寝たきりで意思疎通困難でも口から食べられるようになる、「胃ろうが介護家族にくれたもの」

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寝たきりで意思疎通困難でも口から食べられるようになる、「胃ろうが介護家族にくれたもの」

こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。

再び口から食事をするための準備を周到に進めましょう。チューブで胃に直接栄養を送り込む「胃ろう」。
胃ろうを造設すると、たとえ食べ物を飲み込む力が残されていなくても、生命を維持するために必要な栄養を安全に摂ることが可能になります。

胃ろうを勧められるケースでは、要介護度が高く、意思表示が困難な方も多く、その決定はご家族に託されることが少なくありません。
「胃ろうが本人にとって幸せなことなのだろうか?」と葛藤する介護家族の方もいらっしゃるでしょう。

在宅介護のカタチは、人それぞれ。
胃ろうの是非にも正解はありません。

今回も、長年自宅介護を続けているセコムシニア倶楽部 鎌倉の管理者 下城睦さんに話を聞きます。
自宅介護でお母様に胃ろうを造設して約20年。
その間、介護者である下城さんは何を見て、何を感じてきたのでしょうか。


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● 胃ろうは「おなかに口があるだけ」
「胃ろう」のリアルをセコムシニア倶楽部 鎌倉の管理者下城睦さんに聞きました。要介護度は重い「5」。
医師から胃ろうを勧められたとき、下城さんもどうすべきか悩んだと言います。

「本人にどうしたいか聞くことができないので、決めるのは私。
迷いはありましたが、ある人から聞いた『胃ろうはおなかに口があいているだけ』という言葉がきっかけで、胃ろうを決意しました。

おなかに口があるだけなのだから、チューブにさえ詰まらなければ、何でも食べさせてあげられる。
私が母に食べさせたいものをあげることができる。
そう思ったら、すっと迷いが晴れました」と下城さん。

「胃ろう用の栄養剤以外に、私たちが飲むスープやおみそ汁を入れたり、おいしいヨーグルトドリンクや野菜ジュースを入れたり。
お酒が好きな母だったので、体調が良いときにワインをあげたこともあります。
ただし、胃に入れたものは風味が口腔(こうくう)にあがってくるので、栄養さえあれば何でも良いとは思いません。

胃ろうで十分な栄養を摂れるようになってからは、ふっくらして表情も出てきて、見違えるほど。
人のカラダは栄養ひとつでこんなに変わるんだと驚きました」

家族と同じメニューを、胃ろうを通じて食べさせてあげられる。
目に見えて身体の状態が良くなってくる。
下城さんにとって、大きな喜びだったと言います。

チューブに詰まらせないためにミキサーにかけるなどのひと手間が必要なものもありますが、「誤嚥(ごえん)を心配しながらの食事介助より、手間や苦労ははるかに少ない」そうです。


● 「10年胃ろう栄養だけ」でも、再び口から食事を楽しめるように
胃ろうをしてから10年ほどはチューブからの栄養のみだったそうですが、あるときヘルパーさんが「お母さん、口から食べたいんじゃないかしら?」とつぶやいたそう。
このひと言をきっかけに、口からの食事に挑戦することになります。

「10年間も口から食べていなかったので、無理だろうと思っていました。
しかし、医師や言語聴覚士、訪問ヘルパーなど、いろいろな方が一丸となって、『きっとできるはず!』とサポートしてくれました。
おかげで、寝たきりでずっと胃ろうだった母が、本当に口から食べることができるようになったんです。

最初はふどうゼリー。
少しずつ訓練して、昼食はすべて口から食べられるくらいまで嚥下(えんげ)機能が改善しました。もちろん無理はさせられませんが、体調があまり良くない日でもプリンやヨーグルトなら口から食べることができるんですよ」

ヘルパーさんのつぶやきからはじまった挑戦。
「口から食べたがっているなんて私には思いもよらなかった」と下城さんは振り返ります。

「家族だけではここまでできなかったと思います。
専門家の手を借りて訓練を続ければ、身体は応えてくれるんです。
母のことながら『人間ってすごいな』としみじみ思います」と言います。

寝たきりで要介護5でも、強い思いがあれば進歩することができる。
下城さんのケースは、ご本人の強い意志と、サポートする周囲の思いが結実した成果でしょう。
これに限らず、私も介護の現場でそんな奇跡を何度か目にしてきました。
人生の終末期にさしかかっても、新しい発見や喜びはあるのだということを教えてくれます。


● 胃ろうで口からの食事を実現するプロセス
鼻からチューブを通す経鼻栄養と違って、口から食事も可能なのは、胃ろうの大きなメリットです。
必要な栄養はしっかり胃ろうからとり、少しでもいいので好きなものを口から楽しむことができます。

在宅介護では、「食の楽しみ」が活力になり、生きがいにもつながります。
好きなものを食べられる喜びは、ご本人らしい生き方を支えてもくれるはずです。

ただし、胃ろうをしている方は嚥下(えんげ)機能に問題があるため、素人の判断で安易に口から食べさせるのは危険。専門家の力を借りて、現在の嚥下(えんげ)の機能を診てもらったうえで訓練をおこなうことが欠かせません。

下城さんのアドバイスによると、
「病院で嚥下(えんげ)機能の検査をおこなってください。
どの程度、嚥下(えんげ)機能が残されているのか、どれくらいのものなら嚥下(えんげ)できるのかなど、きちんと把握したうえで、嚥下(えんげ)の専門家の協力を得て少しずつ進めていきましょう。摂食嚥下(えんげ)には医師、歯科医、看護師、言語聴覚士、栄養士などさまざまな分野に知識をもったエキスパートが存在します。

在宅介護の一環として進めていくには、『口から食べられるようになる』という目標を踏まえたケアプランが必要です。まずはケアマネジャーに相談」すると良いとのことです。

食事を通じたコミュニケーションは今も続いています。

「おいしいものを食べると、明らかに目の色が変わるんです。
倒れる前は、ワインとチョコレートの組み合わせや、こってりした洋食など、ハイカラな好みでした。
いちばんのヒットは、娘がつくったチョコレートアイスと、手作りのレバーペーストですね。

栄養は胃ろうで摂れるので、口からの食事は心からおいしいと感じてくれるものをあげたい。
喜ぶ母の顔が見られることは本当にうれしいですし、つくりがいがあります。
再び母とこういう時間が持つことができたのは、胃ろうのおかげだと思っています」

胃ろうを「自然に逆らう延命措置」ととらえるのか。
それとも「残された時間を自分らしく生きる手段のひとつ」ととらえるのか。
人それぞれ考え方は異なりますし、置かれた状況や受け入れる側の環境なども異なるので、一概に良し悪しを語れるものではありません。

しかし、何かしてあげたいことがあるという考えを持っていらっしゃる方にとっては、胃ろうがその助けになることもあるのではないでしょうか。
胃ろうの要介護者を支える介護家族の実話が、どなたかひとりでも参考になれば幸いです。

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