「生きる力」を目覚めさせる!元気になる介護生活のつくり方
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
今回のテーマは「元気になる介護」。
介護保険制度における介護の本質は、自分でできる力を引き出し、高めていくことにあります。
「どうすればご本人がそれをできるようになるか」を考えたケア、すなわち「自立支援介護」が求められているのです。
今日よりも明日、明日よりも明後日、もっとレベルアップできるようなサポートを継続的に行って、心も身体もいきいきした状態に近づけなくては、自立支援になりません。
「自立支援介護=元気になるための介護」と考えてみたいと思います。
元気になるための介護とは、具体的にどのようなことをすれば良いのでしょうか。
「元気になる介護」について、株式会社アライブメディケアのアライブ世田谷下馬で自立支援を推進している中村優さんにポイントを聞きました。
● 元気になるために必要な4つのケアとは
大学院で自立支援介護を専門にする研究者でもある中村優さん。
ご自身が関わる介護施設でも自立支援介護を実践し、多くの利用者が回復を遂げる姿を目の当たりにされてきました。
まずは、自立支援介護の方法について聞いてみました。
「人間が生きていくなかで必要不可欠な要素を、基本的なケアとして取り入れています。
やることは非常にシンプルです。
水分、栄養、運動、排せつ。
この4つを基本のケアとして実践します。
これらは密接に影響しあっているので、ひとつがクリアできれば、連鎖してどんどん元気になっていくことが期待できます。
水分・栄養が満たされていれば、運動に必要な元気がつき、運動をすれば自然排便につながる。
日中の生活が健康的なら、質の良い睡眠が取れるようになりますので、相乗効果でどんどん元気になっていくという仕組みです」と中村さん。
続けて、「4つの基本ケア」ついて、中村さんの言葉を借りて解説します。
【ポイント1】水分を1日1500ml摂取する
「水分ですが、ご高齢の要介護者の方は、水分が十分摂れていないことが多く、常に脱水のような状態になっています。
必要な水分量を毎日摂取していると、それだけで便秘が改善したり、ぼーっとしていた方がシャッキリしたりと、目に見えて変化があらわれてきます」
【ポイント2】1日1500キロカロリーを普通食で摂取する
「栄養不足の状態が改善されると身体に力が入り、表情もいきいきしてきます。
普通食であることがポイント。水分の多いミキサー食やペースト食で1500キロカロリーを摂取しようと思うと、山盛り食べなくてはなりませんし、腸内で栄養が吸収される前に排せつされてしまいます。
普通食が食べられるようになると、効率よく栄養が摂取でき、咀嚼することも脳や身体への刺激になって、心身が活性化してきます」
【ポイント3】1日30分身体を動かす
「運動は、歩行訓練が望ましいとされていますが、残された身体機能にあわせて日常のなかで身体を動かす機会を取り入れていくだけでも、だんだん運動能力が上がっていきます。
たとえば、食事のときに正しい姿勢で座ったり、着替えやトイレのときに立位を保ったりすることも、運動のうち。
意識すれば、どんな方でも日常生活のなかで身体を使う機会をつくることは可能です」
【ポイント4】トイレに座って自然排便をうながす
「トイレでの排せつは介護で目標とされることのひとつですが、実はそれほど難しいことではありません。
水分・栄養摂取、運動が習慣化されると、規則的な排便がうながされ、自分でトイレまで行き、座っていきむ力もついてきます。
トイレでの自立排せつだけを目標にすると大変ですが、プロセスをきちんと踏めば、自然排便が可能になり、おむつも下剤も不要になるのです」
中村さんが実践する「4つの基本ケア」は、生きるための「基礎」の部分を整えるサポートだということです。
「危ないから」「できないから」と手伝ったり、やわらかいものばかり食べさせたり...といった介護が元気になる機会を損なってしまうことなのかもしれません。
● 4つの基本ケアでこんなに変わる!在宅と施設の事例
4つの基本ケアの実践が「元気になる介護」のはじまりだということです。
中村さんの経験談を紹介しましょう。
「祖母が在宅で生活していた時のことです。
祖母が認知症になったとき、施設への入居も考えていたのですが、まずは自宅で水分を1日1500ml摂ることからはじめてみました。
最初はそれだけの量を飲むことに慣れていないため、計測の習慣をつけたり、飲むタイミングや飲む物を工夫したりと苦労がありましたが、すぐに慣れました。
加えて、子どもたちと散歩に行くことを毎日続けていたら、意識がしっかりしてきて、会話ができるくらいまで回復しました」。
水分ケアは在宅介護でも取り入れやすく、比較的早く効果の実感が期待できます。
中村さんによると、1週間くらい水分ケアを続ければ、便秘の改善にもつながるそうです。
さらに、食事のケアでのこんな事例も紹介してくれました。
「施設での例ですが、ターミナルケアで入居している利用者様にも変化がありました。
食事があまり摂れない状態です。大好きだというチョコレートなら食べてくれました。
チョコレートは高カロリーなので栄養摂取に適しています。好きなだけ食べていただいて、他の栄養をゼリーで補いながら1500キロカロリーを摂っていただくようにしました。
すると、だんだん普通食が食べられるようになり、調子が良いときは自分の足で歩けるようになったのです。トイレにも行けるようになり...4つの基本ケアの目標を全部クリアできました。
医師から「もうターミナルではない」と言われたときはびっくりしましたが、このような事例はたくさんあります」。
きっかけは水分だったり、食事だったり。
4つの基本ケアから、まずはひとつ、チャレンジしてみましょう。
「ひとつの歯車があって、それが回りだしたら他の歯車も連鎖して回りだす。
そんなイメージですね。どれからはじめるかは、ご家族の状況やご本人しだい。
水分でも運動でも良いですが、目標をクリアするためにどうしたら良いかを考え、工夫しながら実践し続けることです。どんどんできることが広がっていきますよ」。
● いきいきすると薬も不要になる?
4つの基本ケアを実践しながら、中村さんは施設内で減薬、薬を減らす取り組みを続けているそうです。
「4つのケアが足りていないことが原因で、病気として扱われてしまうことが、世の中にはたくさんあるのではないかと、私は考えているんです。
水分不足による脱水が続くと、せん妄など意識障害を引き起こします。
それが認知症と診断されて服薬している方も多いようです。
実際、毎日1500ml水分を摂ることで、認知症とされていた症状が改善した方をたくさん見てきました。
膝が痛いと言えばお医者さんは痛み止めを処方しますが、歩く機会を増やしたら膝の痛みがなくなった方もいます。
食事や運動などで生活を整えれば、夜ぐっすり眠れるようになって睡眠薬がいらなくなる。
ご自身の生きる力を高めることで、不要になる薬もたくさんあるのではないでしょうか」。
中村さんの減薬の取り組みにより、薬代を大幅に減らした実績もあるのだとか。
高齢化で医療費が膨らみ続けている日本の財政事情を考えても、生きる力を引き出す「4つの基本ケア」は救世主になるかもしれませんね。
次回は、「水分摂取」「栄養摂取」「運動」「排せつ」それぞれのケアの具体的な方法について紹介します。
在宅介護ですぐに実践できるヒントがたくさんありました。
ぜひ次回をお楽しみに。