高齢者虐待の事例から考える介護家族の葛藤
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」は、高齢者だけではなく「養護者※(介護者)も救うための法律」です。
虐待は決して許されない行為ですが、単純に「虐待=悪」と決めつけては問題の本質を見誤ってしまいます。
今回は、実際にあった高齢者虐待の事例をまとめました。
どの事例にも、介護者自身の複雑な事情や葛藤が隠れています。
在宅介護でいら立つ自分に苦しむ人
「このままでは虐待してしまいかねない」
このような感情に葛藤する人は決して少なくありません。
介護家族がどうすれば「虐待しかねないつらい状況」から救われるのか、少しでも救いの道が見えてくることを願っています。
● 高齢者虐待の事例
【事例1「Kさんの場合」】
・Kさんへの虐待事例
Kさんは家の離れにひとりで住んでいて、自力で外出することはできません。
同居している長男家族は、普段からKさんの生活空間を訪れることはほとんどなく、冷蔵庫にはいわゆる「ねこまんま」程度の簡易な食事が置かれているだけ。
デイサービスや訪問介護の導入も長男家族の拒否により進んでいません。
・Kさんの長男がかかえる事情
元気だったころのKさんは家族を顧みず放蕩(ほうとう)の限りを尽くしたそう。
長男には、Kさんへの怒りがあります。
長男は、Kさんがつくった借金返済に苦労しており、親子関係を修復するのは容易ではありません。
【事例2「Rさんの場合」】
・Rさんへの虐待事例
元美容師として成功をおさめたRさん。
現在、息子と二人暮らしです。
認知症の症状が進むにつれて、つじつまのあわない言動が増え、息子がそれを厳しくとがめるようになりました。
言い争いが、取っ組みあいのけんかになることさえあります。
食事を残すと「好き嫌いをするな」との理由で、次の食事を提供しません。
息子は「デイサービスは贅沢だ」という理由で拒否しています。
・Rさんの息子がかかえる事情
親であるRさんは若いころ、美容師として成功を収めた方です。
幼少期に親から十分な愛情が受けられなかった過去がありました。
自身のネグレクト体験が心に深く影響を与え、葛藤をかかえる原因になっているのかもしれません。
● 虐待が生まれる背景
どのような事情があっても、虐待は虐待です。
「親にこんなにひどいことをするなんて...」と心を痛める方もいるでしょう。
しかし高齢者虐待が増加傾向にあるのもまた事実です。
「虐待=悪」とばかりにしていては解決しないものもあるのだと思います。
なぜ虐待が起きたのか
どうしたら防げたのか
虐待した側の立場に立って過去を掘り下げてみることも必要ではないでしょうか。
親子間での介護には、過去の複雑な親子の関係性が絡み、容易には解決しがたい問題が隠れていることが多々あります。
「なぜ今になって自分が面倒をみなくてはならないのか」
「あんな目にあったのに、なぜ要介護になったからといって優しくしなくてはならないのか」
人間ならば、このような気持ちになることがあってもおかしくはありません。
許しがたい感情は残るでしょう。許したところで「苦しんだ過去の自分」は救われないでしょう。
虐待を否定するだけでは問題は解決できないものだと思います。
● 「虐待してしまいそうな自分」を救う方法
そもそも介護は理不尽です。
多かれ少なかれ「なぜ私が...」という思いは誰にでもあるものだと思います。
自分でも制御しがたい怒りと、それでも介護をまっとうしようとする責任感。
相いれない感情との間で揺れ動き、ギリギリのところで親と向きあっている人も少なくないのです。
「親に優しくできない」
「もう介護なんてしたくない」
声に出して伝えてください。
ひとりでがんばらないでください。
在宅介護はチームでおこなうものです。
SOSをキャッチするのも、私たち介護のプロの仕事。
多くの専門家が一丸となって解決方法を考えます。
ショートステイをフルにして利用して、顔をあわせる時間を極力減らす方法もあります。
介護者が同居せずに、在宅介護を受ける方法もあります。
施設入居を選ぶことも、選択肢のひとつでしょう。
たとえ息子、娘であっても、親のために自分の人生を犠牲する必要はないと私は考えます。
複雑な思いをかかえながら自己犠牲を強いるような選択は、結果的に誰も幸せにしません。
深刻な虐待に発展してしまう前に「介護をしない」「親から離れる」選択があって良いはずです。
虐待しかねないほど追い詰められたご自分を、どうか否定しないでください。
距離が必要な親子関係もあります。
あなたは、そこから離れることもできるのです。
耐えられないくらい現状がつらくなったとき、どうかこのことを思い出してください。
※養護者とは
「高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等以外のもの」とされており、金銭の管理、食事や介護などの世話、自宅の鍵の管理など、何らかの世話をしている者が該当すると考えられます。また、同居していなくても、現に身辺の世話をしている親族・知人等が養護者に該当する場合があります。 <引用:厚生労働省「高齢者虐待防止の基本」>
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