在宅介護をやっかいにする「介護家族間の感情のぶつかり合い」を避ける方法

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在宅介護をやっかいにする「介護家族間の感情のぶつかり合い」を避ける方法

こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。

本人にとっての最良を話し合うと選択肢が整理されます。親の介護方針の話し合いで家族ともめて、険悪になってしまった...。
このような経験がある方少なくありません。

冷静に話し合うことができれば、それに越したことはありませんが、実際はつい感情的になってしまうことがあります。
前回は論理的により良い選択をするために役立つ「ロジカルシンキング」の考え方をご紹介しました。

ロジカルシンキングの手法はいろいろありますが、考えるべきポイントを押さえて枠組みに落とし込んでいけば、課題の明確化、解決しやすい形となり、比較的誰でも取り組めると思います。

今回は、医療の現場などでも用いられるロジカルシンキングの手法を、在宅介護でよくあるお悩みを例に取り上げながら、わかりやすくまとめます。

● 在宅介護の方針を決めるロジカルシンキングのポイント
在宅介護において、何をするか・どのようにするかを決めるとき、家族の言い分が食い違うことは、よくあります。
冷静に話し合うために、「紙に書き出す」ことが大切であることを前回、ご紹介しました。
個人的な感情や想像を交えず、事実を羅列していくと、何が問題なのかが見えてきます。

このとき、話し合いをしている家族の視点だけを書き出しても、十分ではありません。

誰のための介護なのか。
その介護は本当に実現することが可能なのか。

在宅介護は、ご本人の意向や支えるご家族の事情だけでは成り立ちません。

理想ではなく、現実的な結論を導き出すためには、多方面からの視点が必要です。
医師やケアマネジャーなど、医療・介護の専門家の見解も確認しましょう。

たとえば、かかりつけ医に意見を聞くと、医学的な見地から、現在の病状、治療方法や治療した場合のリスクやベネフィット、回復可能性などを教えてくれるはずです。
ケアマネジャーなら、自立支援につながるケアプランの選択肢、ご家族の事情を踏まえた対処方法の選択肢などを示してもらえるでしょう。

何度も家族会議をしているのに、議論が堂々巡りで、先に進めない。
このようなときは、身内の意見だけの閉塞的な話し合いになっている可能性があります。
議論が平行線を辿っているとき、風穴を開けてくれるのが専門家の意見です。
情報の幅と質が高まり、より良い選択肢が見つかることも考えられます。
介護方針を決めるときには、ご本人、ご家族のどちらにも寄らない専門的かつ客観的な意見を取り入れることが大切なポイントです。


● 4つの視点で思考を整理する「四分割法」
医療の現場では、医師や看護師など多職種がご家族を交えて治療方針を話し合う場を設けることがあります。
このときよく使われるのが「臨床倫理の四分割法」と呼ばれる手法です。
以下の4軸を用いてそれぞれの見解を埋めて、集まった情報を整理していきます。
シンプルでわかりやすいので、在宅介護の方針を決める際にも応用できます。

(1)医学的適応
医師による診断や予後、治療の目的と目標、治療による弊害、在宅で可能な医療サービスなど。

(2)本人の意向
本人による意思表示(本人が望むこと・望まないことなど)、生活のなかで大切にしているもの、価値観など。
意思表示が難しい場合は、本人に代わって判断や決定を委ねられている人の意見。

(3)QOL<クオリティ・オブ・ライフ>
客観的に見た人としての生活の質。
治療によって元の生活に戻る可能性、回復したことで享受できる身体的、精神的、社会的な利益など。

(4)周囲の状況
家族の事情、経済的な問題、介護や医療などサポート側の状況など。

なるべく多くの情報や意見を集め、それぞれの軸に当てはまる要素を書き出していきます。
家族で話し合うだけでは気づかない事実や問題も明らかになり、誰が見ても同じように状況を理解できることが大きなメリット。

これを基に「本人にとって最も良い選択は何か」を話し合うと、それぞれが自分の主張をぶつけ合うだけの堂々巡りの議論にはならないはずです。


● ロジカルシンキングで考えてみよう<在宅介護ケーススタディ>
【臨床倫理の四分割法の実践:ケース1】
要介護度1で歩行が不安定な85歳の男性。
外に行きたがるが、介助者が毎回ついていくことが難しい。ひとりで外出させるか否か。

(1)医学的適応
・脳梗塞で左半身に麻痺がある
・杖を使えば歩行は可能だが、方向転換や段差の上り下りは介助なしでは困難
・歩くことは運動機能や認知機能に良い影響をもたらす
・状況によっては転倒する危険性が高く、骨折した場合、年齢的に手術は難しい

(2)本人の意向
・好きなときに外に行きたい
・ひとりになる時間が欲しい
・家族に世話をかけたくない
・家のなかに居続けるとストレスがたまる

(3)QOL
・行動を制約されないことが本人らしい生き方につながる
・自由に外出できれば、人の手を借りず自立した生活を継続でき、本人の満足度があがる
・転倒して車いすになった場合、本人の意向をかなえられなくなる可能性がある

(4)周囲の状況
・妻が主たる介護者だが、近所に住む娘も介護を手伝っている
・妻はひとりで外出させたくないが、自身も膝が悪く、ついていくことができない
・娘もひとりでの外出には反対だが、仕事があり、週末しか実家に来られない
・週2回の訪問介護(入浴介助)と、週2回の通所介護を利用している

【臨床倫理の四分割法の実践:ケース2】
認知症で在宅介護を受けている96歳の女性。
体調を崩して経口摂取が難しくなり、廃用症候群(生活不活発病)が進む。入院させるべきか否か。

(1)医学的適応
・認知症で意思疎通は困難
・要介護度5で高血圧と心不全の基礎疾患もある
・低栄養により内臓機能も低下し、ほぼ寝たきり状態
・入院治療した場合、回復の可能性は五分五分

(2)本人の意向(代わりに判断・決定する家族の意見)
・以前「病院は嫌い。家に帰りたい」と言っていた
・食べることが大好きで、体調を崩す前は食欲旺盛だった
・食事を口に運ぶと、食べようとする意思を見せる
・自分で起き上がろうとするなど、行動する意思を見せる

(3)QOL
・在宅医療を選択すると、家族の負担が大きい
・同居する息子は仕事があり、病院と同じようなケアは難しい
・入院治療すれば、回復してまた食事がとれるようになる可能性がある
・入院治療しても回復しない可能性もあり、その場合、自宅に帰れなくなる

(4)周囲の状況
・介護者(同居)である長男は入院させず、自宅で静かに過ごさせたい
・遠方に住む長女と次女は、入院治療して体調の回復をしてほしいと主張
・ケアマネジャーと訪問看護師は「衰弱が進行しているため、入院治療するなら一刻も早い方が良いが、自宅にいる場合はケアプランの変更が必要」との意見


ケースを参考にご自身に当てはめて考えてみてください。
個人の感情は排除して、「事実」のみを選別して書き出していくことが重要です。
意見が少ない項目があれば、「ここの視点が欠けていたね」と気づくこともできます。

もちろん、これだけで結論が出るわけではありません。
この段階では、答えが出なくても良いのです。
まずは、モヤモヤしたものを整理して明確にすることを目的に取り組んでみてください。

バラバラな立場のご家族が、客観的事実を共有すること。
そのうえで、家族で頭をひねって「どうするのが一番、良いのか」を考えること。
このプロセスに意義があります。

ご本人やご家族が意見の食い違いで悩んだとき、どうしたら良いかわからないとき、ロジカルシンキングの考え方をぜひ思い出してくださいね。

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