転倒事故を防ぐために介護家族ができること
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。転倒事故は、高齢者や介護が必要な方が注意しなくてはいけないことのひとつです。運動機能が衰えているので、思いがけないときに転んでしまうリスクが高いのです。
住み慣れた家の中でもちょっとした段差につまずいたり、バランスを崩したりしやすく、見守るご家族も気にかけていらっしゃることでしょう。
対策としてよく言われるのは、家の中の段差をなくしたり手すりを取り付けたりする「バリアフリー化」ですが、それだけでは転倒事故を防げません。
介護をしているご家族は、転倒事故を防ぐためにどんなことに注意すればいいのでしょうか。
今回は、転倒が起きやすい状況と事故防止のポイントをまとめます。
● 誰でも「転ぶリスク」はある
実は、転倒のリスクは、子どもからご年配の方まで誰にでもあります。元気な若者でも転んだ経験がない人はいないでしょう。その中で、高齢者の転倒が問題視されるのは、転んだあとのダメージが大きいためです。
歳を重ねると体の柔軟性や運動神経が衰えて、とっさに身をかわす、手が前に出るなどの身体を守る動作が難しくなります。さらに骨など体のつくりも弱くなっているため、若いときならば、すり傷程度で済むような場合でも、大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)骨折や頭部打撲による脳へのダメージなど、深刻な怪我につながりやすいのです。ちょっとした転倒をきっかけに、寝たきりになったり、命に関わる症状があらわれたりすることも少なくありません。
介護にあたっていると、介護を受ける方の足元の不安定さにハラハラする場面が多々あるでしょう。「転んで怪我をしたら、寝たきりになる」ということもよく言われますので「絶対に転ばせてはいけない」と懸命に介護にあたっている方も多いと思います。
転ぶリスクは誰にでもどこにでもあるものです。かといって、介護者の方が切れ目なく注意を払い続けるのも難しいことです。大切なのは、転びやすい状況を知って、安全と自立のバランスを取って適切にサポートすることだと思います。
● 高齢者の方が転びやすいのはこんなとき
ひとくちに「高齢者の転倒」と言っても、転び方や転びやすい状況は人それぞれ違います。
たとえば、安全のために滑りにくい床にしたつもりが、すり足で歩く方にとっては、かえって、つまずきやすくなってしまうこともあります。
また、身体に麻痺(まひ)のある方ですと、歩く際にバランスを崩しやすいですし、足の筋力が衰えている方ですと、ガクッと膝折れしてしまうことが多いようです。
ご本人の状態や歩き方、動き方をよく観察し、把握すると、どんな時に転びやすいのか、わかる場合があります。
「足が上らず、つまずく」「膝がたたなくなる」というようなよくある原因のほかに、日常生活の中で高齢者の方の転倒が起きやすい場面をまとめてみました。
>座っている姿勢から立ち上がるとき
立ち上がりは、高齢者の方がバランスを崩しやすい瞬間です。
座っていてお尻と両足の三点でバランスを保った状態から、立ち上がろうと重心が前方に移動するため、倒れやすくなります。車から降りるときなども、重心の大きな移動が必要ですから転倒しやすいです。
>後ろから声をかけられたとき
振り向こうとして転倒してしまうことは、体のバランスが取りにくい高齢者にはよくあることです。
歩行中はもちろん、座っていても同様です。振り向いて立ち上がろうとして転んでしまうこともあります。
声をかけるときは、必ずその方が体勢を変えなくても良い方向から、近くまで行ってからにしましょう。
>ドアをあける、トイレのふたをあけるなどしたとき
何かを引いたり、持ち上げたりする動作は、転倒事故の危険がつきまといます。
例えば、ドアを手前に引く動作。体を後ろにかわさなければ、ドアは開かず、目的の場所に出入りできません。前に進むのに比べ、後ろへ向かっての重心移動はバランスを崩しやすいのです。
ドアはなるべくあけたままにする、洋式トイレのふたは閉めないなど、ご家族も協力して習慣化することで、転倒のリスクを減らせると思います。
>歩きながら別のことをしようとしたとき
歩きながらカーディガンをはおる、両手に物を持って移動するなど、若いときは当たり前にやっていた行動が転倒につながることがあります。人は腕をふることで微妙なバランスを取って動いています。手がふさがれることでバランスがとりづらく、転倒のリスクが増すのです。また、万が一バランスを崩したときにどこかにつかまったり、手をついたりができず、事故につながります。
なるべく歩くことだけに集中し、手はフリーにしてあげましょう。
歩行中に急に話しかけることも、できれば避けたほうが安全です。
また、同じ姿勢でいた時間が長いほど、次の動きに移るときに注意が必要です。起きぬけの動作、座っていた後の立ちあがりや歩きだしなど、行動が切り替わる時は要注意です。
「一拍おいてから」次の行動に移したり、足踏みをするなど、身体をならしてから動き出すとよいでしょう。
● 転倒リスクを減らす生活スタイルを考える
転倒のリスクを減らすためには、日常生活での「転びやすい場面」をなくすことが有効です。
先ほどお話しした、ドアや洋式トイレのふたをあけておくことは、今すぐできる対策のひとつです。
食事中に何度も立ち上がらなくて済むよう、食卓に炊飯器やポットなど、必要なものをすべて整えておく、枕元にも必要なものすべて置いておくというのも、転倒予防対策につながります。
生活の中から無駄な動きや無駄な移動を少なくすること。
ラクをすることも、転倒リスクを減らすことになります。
足元やつかまる場所を整えることだけが転倒予防対策ではありません。
家の中でご本人が効率的な生活動作ができるように、身のまわりを少しずつ変えてみてはいかがでしょうか。
以前の記事 「在宅療養での住環境の整え方とは?」も参考になさってください。
それでも、どんなに気をつけていても、100%、転倒を防ぐとこはできません。
もちろん、転倒を予防することは大事なのですが、すべてを防ぐことが不可能なことも知っておいてください。
「転んではだめですよ。寝たきりになりますよ」という言葉をよく耳にします。そう聞くと、介護者は「絶対転ばせてはいけない。転ばせてしまったら、私の責任」という気分になりがちです。
でも、もし、転倒事故が起きてしまっても、ご自分を責めることは決してしないでくださいね。
皆でどんなに一生懸命がんばっても、転倒事故が起きることもあるのです。
そのことを認識し、転んでしまったらどうなる?どうする?ということをイメージしたり、話し合ったりすることも大事なことだと思います。