看取る家族が後悔しないために...親の本音を聞き出す方法

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看取る家族が後悔しないために...親の本音を聞き出す方法

こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。

心の奥にある「本音」に寄り添うことが大切です。前回は、人生の終わりをご本人が望む形で迎えるための話し合い「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の進め方についてまとめました。

最期をどこで迎えたいのか。
治療やケアをどうしたいのか。

将来、看取る側となるご家族は「聞いておきたい」という気持ちはあるものの、なかなか切り出しにくいという意見もあります。

「ハレとケ(※)」の文化に象徴されるように、日本には古来、死のイメージにつながることをオープンに語るのは不謹慎、という暗黙のルールが存在するからです。
※ハレ(晴れ、霽れ)は儀礼や祭、年中行事などの「非日常」、ケ(褻)は普段の生活である「日常」を表している。

また、たとえ話し合う機会を持ったとしても、「子どもに迷惑をかけたくない」という思いから、正直な自分の気持ちを口にできない親御さんもいらっしゃるでしょう。

いつ、どうやって切り出せばいいのか。
どうしたら本音を聞き出せるのか。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)について話し合うのが難しいと感じているご家族のために、きっかけをつくるコツや、"思い"を汲み取る方法をまとめます。

● アドバンス・ケア・プランニングはコミュニケーションの積み重ね
高齢になると、急に持病が悪化したり、身体の衰えが目立つようになったりすることは、珍しくありません。
いつ、何が起きてもおかしくない。常にリスクを抱えていると言っても過言ではないでしょう。
だからこそアドバンス・ケア・プランニングが必要なのですが、ご本人もご家族も「身体の衰え」や「健康リスク」に向き合うことを避けてしまいがちです。

「もしも寝たきりになったら、家と施設のどちらで暮らす?」
「延命治療はどこまでする?」

意を決して切り出したところで、かなり気が重い話し合いになることは想像にかたくありません。また、急にあらたまって聞かれても自分の考えをまとめて話せる人も少ないと思います。

気兼ねなく話し合うきっかけとして、「身近な人、知っている人」を利用する方法があります。
ご親戚やご友人、あるいは著名人などの訃報に接したとき、それを話題に話し合うのです。

たとえば「〇〇さんは延命治療をせず亡くなったらしいね。私ならお母さんに一日でも長く生きしてほしいな」などと話したとします。

「痛みや苦しさが長引くのはいやだわ」と返答するかもしれませんし、「弱った姿を人に見られたくないわ」と話すかもしれません。

こうしたコミュニケーションを一度きりで終わりにしないでください。
機会があったら、何度でも「どう思う?」を聞いてみるのがポイント。
人の気持ちは揺れ動くものです。
いろいろなシチュエーションからイメージし、最期の迎え方についての考えを、看取る側・看取られる側の双方が深めていくことが肝心です。

直接的な「死」を話題にするのがためらわれるなら、新聞で取り上げられている介護の記事や芸能人の逝去の記事、医療のドキュメンタリー番組などのテレビを見ながら、ご本人の意見を聞いてみるのも良いでしょう。

「今は元気だけど、いつどうなるかわからないよね。お父さんはどう思う?」といった聞き方をすれば、あまり深刻にならずに話し合うことができるのではないでしょうか。


● 親は子どもに本音を話さない?
「子どもに迷惑をかけたくないから、介護が必要になったら施設に行く」
息子さんや娘さんの前でこのように語る方は少なくありません。
また、遠方に暮らす高齢の親御さんに同居を持ちかけたところ、「ひとりのほうが気楽で良い」「子どもの世話になりたくない」と取り合ってくれなかった...こんな話を聞くこともあります。

この言葉は、本心なのかな?
強がっているだけじゃない?
もしかして、そう言ってこちらの思いを確かめようとしているのかも...

判断がつきかねることもあるでしょう。

なんとか本音を聞き出したいと思うかもしれませんが、我慢強くて子ども想いの親御さんが本音で語らないのは常のこと。
「いくつになっても、子どもの前では親らしくありたい」という気概が、その親御さんにとっては支えであり、大切なこだわりなのではないでしょうか。

しつこく本音を聞き出そうとするのは良いことではありません。
言葉のなかにある"思い"を感じ取り、「本当はさみしいんじゃないかな」「子どもに心配をかけたくないんだろうな」と想像することが大事。

介護の仕事をしているとよくわかりますが、高齢の方とのコミュニケーションで本音を察するには、想像力を駆使した「解釈」が必要な場合があるのです。

ご本人が明確に「こうしたい」「こうしたくない」を伝えられる間は、その言葉を尊重してあげてください。
たとえ強がりだと気づいていても、です。

将来、身体の衰えを感じたり、置かれている状況が変わったりしたときは、発せられる言葉も違うものになるかもしれません。
そのとき、ご本人の気持ちを受け止めてあげられれば良いのではないでしょうか。

"思い"を想像する優しさがあれば、今は心の奥にしまわれている「本音」に、いつでも寄り添えるはずです。


● 「何を大切にしているか」が本音を知るヒントになる
「終末期」と呼ばれる人生の最終章に到達するまでには、いろいろなことがあります。
遺される側であるご家族は、これまで見たことがなかった親の姿を見ることもあるかもしれません。
子どもは、親になった親しか知りません。
親として気を張っていた、その肩の荷を下ろしはじめたとき、その人の本質が見えてくるものだと、私は思います。

どんな価値観を持っているのか。
譲れないことは何か。

暮らしぶりや言動をよく観察していると、「本音」につながるヒントが見えてきます。

一例として私自身の話を少しだけ。
私が実家に帰り、洗面所に行くとボロボロになったタオルをずっと使い続けていることに気づきました。
「もう新しいタオルに買い替えたら?」と言うのですが、母は「まだ使える」「これで十分」と。

おそらく母にとって「ものを最後まで大切に使う」のは、私が考えている以上に大切なことなのだと思います。

ですから私も意見はしますが、否定はしませんし、それ以上の無理強いはしません。
母がしたいようにさせてあげよう、母の考え方や価値観を尊重しようと考えています。

「親の本音がわからない」と感じているなら、自分の価値観で親御さんを測ろうとしているのかもしれません。
暮らしぶりが不自由に見えても、納得できなくても、ありのままを否定せず受け入れたとき、ご本人が望む最期のカタチがなんとなく見えてくる...そんなこともあるのではないでしょうか。

アドバンス・ケア・プランニングは、終の棲家や延命治療の話をするだけが全てではありません。
どんな内容でもいいのです。
話をたくさんすればするほど、ご本人の気持ちを理解するための情報が蓄積されていきます。
将来、言葉や判断力を失い、自分の意思を伝えられない状態になったとしても、「あのときこんなことを言っていたから、きっとこうしたほうが喜ぶだろう」と想像することができます。

ご本人の考え方や価値観を知っておくことは、終末期に生命に関わる判断をゆだねられるご家族の心の拠り所です。

元気なときにたくさんコミュニケーションを重ねて、話ができる幸せをかみしめてください。
ご本人と共有した時間が、いつかきっとあなたの支えになってくれるでしょう。

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