「ねばならない」より「まあいいか」。気持ちがラクになる在宅介護のススメ
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。認知症の方の在宅介護でよく聞くお悩み「介護拒否」。
前回は、してもらいたいこと、受け入れてもらいたいことを拒絶されたとき、どのように対応すれば良いのかをまとめました。
(1)それは本当に問題なのか
(2)どうしてそれが問題なのか
(3)誰にとっての問題なのか
(4)行動(拒否)によって何を伝えようとしているのか
(5)他の方法で解決できないか
前回は、この5つの思考パターンを活用すれば、在宅介護はもっとラクになるとお伝えしました。
ご本人が嫌がっていることを強制したり、あきらめたりすることでは、問題は解決できません。
介護する方も、される方も、ストレスがたまり、在宅介護の生活そのものがつらくなってしまいます。
そんな状況に陥らないために、違う視点から見てみることが大切です。
今回は、介護するご家族がイライラから開放され、穏やかな気持ちで介護にあたるための「心の整理方法」を具体的にまとめます。
● 「ねばならない」にとらわれると介護はつらくなる
在宅介護では、ともすれば個人の価値観や考えにとらわれがち。
「こうするのが当たり前」と思っていることが、少し見方を変えると、実はやらなくても良いことであることもあるものです。
たとえば、家が散らかっているケース。
ものをため込み、整理整頓もできず、家中が散らかっている認知症の方は少なくありません。
家族が散らかった状態を片付けようとして拒否されれば、とても困ってしまいますよね。
「片付けたい」家族と、散らかっていても「気にならない」ご本人。
それぞれの価値観が相入れない状態は、在宅介護では大変です。
しかし、ご本人が問題なく暮らしているのであれば、受け入れてしまっても問題ありません。
家が散らかっているのは、ご家族にとっての気がかりであり、家族から見た【問題】ではないでしょうか。
もちろん衛生面の心配や転倒事故のリスクなど、現実的な問題はあります。
それならば、食事をするテーブルだけ消毒しておくとか、よく通る場所のものだけどかすとか、最小限の「片付け」で問題を解消することも可能です。
「住居は清潔に保たねばならない」との固執が、掃除や整理整頓を拒否されたときの憤りにつながりかねません。受け入れてもらおうと思えば思うほど、疲弊は増します。
そのようなときは、一息つきましょう。
「まあ、いいか」と思考を変えれば、肩の力が抜けます。
拒否されるのは問題なのか?
誰にとっての問題なのか?
「ねばならない」と考えるよりも「まあ、いいか」。
イライラしたら、深呼吸をひとつして、本当にそれをする必要があるのか冷静に考えてみましょう。
自分の価値観や思い込み、固執した考えを手放すと、「ねばならない」が減り、「まあ、いいか」が増えることに気づくと思います。
● 「自分のため」にしてほしいこともある
在宅介護生活のなかには、「まあ、いいか」で済ませられないこともあります。
無理に割り切って、介護する方がいつも我慢する状況では、"気持ちがラクになる介護"とは言えません。
ご本人にとって問題ではなくても、介護する方が「なんとしてもやってもらわなくては困る」という状況もあります。
たとえば、今日はどうしてもデイサービスに行ってくれないと困るのだけど、ご本人は「行きたくない」と言っているようなとき。
行きたくない気持ちを理解することは大事ですが、介護するご家族の思いも同じくらい大事。
あなたのために、一緒に暮らす家族のために、多少我慢してでもやってもらうという選択肢もあって良いはずです。
ひとつ注意点があります。
説得を試みるなかでご本人のためだからという理由で説得するのはやめたほうが良いです。
「いろいろな人と話せるよ」
「お風呂も入れてもらえるよ」
「行ったらきっと楽しいから」
など、ご本人のためであるかのような説得ではうまくいかないものです。
介護する側の都合や本音を隠しながら説得しても行きたくない気持ちが変わることはないでしょう。
デイサービスに行かないことは、誰にとって問題なのか?
それは、あなたです。介護している家族です。介護する側の問題で良いのです。
たとえば介護に疲れているケースでは、「私が休みたいから、デイサービスに行ってきて」と伝えると受け入れてくれることがあります。
「私がデイサービスに行けば、娘が休めるのね」と納得し、デイサービスに行くことを受け入れた認知症の方を、私は実際に見てきました。親として、子を思う気持ちは変わらずにあるということです。
受け入れてくれたら、「ありがとう」と感謝して送り出すこともできますし、帰ってきたときも、優しい気持ちで接することができるのではないでしょうか。
デイサービスだけではありません。
お風呂や食事、服薬など、日常の介護にも置き換えることができます。
● どうにもならない「拒否」をひとりで抱え込まないで
「〇〇してくれると、私が助かる」という伝え方をすると受け入れてもらえるケースは少なくありません。
「家族の願いをかなえてあげた」「頼られている」「自分にもまだできることがある」という認識が自信につながり、落ち着きや明るさを取り戻すきっかけになることもあります。
認知症になってしまったことで「家族に迷惑をかけている」「申し訳ない」という思いを持っている方も少なくないので、いまの自分にできる役割を見いだせることは、良いことです。
認知症によって、できなくなってしまったこと、わからなくなってしまったことが増えても、誰かを思いやる気持ちや親心は残っているのだと信じてください。
一方で、認知症の方の介護は、きれいごとばかりではないのも確かです。
いつもは嫌がらないのに、日によっては人が変わったように拒否する...ということもあります。
何を言っても聞く耳を持たない、暴力や暴言で会話にならないなど、猛烈な拒否になすすべがなく、疲れ果てている方もあるでしょう。
そんなときは、どうかひとりで抱え込まないでください。
ケアマネジャーや訪問ヘルパーなど、身近で話しやすい人に相談するのが、解決の早道。
経験豊富な介護の専門家ですので、どうしたら言うことを聞いてくれるのか、どうしても受け入れてもらえないときの代替案など、いろいろなアイデアを持っています。
利用している在宅介護サービスのメンバー全員で状況を共有し、いろいろな意見を取り入れながら妥協点を見つけていくのが理想です。
あなたを支えてくれる人は、必ずいます。
何でも相談できる味方をひとりでも多く見つけましょう。
それが介護する方の気持ちをラクにするいちばんのコツだと信じています。
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【認知症の方の「拒否」について関連するページ】
・在宅介護で認知症の方の「拒否」にどう対応する?
・在宅介護で認知症の方の介護拒否に困ったときのヒント