[PTに聞く関節ケア(4)]関節の柔らかさを保つと介護生活が変わる
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
理学療法士でセコムケアステーション鎌倉の所長でもある清莉絵子さんに聞く「関節ケア」シリーズ。今回のテーマは、「関節可動域とQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活や人生の質)」です。
前回は、関節可動域をキープする方法をまとめました。
継続は簡単なものではありませんよね。
関節可動域を保つことは大切なことです。
今回は、QOLの観点で話を聞きました。
【あわせて読みたい!シリーズ「PTに聞く関節ケア」】
・(1)「拘縮(こうしゅく)が起きるとどうなるの?」拘縮予防ケア
・(2)在宅介護でも簡単!関節トレーニングの方法
・(3)拘縮(こうしゅく)予防のポイントは関節可動域のキープにあり!
●関節の柔らかさはQOLに直結している
拘縮(こうしゅく)が全身に及ぶと、体位を変えてもギャッチアップしても体は硬く縮こまったまま。
座ることもできず、ベッドに横たわっているほかありません。
拘縮(こうしゅく)が進めば、着替えやおむつ替えの苦労は増し、本人にとって大変な苦痛です。
理学療法士である清さんが言います。
「拘縮(こうしゅく)がある方の介護はただでさえ大変ですし、けがも怖いですよね。
ご本人も痛がるので、やってあげられることが制限されます。
動かなければますます拘縮(こうしゅく)は進行し、もっと動けなくなる。
ADL(日常生活動作)がどんどん低下する悪循環に陥ってしまいます。
ベッド上で過ごすしかない毎日は、QOL(生活や人生の質)の観点からも問題です。
自分らしく、充実した生活とは言いにくいでしょう」
関節可動域がどれくらい保たれているかは、在宅介護のQOLに深くかかわることです。
よく「寝たきりにならないように足腰を鍛えましょう」と言いますが、それよりも「寝たきりにならないよう関節を柔らかく保ちましょう」というべきなのかもしれません。
●座るための関節可動域を保つ
「筋力が衰えて自力で動くのが困難でも、大事な関節を動かせる状態ならQOLも変わってきます」と清さん。
ポイントは、「座る姿勢ができるかどうか」だそうです。
「寝ているときと座っているときでは、見えるものがぜんぜん違いますよね。
座ると視界が大きく広がるので、まず気分が変わります。
座れるだけの足腰の関節可動域が保たれていれば、車いすで移動することもできますよね。
トイレでの排泄(はいせつ)、食卓での食事はもちろん、外出もできるわけです。
ご本人がやりたいこと、ご家族がやってあげたいことが実現する可能性が広がります。
座る機会を増やせば、座位を維持する筋力も自然と鍛えられるもの。
少しでも自分で力を入れられる筋力があれば、介護負担も違います。
おむつ交換や車いすに移乗するときなどに、ご自分でちょっと体重移動してもらえるだけでも、介護する側がとてもラクになるのです」
介護する側がラクならば、気持ちや時間のゆとりができます。
座るための可動域を確保できるかどうかは、ご本人のQOLはもちろん介護者のQOLにも影響するということです。
座位を保つことはとても大切。
座位は、股関節や膝、足首や足の指の関節など、下半身の関節をたくさん使っています。
今は不自由なく座位を取れる方も、座位に必要な関節の可動域を維持すること、柔らかく保つことを意識したいものです。
●将来の自分と家族のために、介護者も関節を柔らかく
関節ケアが大切なのは、要介護者だけではありません。
「年齢を重ねて活動量が減れば、どうしても関節が硬くなってしまいます。
立つのも座るのもひと苦労という身体状態になってしまってからでは、関節を柔らかくするのも容易ではありません。
大切なのは、元気に動けるときからの関節ケアの積み重ねです。
介護する側の方にも、ご自身の関節可動域を意識した生活をおすすめしたいですね。
もし将来、自分に拘縮(こうしゅく)が起きたら?と想像してみてください。
介護される立場になっても自分らしい生き方をするためにも、介護してくれる家族の負担を少なくするためにも、自分の身体を維持するという考えも大事だと思うのです。
関節の動きを意識しながら、たくさん歩く。
座りっぱなしにならないよう、ときどき立って身体を動かす。
全身の関節を動かすにはラジオ体操がおすすめです。
日々の積み重ねがあれば、要介護になるのを防げるかもしれませんし、介護する側の負担が少ない関節可動域の貯金ができるかもしれません。
今のうちから、関節を意識した生活を送ってみてくださいね」
将来、介護される立場になるかもしれないのは、誰もが同じです。
それを意識しているかいないかで、日々の生活も変わってくるかもしれませんね。
【あわせて読みたい!関連コラム】
■在宅介護でも簡単!関節トレーニングの方法
介護する側の方にもやっていただきたい、簡単で負担の少ない関節トレーニングを紹介しています。
■自分らしい「死」とは「生」とは
介護は人生勉強の場。
「介護される立場」になったことをイメージすることが、自分らしい生き方を見つける助けになってくれるかもしれません。