入れ歯と食事の大切な関係
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
80歳になっても自分の歯を20本以上維持できるのが理想ですが、実際はそれよりも少ない高齢者が少なくありません。
厚生労働省によれば、後期高齢者(75歳以上)の平均残歯は16本。
約3割の方が総入れ歯だそうです。
「入れ歯」は食事の大切なパートナー。
入れ歯によって食べる楽しみを取り戻すことできます。
「入れ歯が合わない」「入れ歯が苦手」などの理由で、うまく使えていない高齢者は多いものです。
入れ歯と食事は、とても密接にかかわっています。
入れ歯を正しく使い、自分の歯と同じようにしっかりと噛みしめたいもの。
入れ歯とうまく付き合って、好きなものを思い切り食べる喜びを取り戻してくださいね。
● 「入れ歯」は一度つくって終わりではない
年齢を重ねれば歯茎や口蓋(こうがい)は痩せるものです。
食事がうまく噛めず栄養状態が低下すれば、口内環境の老化はさらに進みます。
「しばらく入院していたら入れ歯が合わなくなってしまった」という話は少なくありません。
高齢期の口腔(こうくう)内の状態はそれくらい変わりやすいのです。
入れ歯が「合わない」のは、口腔(こうくう)内の変化によるものかもしれません。
しっかり噛める入れ歯を手に入れるためには調整が肝心。
つくったばかりのときも、少しでも違和感を覚えたら、妥協せず何度でも歯科医に伝えてください。
使いはじめてからも、気になることがあればそのたびに調整してもらったほうが良いでしょう。
噛み合わせがおかしいまま使い続けると、口の状態は悪化し、合わない入れ歯が口の中を傷つけて口内炎や歯周病を引き起こすこともあります。
体重が変化しただけでも違和感が生じるくらい、入れ歯と口腔(こうくう)内の関係性は繊細です。
しっかり噛める入れ歯を維持するためには、ちょっとした違和感を放置しないこと、こまめな調整を面倒がらないことが非常に大切と言えます。
● 「入れ歯が苦手」を放置してはいけない理由
ご利用者AさんとBさんの入れ歯にまつわるエピソードをご紹介しましょう。
Aさんはご自分の歯がほとんどありませんが、入れ歯をこまめに調整しながら、好きなものを何でも食べられる在宅介護生活を送っています。
90歳を超えても、ピーナッツのような固いものやお肉などもおいしく召し上がれるそうです。
持病はあるものの、身のまわりのことはひとりででき、認知機能もしっかりされています。
一方のBさんは入れ歯嫌い。
食事のときも入れ歯を使わず、残り少ない自分の歯で柔らかいものばかり食べていたそうです。
あごを動かすことも少なくなり、やがて認知症を患い、食欲も落ち、食べる力そのものが衰えてきてしまいました。
飲み込む力も衰え誤嚥(ごえん)性肺炎を繰り返すようになり、また、最近ではあくびをしただけであごが外れてしまうそうです。
このエピソードからわかるのは、「食べる」行為は人間の原動力であり、生活そのものも左右するということ。
どんなものを食べているか、しっかり噛むことができるかどうかで、全身状態が違ってきます。
咀嚼(そしゃく)しない、口を動かさない生活が続けば、体のあちこちに不調が生じてもおかしくありません。
苦手だからと入れ歯を敬遠すれば、さらに入れ歯は合わなくなります。
合わなくなれば、食べたものが隙間に挟まって痛むなど、ますます苦手意識を持ってしまうでしょう。
本来、入れ歯は苦痛を与えるものではなく、「食べる力」をサポートしてくれるものです。
入れ歯で噛むと痛いと感じるなら、口の中に何らかの変化が起きているということ。
歯科医で口の状態をチェックし、悪いところがあればしっかり治療をしてもらうことが大切です。
入れ歯とは調整しながら付き合っていきましょう。
● 「新しい入れ歯」をつくるべきタイミング
どんなに使いやすい入れ歯でも、経年劣化は避けられません。
特に口蓋(こうがい)にあたる部分は薄く摩耗しやすく、使い続けるうちにさらに薄くなってくるので、突然パキッと割れてしまうことがあります。
入れ歯を失った瞬間から、入れ歯のおかげで維持してきた「食べる力」が奪われてしまいます。
このリスクをしっかり考えておくべきです。
入れ歯を新しくつくるには、思いのほか時間がかかるものです。
完成までの期間は歯科によって異なりますが、2週間~1カ月くらいはみたほうが良いでしょう。
入れ歯ができてからも良い噛み合わせになるまで何度も調整を重ねるので、納得できる状態になるまで1カ月以上かかることもあります。
突然入れ歯を失って「食べる力」を奪われるリスクを回避するためには、入れ歯の定期的なチェックが不可欠。
噛むことに支障がなくても歯科で入れ歯の状態を見てもらい、「まだ使えるか」を医師に確認してください。
新しい入れ歯を検討するなら、古い入れ歯がまだ使えるうちにつくる必要があります。
「新しく入れ歯をつくったら、再び好物を食べられるようになった」
「食べられるものが増えたら、食事が楽しみになった」
在宅介護の現場では、よく聞く話です。
入れ歯と上手に付き合って、少しでも長く「食べる力」を維持していただきたいと思います。
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