外出することをあきらめない
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
前回は、在宅介護で「外に出る」ことの大切さと、閉じこもりがちな方に対してどうやって外出を促すかということをテーマにまとめました。
要介護でも、自分で歩くことができる、あるいは杖や車いすを使って移動ができる方なら、付き添いや介助の方がいれば外出ができます。
しかし、なかには身体を動かす機能が失われて、寝たきり状態で在宅介護生活を送っている方もいます。
あるいは、人工呼吸器など医療器具を使用している方、持病で定期的な医療ケアが欠かせない方などもいます。
「このような状態で、散歩したり買い物に行ったりできるわけがない」と思うご家族もいらっしゃるかもしれません。
けれども、「できない」と思い込んで外出をあきらめてしまうのは、もったいない。
どのような身体の状態でも、外出は可能です。
今回は、訪問看護師としてたくさんの外出支援をしてきた私の経験も交えながら、寝たきりの方の外出についてご紹介します。
● 大切なのは「外出をあきらめない」こと
要介護度の高い方や、医療依存度が高い方を介護しているご家庭では、「外出はできない」と思い込んでいるケースが多く見られます。
「動けないから」「人工呼吸器だから」といった身体面の理由や、「玄関や廊下が狭くて、車いすやストレッチャーが通れない」「身体が重くて外に運び出すことができない」など、住環境や介助する家族の事情などから「外出できない」と思ってしまうことは無理ないことです。
しかし、どんな身体の状態でも、どんな住環境でも、「外出は絶対に不可能」ということはありません。
私は、過去にいろいろなご家庭に伺って外出をサポートしてきました。
「外に行きたい」というご本人の思いや、ご家族の「連れて行ってあげたい」という気持ちがあれば、どんな事情があってもなんとかなる、というのが私の実感です。
車いすが入れない家から、体重80kgの全身まひの方を外に連れ出して、お買い物に行ったこともありますし、人工呼吸器で自分ではほとんど動くことができない方と、プロ野球観戦に行ったこともあります。
1年ぶりに外に出ることができた方が「外の空気はおいしいね」としみじみ、嬉しそうにおっしゃったことが忘れられません。
あきらめていたことがもう一度できた喜びは、在宅介護において何にもかえがたいものだと思います。
いちばん大切なのは、外出をあきらめない気持ち。
「できない」のではなく、「実現するためにどうするか」という方向に意識を向けることが、外出の第一歩になるはずです。
● 外に出るために必要なのは「チームワーク」
もちろん、動けない方や医療依存度が高い方の外出は、簡単なことではありません。
外に出られないのは何がネックになっているのか、外出後にどんなリスクが考えられるのか、どれくらい費用がかかるのかなど、専門家の視点でさまざまな検討を重ね、準備する必要があります。
訪問ヘルパーや訪問看護師、主治医など、さまざまな専門家と相談しながら、外出に向けて進めていくことになります。
私が経験した外出支援では、福祉用具の専門家に相談して特殊なストレッチャーを用意してもらったり、理学療法士と相談して玄関ではなく掃き出し窓から外に出す方法を考えたりしました。
家の外の階段がネックになるお宅も多いのですが、いろいろなやり方で解決できるものです。
専門家が知恵を集め、工夫して力を合わせれば、なんとか手段が見つかります。
同じご家庭の介護に関わっているメンバーは、専門分野は違ってもチームのようなものです。
「外出」という目標を最初から否定する者はいませんし、「なんとか実現しよう!」と気持ちをひとつにして進んでいるときは、大きなパワーを発揮します。
まずはご本人やご家族から「外出したい」という気持ちを伝えることが必要です。
途方もないように思えても、やってみなければわかりません。
まずはケアマネジャーや訪問ヘルパーなど、普段からよくコミュニケーションを取る人に話してみると良いでしょう。
介護保険の範囲での介助が難しければ、民間のサービスなどを活用する提案もしてもらえるはずです。
最近は、外出を専門にした介護サービスなどもあるようですので、そうした情報を聞くことができるかもしれません。
私たち介護に関わる者は、皆さんの夢や目標のお手伝いをさせていただくことを、大きな喜びにしています。やってみたいことがあるなら、どんなことでも声をかけていただきたいのです。
● いざというときのためにも「外出手段」の確保を
普段寝たきりの方や人工呼吸器を付けている方は、「こんな姿で外出なんて...」というためらいもあるかもしれません。もちろんそのような気持ちへの配慮は必要ですが、実際に外に出てみるとためらいより嬉しさや楽しさが勝って、イキイキとする方が多いように思います。
私が知っている限り、一度外出すると「また行きたい」と積極的になる方がほとんどで、定期的な外出が定着したり、行動範囲が広がったりすることにもつながっているようです。
家の中にいれば、平穏で安心ですが、何も変化はありません。
けれども勇気を出して外に出れば、きっと何かがあります。
良いことばかりではなく、ときには失敗もあるかもしれませんが、その経験を糧にしてまた次の外出につなげればいいのです。
また外出に挑戦することは、非常時の備えにもなります。
自然災害や火事などで家から避難する事態は、いつ訪れるかわかりません。
シミュレーションだけでは、いざというときに本当に家から出られるのか心配です。
家から外に出る方法を考えて、実際にやってみることが役立ちます。
何もないときにこそ、あきらめずに外に出ることを考えてみていただきたいと思います。
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