寝たきりの方なら体位変換の回数を増やさなくてはならないかもしれません。
どんなリスクがあるかを知ったうえで、自分たちに必要な介護サービスを取捨選択できるのが理想です。
自分たちが目指す介護生活がどんなものかをしっかりと伝えれば、そのために必要なケアをリハビリ職や栄養士など専門家かきちんと教えてくれるはずです。
受け身ではなく、主体的に介護生活をデザインしてくことができれば、自分たちなりの「幸せ」にたどり着くことができると思います。
... ... ... ... ... ... ... ...
【関連ページ】
・在宅介護で無理なく「起きる」「座る」「立つ」を取り入れる方法
・在宅介護に「夢」や「目標」を持ちましょう
・目指す介護を実現するコツ
・良いケアマネジャーの選び方