在宅介護で知っておきたい「薬」の基礎知識
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
「在宅介護と薬」をテーマにお届けしてきたシリーズの第3弾。
最終回となる今回は、「知っているようで知らない薬の基礎知識」について掘り下げます。
引き続き、在宅療養における薬の管理に詳しいセコム医療システムの岡田和晃(かずあき)薬剤師にお話を聞きました。
前回は、介護が必要となった方のお悩みに多い飲み忘れや服薬管理をテーマにお届けしましたが、薬の「飲みにくさ」も難しい問題のひとつです。
在宅療養の現場では服薬(ふくやく:薬を飲むこと)介助に当たる方が工夫を重ねていると思いますが、岡田薬剤師は、「間違った飲み方をすると、期待する効果が得られないばかりか、副作用がでてしまうこともあります」と言います。
薬をうまく飲めず、いつも服薬に苦労している場合、どんな対処方法があるのでしょうか。
在宅療養環境の現場を知る薬剤師ならではのアドバイスを参考に、効果的な対策をまとめます。
● 「砕いてはいけない」薬もある
年齢を重ねると、口の周りの筋力や、飲みこむ力が低下するため、食べ物や薬が口に残ったり、のどに詰まったりしやすくなり、誤嚥(ごえん)性肺炎などのリスクがともなうようになります。
服薬介助は、介護のプロでも苦労することが多いものです。
薬を飲ませる際の注意点や工夫について、岡田薬剤師はこう話します。
「薬を飲みやすくするために、薬を砕いたり、粉薬をゼリーやアイスクリームに混ぜたり...といった工夫をされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
薬は、飲み込みさえすれば効果が発揮されるというものではありません。形状を変えても効き目は変わらないように思われるかもしれませんが、実は『砕いて飲んではいけない薬』があるのです。
一見、同じように見える丸い錠剤でも、体内の適切な場所で最大限効果が発揮できるように、それぞれにさまざまな工夫がされています。
例えば体内でゆっくり表面から順番に溶けるような加工がしてある錠剤を砕いたり、割って小さくしてしまったりすると、体内の予期せぬ場所で、急に薬が溶け出し、そのために、思わぬ副作用が出てしまうことがあります。
胃酸で薬の効果が無くならないように、特殊なコーティングが施してある錠剤の中には、砕いてしまうと効果が出ないものもあります。
ご自身の判断で錠剤の形を変えてしまうことは、治療の効果に影響を与えてしまうこともあるので、注意が必要です。
どういった特徴がある薬なのか、薬をもらうときに薬剤師に質問してみてください。
また、『粉薬なら飲めそう』『錠剤の方が飲めそう』など、薬の形状で飲みやすさが変わるようなら、状況をありのまま、かかりつけの薬剤師に話してみてください。
薬の形状だけでなく、いつ、どんなふうに飲んでいるかなどの服薬の状況もあわせて薬剤師に伝えることで、適切な支援を受けられるようになると思います」
● ジェネリック医薬品で服薬がラクになる!?
介護が必要となった方では、錠剤だけではなく、粉薬やカプセルも飲み込むのが難しいことがあります。
粉薬は口の中で散らばってむせてしまいがちですし、カプセルは口の中の乾燥のために、口の中にはり付いてしまうことがあります。
服薬前に水分をとり、口の中を潤わせることで飲みやすくなったり、お薬用のゼリーに混ぜたりすることで、誤嚥(ごえん)のリスクは軽減できます。
けれども、どんなに工夫しても薬を飲むのが苦痛という方はいらっしゃいます。
私も介助するご家族が苦労している姿をたくさん見てきました。服薬時の苦痛を解消する方法はないのでしょうか。
「まずは、薬が飲みにくいことを薬剤師に相談してみてください。
たとえば、ジェネリック医薬品の中には、既存の医薬品のデメリット部分を改善して、販売されているものがあります。既存の医薬品が錠剤の形状しかなかったとしても、ジェネリック医薬品では、形状などが改良されて、服用しやすくなっている場合があります。
ジェネリック医薬品については、『効き目が悪いのではないか』『品質が悪いのではないか』というイメージを持っている方も多いですが、実際はそうではありません。ジェネリック医薬品に変えることで、服薬がラクになる可能性もあります。
まずは現状の困っていること、気になっていることを、薬剤師に伝えてみてください。
飲み薬だけではなく、塗り薬などの外用薬も同様です。ジェネリック医薬品では、においや軟膏の硬さなどが改良されて、より使いやすくなっているものもたくさんあります。
ジェネリック医薬品が不安だという方は、薬剤師に何が違うのかをしっかり聞けば、安心できると思いますよ」
● 薬そのものを減らす方法もある
介護が必要となった方は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病や認知症などの薬を何種類も服用している場合が多いものです。
1日3回の服薬は、ご本人にとっても介助する方にとっても負担が大きくなりがちです。
服薬はある程度時間が決まっているものですので、予定通りにものごとが進まない日にはストレスもたまります。その解消法について岡田薬剤師はこう話します。
「ひとつ考えられるのは、服薬の回数そのものを減らしてもらう方法です。
最近の薬の製剤技術は飛躍的に進歩しているので、1日2回、あるいは1回に変更できる場合もあります。
また、薬そのものを見直して、本当に必要なものだけに絞る方法も考えられます。薬のことで気になることがある際は、身近な薬剤師に相談してください」
大変なことがあるなら、専門家に相談してラクにする方法を考える。
在宅介護のキホンともいえることですね。
服薬の回数が減ると気持ちのゆとりを持つことができると思います。
時間や気持ちの「ゆとり」は、在宅介護がうまくいくポイントのひとつです。
「苦労しながら是が非でも薬を飲むことが大事なのではありません。
今の生活のなかで、いかに薬と折り合いをつけていくかが重要なのです。
どうすれば無理なく、正しく薬を飲み続けていくことができるのか、まずはその方法を見つけましょう。
私たち薬剤師は、ご本人やご家庭の事情も伺いながら実行可能な方法を考えてサポートします」
(岡田薬剤師)
在宅療養における薬の付き合い方のヒントが見つかったような気がします。
皆さんもぜひ、薬剤師さんに薬のお悩みを話して、具体的な対策を見つけてくださいね。
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