[PTに聞く関節ケア(3)]拘縮(こうしゅく)予防のポイントは関節可動域のキープにあり!
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
理学療法士でセコムケアステーション鎌倉の所長でもある清莉絵子さんに聞く「関節ケア」シリーズ。今回のテーマは、「関節可動域」です。
関節可動域を維持できれば、拘縮(こうしゅく)リスクは軽減されます。
関節可動域維持のために意識したいことや、ご本人にがんばってもらうための家族の工夫など、日常生活に取り入れられる拘縮(こうしゅく)予防のポイントを聞きました。
【あわせて読みたい!シリーズ「PTに聞く関節ケア」】
・(1)「拘縮(こうしゅく)が起きるとどうなるの?」拘縮予防ケア
・(2)在宅介護でも簡単!関節トレーニングの方法
● 「ラクをしない」が関節の可動域維持のコツ
前回の関節ケアシリーズでは、「ラジオ体操」や「正しい姿勢で立つ・座る」などの動作を推奨しました。
関節可動域を維持するためには、ほかにも日常生活のなかでできることがいろいろあります。
コツは「普段よりもちょっとだけがんばる」ことだそう。
理学療法士の清さんに聞きました。
「なるべく動くことが関節を動かすトレーニングです。
でも痛いとか、億劫といった理由で日常の生活動作を敬遠されることがあります。
身体を動かさないと関節の可動域は狭くなる一方です。
介護するご家族は、なるべく手助けをせず、自分でやってもらうようにしてください。
身の回りのことはなるべく自分でする。
たとえば、服のボタンをとめる、クシで髪をとかす、サイドテーブルから物を取るなど、がんばれば自分でできることはきっとあるはずです。
ラクをし過ぎないことが関節のリハビリになります。
麻痺などで動きが不自由な方も、すべてを頼らずできるだけ自分でやってみると良いと思います」
本人に残された機能を活かすためには、「あえて手を出さないこと」も大事なリハビリのひとつ。
関節可動域を維持するためにも、無理のない範囲でがんばりを引き出したいところです。
● 少しだけ高いハードルを設定する
食事や排泄(はいせつ)といった毎日複数回ある介助でも、工夫によっては関節可動域のリハビリにつながります。
「慣れた日常の方法より少しだけハードルを高く設定してみましょう。
たとえば、ベッドをギャッジアップ(頭を挙げる機能のこと)して食事をしている方なら、端坐位(たんざい)での食事にチャレンジしてみる。
端坐位(たんざい)を取るためのベッドから足を下ろす一連の動作では、いろいろな関節をたくさん動かしますし、体幹を鍛えるリハビリにもなります。
端坐位(たんざい)が安定している方なら、ベッドを出て、伝い歩きや車いすで移動して食卓で食事をとってみる。
排泄(はいせつ)においても、ポータルトイレだけでなくトイレにチャレンジする。
1日1回でも良いので普段よりちょっとがんばる機会をつくると関節が使えます」
身体の衰えを防ぐためには、あえて苦労する方法を選ぶ場面も必要だということ。
ただし、ご本人の身体の状態や体調しだいなので、無理は禁物です。
安全に身体を動かし、関節を使う機会をどう増やせば良いのかは、理学療法士など専門家が教えてくれます。まずはケアマネジャーに相談すると良いでしょう。
● がんばりを引き出すには?
本人が「しんどい」と思っていることをがんばってもらうのは、なかなか難しいもの。
どのようにやる気を引き出せば良いか清さんに聞いてみました。
「ご本人のモチベーションは大切です。
がんばった先の楽しみが大切です。
おしゃれをすると気持ちが華やぎますよね。
介護では、着替えやケアがラクな前開きの服やパジャマを選びがちです。
でも本人がしてみたいおしゃれがあると思います。
たとえば女性ならおしゃれなデザインのブラウスやチュニックなどに、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
男性の方なら、Tシャツやポロシャツが良いですね。
丸首など、かぶって着る服は着替えが大変ですが、首や肩、腕などをたくさん動かすので、関節のトレーニングにはもってこい。
多少苦労しても着ることができれば、服を選ぶ自由が広がります。
整髪料や髪を整えたり、帽子をかぶったりする動作も、肩甲骨や腕を大きく動かします。
頭より上に手を上げることって、日常生活のなかではあんまりない動作です。
ある程度はサポートが必要かもしれませんが、立派な関節トレーニングになりますよ」
おしゃれをしたり、身だしなみを整えたりすると、びっくりするくらい生き生きと明るい表情になる方が少なくありません。
介護生活において、おしゃれは日常生活動作や認知機能にも影響があるとも言われています。
外出する機会や活動量が増えるきっかけになることもありますので、ぜひ取り入れたいですね。
● 高齢期の「現状維持」は努力なしでは成り立たない
清さんと話をするなかであるエピソードがありました。
「今の状態が維持できれば良いから、何もしたくない」という方は少なくないそうです。
清さんは言います。
「高齢になれば誰もが下りのエスカレーターに乗っているようなもの」。
「下りのエスカレーターで同じ位置に居続けようとしたら、自分で逆方向に上がって抗わないといけませんよね。
高齢期の身体はそれと同じ。
同じ状態を維持しようと思ったら抗う努力が必要で、何もしなければ下っていく一方です。
昨日と同じことをするためには、今日何かひとつでもがんばらなくては。
しんどいと思うことをしなくなれば、現状維持はできません。
明日も明後日も同じ力を保つために、ちょっとだけがんばる。
普段のことに加えて、何かをやってみることが大事だと思います」
「下りのエスカレーター」に乗りこんでいるのは、高齢者だけではなく、介護する側の年代も同じ。
筋力や体力のピークを過ぎたら、「自分も下りのエスカレーターに乗っている」と自覚すべきなのかもしれません。
元気なときから積極的に身体を動かして、関節の可動域をキープしたいですね。
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