介護家族が知っておきたい「アドバンス・ケア・プランニング」って何?
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
前回、「終の棲家」の考え方についてまとめましたが、今回は、終活をもう少し具体的に掘り下げた「アドバンス・ケア・プランニング」をご紹介します。
アドバンス・ケア・プランニングとは、これからの治療やケアについて話し合うプロセスのこと。
横文字だとなんだかとっつきにくいですが、簡単にいえば"もしものための話し合い"です。
「人生会議」という呼び方をすることもあります。
将来、病気や老化などが原因で、自分の意思を伝えられなくなる可能性は、誰にも否定できないことです。
そのときに備えて、今のうちから自分の思いを大切な人に伝え、話し合っておく。
ご夫婦で、あるいはお子さんや、信頼する友人と、そんな時間を持ってみてはいかがでしょう。
言葉にし、声にすることで、自分の本心に気づいたり、考えが深まったりすることもあります。
これから人生の終わりまで、どのように過ごしたいでしょうか。
最期まで大切にしたいものは何でしょうか。
"もしものとき"に本人が望む医療やケアを受けるために、何を話し合っておけば良いかをまとめます。難しく考えすぎず、前向きに「人生会議」をしていただくための一助になればと思います。
● 意思決定能力が失われたときに起きること
終末期には、延命治療や先進医療を受けるかどうかなど、重大な決断を迫られる場面が何度か訪れます。
また介護が必要になれば、どこで介護を受けるのか、身辺のお世話を誰がするのかといった問題が起こるものです。
決めるのはご本人ですが、正常な判断ができる状態にあるとは限りません。
言葉を発せられない、意識がないなどの理由で意思を伝えられないこともあります。
命の危険が迫った状態になると、約3/4の方がこれからの治療やケアについて、自分で決めたり、人に伝えたりすることができなくなる、というデータもあります。
そのようなとき、ご本人に代わって重大な決断をする方の心理的な負担はあまりに重いものです。
それが正解なのか、不正解なのか、ご本人以外には誰にもわかりません。
どんな選択をしても「本当にこれで良かったのだろうか」という思いが残り続けます。
私も介護や医療の現場で、「本人に聞ければ一番いいんだけど・・・」という切実な言葉を何度も耳にしました。後悔や罪悪感で大切な人の死を受け入れることができず、喪失からなかなか回復できずにいる方もたくさんいらっしゃるのです。
反対に、普段からご家族で考えを深めておられていた方は、「大変だったけれど、これで良かったと思う」「心残りはない」とおっしゃっていたのを思い出します。
ご本人の願いを知り、できる限り望むとおりの最期をかなえることは、ご本人のためだけではなく、遺(のこ)される方の救いとなります。
ご家族やご親戚・ご友人など、大切な人の心の負担を軽くし、亡くなった後の立ち直る支えにもなります。
● アドバンス・ケア・プランニングって何をすればいいの?
いきなり「どんなふうに死を迎えたいか」と問われて、すぐに答えられる人はいません。
いろいろなパターン、いろいろな選択肢を想像しながら、自分の「思っていること」を掘り下げ、ようやくたどり着くものだと思います。
では、いったい何からはじめればいいのでしょうか。
アドバンス・ケア・プランニングを進めていくにあたって、最初に考えていただきたいことを紹介します。
アドバンス・ケア・プランニングと初めて向き合う方に、ぜひ検討していただきたいことです。
自分の正直な気持ちが見えてくると思います。
(1)あなたが信頼していて、自分の考えを一番、理解してくれているのは誰?
将来、医療やケアを選択しなくてはならないとき、あなたに代わって判断・決定を委ねたい人は誰でしょうか。
配偶者、息子や娘、きょうだい、親戚、友人など、さまざまな人が考えられます。
主治医や介護でお世話になっている人など、身内以外の人である可能性もあります。
(2)あなたが面倒を見てほしい人は誰?
老いや病気で、自立した暮らしができなくなったときのことを想像してみましょう。
身の回りの世話をお願いしたり、自分の用事を代わりにしてくれたりする人は誰でしょうか。
「信頼していて、判断・決定を任せたい人」とイコールとは限りません。
区別してよく考えてみてください。
ご家族やご親戚の世話にはなりたくないと考えるなら、「公的なサポート(訪問介護サービスなど)」を挙げるという考え方もあります。
(3)あなたが大切にしていることは何?
自分の人生において、かけがえのない時間、大切にしてきた価値観をあらためて考えてみましょう。
ご家族やご友人のそばで過ごすことなのか、誰にも邪魔されずに過ごすことなのか。
あるいは、仕事や社会的な役割を続けられることなのか、好きなことができることなのか。
もし生きられる時間がわずかだとしたら...と考えると、自分がどうありたいかが見えてきます。
(4)あなたが望む医療処置・望まない医療処置は?
自分らしく人生を過ごすために、「こんな最期だったら良いな、こんな治療やケアを受けたいな」と思うことを具体的に考えてみましょう。
反対に「こんな最期は望まない。こんな治療やケアは避けたい」と考えてみても良いでしょう。
「誰かがいつもそばにいて、話しかけたり手を握ったりしてほしい」「耐えられない痛みを我慢したくない」など、抽象的なことでも良いので、心の声を言葉にしてみましょう。
● まずは書き出し、そして話し合う
いろいろ考えてきましたが、大切なのは「伝えること」。
まずはひとりでじっくり考え、浮かんできた言葉を紙に書き出してみてください。
考えておくべきことを整理したければ、市販のエンディングノートを活用しても良いでしょう。
書き出したら、あなたが信頼できる、大切な人にそれを伝える機会をつくってください。
もしかしたら、話しているうちに「これは違うな」と感じることもあるかもしれません。
あなたがその人を大切に思っているように、相手もあなたを大切に思っています。
相手の気持ちを感じることで、自分の考えが変わることだってあるでしょう。
そうやって考えを深めていく過程がアドバンス・ケア・プランニングでは大切なのです。
そしてアドバンス・ケア・プランニングには、支えてくれる医療やケアチームの存在が欠かせません。
ご家族だけではなく、お世話になっている医療関係者や介護関係者にも、ご自身の考えを共有しましょう。
専門家から得られる情報と話し合いの繰り返しで、考えがより深まり、希望が尊重されやすくなります。
ご自身も漠然としていたものから、イメージがつくと思います。
まずはかかりつけ医や訪問看護師、ケアマネジャーなどに気軽に相談してみてはいかがでしょうか。
今の健康状態から、将来起こりうるリスクや、その場合の医療やケアの選択肢を教えてくれるはずです。
健康状態や置かれている状況が変われば、もちろん気持ちが変わることはあります。
「口に出してしまったら、それで決まってしまう」と恐れなくても大丈夫。
気持ちが変わるたびに話し合って、アドバンス・ケア・プランニングをバージョンアップしていけば良いのです。
病状や症状が変化したときはあらためて考えを整理し、かかりつけ医やご家族と話し合いましょう。
伝えられる力がある間は、ご自身の気持ちを伝えることを、おこたってはいけません。
近しい相手ほど「わかってくれているだろう」と思いがちですが、案外そうでもないのです。
アドバンス・ケア・プランニングを通じて、大切な人との関係性がより深まることを願っています。