在宅介護における食事とは?「食べてくれない」理由は何?
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
今年も残りわずかとなり、在宅介護のご家庭でも、迎春の準備で忙しくしていらっしゃるでしょう。
大掃除やお正月用の食材の準備など、この時期はいくら時間があっても足りないほど。
介護もあるとなおのこと大変です。
日常の一部である介護は「いつもどおり」ではなく、「いつもよりちょっとラクをしよう」という気持ちで、無理せず向きあってみてくださいね。
さて、在宅介護でよくあるお悩みのひとつに、「食べてくれない」という問題があります。
せっかく手をかけてつくった料理も残してしまう。
メニューや調理方法を工夫しても、手をつけてくれない。
「いったいどうすれば食べてくれるの!?」と、もどかしさやいら立ち、このままでは栄養が足りなくなると不安を感じることもあるのではないでしょうか。
今回は、そんな思いを抱えている介護家族に向けて、「食事との付きあい方」についてまとめます。
● 在宅介護における「食事」の意義とは?
在宅介護に限らず、「食事」には栄養補給や健康維持にとどまらない意義があります。
家族と食卓を囲むこと。
食事中、人と向きあって会話をすること。
料理の彩りを目で楽しむこと。
使われている食材や献立で、季節を感じること。
一品の料理が、懐かしい思い出を呼び覚ましてくれることもあるでしょう。
味覚ではなく、視覚や嗅覚、ときには指先の感触まで用いる「食事」から、私たちはさまざまな刺激をもらっています。
脳の認知機能に働きかけ、感情を動かしたり、記憶にアクセスしたりすることもあります。
食事からは、栄養以外にもいろいろなものがもたらされているのです。
介護する方は、「しっかり食べないとますます弱ってしまう」「これだけでは栄養が不足する」と考えてしまいがち。
しかし、なぜ食べてくれないのかと目くじらを立てると、大切なことを見失ってしまいます。
つくってあげたい、喜んでほしいという本来の気持ちを曇らせないよう、少し肩の力を抜きましょう。
食べる人のことを考えて用意した食事には、目には見えなくても愛情がこもっていますし、人と人とのコミュニケーションともいえるでしょう。
たとえたくさん食べられなくても、人を元気にするパワーがあるのだと信じてください。
● 食べてくれない悩みの解決方法は「メニューの工夫」ではない!?
食事には、人それぞれの「文化」や「習慣」を現すという側面もあります。
ご本人が育った家庭や築いてきた家庭で何を食べてきたのか、どのような環境で食事をしてきたのか。
食文化・食習慣というのは、それぞれの家庭で驚くほど異なっており、ご本人が生きてきた歴史をひも解かなければ、見えてこないものです。
大家族でワイワイ大皿を囲んできたのか、それともひとりで食事をすることが多かったのか。
食事の時もテレビをつけたまま、ごはんとみそ汁は晩酌が終わってから......など、いつの間にかしみついた食事の「当たり前」を誰でも持っているもの。
また、いままで食べる習慣のなかったものを出されても生理的に受け付けないこともあるでしょう。
年齢を重ねれば、なおのこと定着して変えがたいものになっているはずです。
毎日決まった時間に、家族そろって食卓につくことを大事にしてきた方もいます。
ひとりで好きなように食事をしてきた方なら、家族と食卓を囲むのが苦手なこともあるでしょう。
「食べてくれない」というお悩みに対して、メニューや調理方法を工夫することも大切です。
しかし、それだけで解決できないならば、もしかすると食に対する価値観があなたとは違っているかもしれません。
ご本人が持つ歴史や食の文化・習慣とあわないために、食が進まない原因になっている可能性も考えられます。
「なぜ食べてくれないのか」ではなく、ご本人が「どうしたいのか」や「なぜそうしたいのか」に注目して、ご本人の気持ちを探ってみてください。
もしかすると、子ども時代の意外な思い出話に出会えるかもしれません。
その習慣が生まれるまでには必ず物語があります。
「行儀が悪い」と感じることでも、ご本人が積み重ねてきた歴史を尊重すると考えれば、受け入れられることもあるのではないでしょうか。
● 年末年始は「食べてくれない」ストレスを忘れて
大晦日やお正月は、日本らしい伝統的な過ごし方をしているご家庭が多いと思います。
年越しそば、おせち料理、お雑煮など、代々受け継がれてきた味があるのではないでしょうか。
年に一度の特別なお料理を、目で見て笑顔になり、味わって喜びあう。
たとえ必要な量を食べられないとしても、それには単なる栄養補給を超えた意味があります。
そんなかけがえのない家族の時間が、年末年始には待っています。
穏やかな気持ちで新年を迎えるためにも、「食べてくれない」「いったいどうすれば...」と思い詰める気持ちを、いったん忘れましょう。
水分補給を怠ることがなければ、「本人が食べたいと思うものを、食べられるだけ食べてくれたら、それで良い」。
そう考えると、食事との向きあい方も少し違ったものになるはずです。
食事は、双方向のコミュニケーションが成立しやすい介護の場面のひとつだと思います。
食を通じたコミュニケーションがうまくかみあわないときもありますが、気負い過ぎないことが大切。
ご本人がどうしたいか?を尊重しながら、食事の時間を楽しんでくださいね。
今年も一年、本当にお疲れさまでした。
来年もこの「あんしん介護ブログ」でお会いできるのを楽しみにしています。