胃ろうをする?しない?判断に迷ったとき答えを導き出す方法
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
在宅介護で「胃ろう」をすると、どのような影響があるのか、胃ろうの是非には賛否両論あり、人それぞれ考え方が違います。
胃ろうに対してマイナスのイメージを抱いている方は少なくありません。
しかし、胃ろうによって、体力が回復して口からも食べられるようになることもありますし、食事介助の苦労や誤嚥(ごえん)の心配から解放されて、在宅介護で穏やかな時間を過ごせるようになったケースもあります。
胃ろうについて考えるときは、メリット、デメリットも様々、ご本人や家族、そのほか取り巻く人々の意見も様々で方針検定が紛糾することがよくあります。
では、胃ろうを造設するかどうかで迷ったとき、どのように結論を導き出せば良いのでしょうか。
正解はありませんが、ご本人やご家族が納得できる選択肢を見つける方法はあります。
「四分割法」の手法を用いながら、さまざまな意見や考えを整理していく方法をまとめます。
● 「臨床倫理の四分割法」で状況を整理
「臨床倫理の四分割法」は、医療や介護の現場で、医師や看護師、リハ職など、多職種がご家族を交えて治療方針を話し合う際などに、よく使われる手法です。
用紙を十字に区切って4つ枠をつくり、4つの立場からの意見や情報を埋めていきます。
在宅介護で四分割法を活用する場合、以下のような視点で行います。
(1)医学的適応
医師による診断や予後、治療の目的と目標、治療による弊害、在宅で可能な医療サービスなど。
(2)本人の意向
本人による意思表示(本人が望むこと・望まないことなど)、生活のなかで大切にしているもの、価値観など。
意思表示が難しい場合は、本人に代わって判断や決定を委ねられている人の意見。
(3)QOL<クオリティ・オブ・ライフ>
客観的に見た人としての生活の質。
治療によって元の生活に戻る可能性、回復したことで享受できる身体的、精神的、社会的な利益など。
(4)周囲の状況
家族の事情、経済的な問題、介護や医療などサポート側の状況など。
記載していく情報は、現状で明らかになっている「事実」のみを選別し、個人の「価値観」に基づく意見は混ぜないことが大切。
たとえば、同じような状態の要介護の方に、胃ろうを造設したときの予後がどうなったか。
医師による客観的な情報やデータがあれば、それは「事実」になります。
しかし、「胃ろうは延命措置で良くないもの」という意見は、人それぞれ異なる「価値観」によるもので、すべての人に共通する「事実」ではありません。
この点に気を付けて4つの枠を埋めていくと、客観的に判断するための「事実」のみが羅列され、わかりやすく整理された一覧表になります。どこの枠に何をいれるかに細かくこだわらず、できるだけ沢山の「事実」を埋めましょう。埋めるものがないということは判断をするための情報が足りないということです。本人の意思をしっかり聞き取ったり、医師の説明を確かめるなど、できるだけ沢山の情報を埋めていきましょう。
● 胃ろうをすべき?「四分割法」のケーススタディ
では、実際に四分割法を使って、胃ろうにするかどうかを考えてみましょう。
<胃ろうのケーススタディ>
87歳男性。
この1年で誤嚥(ごえん)性肺炎により2度入院。
退院1カ月後に再び誤嚥(ごえん)して窒息状態になり、救急搬送される。
主治医から胃ろうを勧められる。
(1)医学的適応
・脳梗塞により左半身麻痺、認知機能の低下が見られ、嚥下(えんげ)障害も進行している。
・嚥下(えんげ)障害により慢性的な低栄養状態。点滴による水分補給を行っている。
・とろみづけやペースト食など食事の工夫は限界状態で、今後も肺炎再発や窒息のリスクが高い。
・将来的にも経口摂取で必要量に相当する栄養と水分を摂ることは困難。
(2)本人の意向
・胃ろう造設を拒否していないが、認知機能が低下しているため、明確な意思を確認できない。
・以前「延命治療はしたくない」と言っていた。
・以前は食べることが好きだったが、誤嚥(ごえん)を繰り返しているうちに、食べるのを嫌がるようになった。
(3)QOL
・胃ろうによる経管栄養を実施した場合、栄養状態が改善し、与薬も確実にできるため、ADL(日常生活動作)が回復する可能性がある。
・体力やADLが改善すれば、経口摂取で「食べること」を楽しむこともできる。
・3カ月後に孫の結婚式を控えている。
(4)周囲の状況
・家族は長男と長女。長男夫婦が同居し、長女は結婚して隣町に住んでいる。
・主たる介護者である長男は胃ろう造設を望んでいるが、普段介護を行っている長男の妻は、胃ろうの管理はできないと言っている。
・長女が実家を訪問できるのは月に2~3回程度。胃ろうについては「延命治療に反対していたのだから、ほとんど寝たきりで経管栄養で命をつなぐのは不本意なはず」と否定的。
・胃ろうにした場合、施設への入居も検討しているが、胃ろうに対応している施設が見つかっていないためケアマネジャーと相談中。
● 四分割法で「気づき」を発見し、より良い選択をする
このように四分割法でそれぞれの視点で書き出していくと、問題がどこにあるのか、判断するためにどんな情報が不足しているのかなどが見えてきます。
たとえば、ご本人が「延命治療はしたくない」と言っていたことに関して、現在の病状で胃ろうを造設することは、果たして延命措置にあたるのでしょうか。
回復可能性があり、予後に希望があるなら、「積極的な治療」と言う考え方ができるかもしれません。主治医による詳しい話を聞いてみた方が良いでしょう。
また、長男の妻が「胃ろうの管理ができない」と言っているのは、なぜでしょうか。
その根拠を探っていくと、当事者である家族同士で妥協すべきところや、解決方法が見えてくる可能性もあります。
四分割法の良いところは、家族同士が自分の意見をぶつけ合うだけで進展しなかった議論が、医師の見解など、客観的な視点が加わることによって、冷静な判断ができるようになることです。
また、問題がどこにあり、どうすればひとつの意見でまとまるのかなど、具体的な課題に気づくこともできます。
本人の意思や支える周囲の状況がわかりやすく整理されていれば、主治医に相談するときも、建設的な話し合いができるでしょう。
胃ろうについて、否定的な意見を持つ人もいれば、必要な治療だと考える人もいて、当然です。
どちらかが正しくて、どちらかが間違っているわけではありません。
ですから、相手を説き伏せようとすれば、話し合いは紛糾し、何を選択してもしがらみや後悔が残ってしまいがちです。
ぜひ四分割法を活用して、事実に基づく情報を整理してみてください。その経緯の中で皆が冷静に自分たちの想いを整理できるようになるといいですね。
背中を押してくれる「何か」がきっと見つかるはずです。