「ボディメカニクス」を活用して小さな力で介助する
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
介護をしている方の悩みのひとつ「腰痛」。
前回は「腰痛予防」についてご紹介しました。
「介助は体に負担のかかるもの」
「介助は力が要るもの」
このように考えている方もいらっしゃると思いますが、「ボディメカニクス」を活用することで、介助に必要な力を小さくすることができます。
「ボディメカニクス」とは、体の動きや力学などの知識を活用した技術のことです。
前回ご紹介した腰に負担をかけないコツ「重心を低くする」というのも、ボディメカニクスの考え方のひとつです。
今回は、介助にかかる力を小さくするコツ「ボディメカニクス」についてご紹介します。力任せにしなくても、無理なく体の向きを変えたり、体を起こしたり、体を移動させることができるようになりますし、腰痛予防にもつながります。
毎日の介護で「体がきついな」と感じている方や腰痛が心配な方は、ぜひ参考になさってください。
● 介助の労力を軽減する「ボディメカニクス」とは
介護に役立つボディメカニクスの基本知識をいくつかご紹介します。
(1)両足を開いて体を安定させる
床面に接している部分の広さのことを専門用語で「支持基底面積」といいます。
この広さ(支持基底面積)は広いほうが安定しますので、介助をするときは両足を肩幅くらいに開いて立つようにしましょう。体を動かす時の重心の移動による腰や筋肉への負担を少なくすることにもつながります。
(2)重心は低くする
お相撲さんの取り組みを想像してみてください。膝を曲げて腰を落とし、重心を低くすると、姿勢が安定し、効果的に力を使うことができます。相手の体を抱える時など、活用してみてください。
腰を曲げた前傾姿勢では重心が高くなり、腰にも負担がかかってしまいます。
(3)相手の体になるべく近づく
相手の重心を自分に近づけるほど力が伝わりやすくなります。
体を持ち上げるときなどは、自分の体に密着させるようにしてみてください。腰を曲げず、重さを広い面で支えられるので、体への負担が減らせます。
(4)テコの原理を応用する
体を動かしたいときなどに、肘や膝などを支点にして力を加えると、通常よりも小さな力で動かすことができます。
(5)相手の身体を小さくまとめる
動かすものが小さいほうが、力は小さくてすみます。体の向きを変えるとき、ベッドの上で体を動かすとき、相手に胸の上で腕を組んでもらう、両膝を立ててもらう、膝を組んでもらうなど、体を小さくまとめる工夫をするといいでしょう。
ボディメカニクスは、効率よく自分の力を伝えるためのテクニック。
知っているか知っていないかで、体の負担が変わってくると思いますよ。
また、介護は介助される人と介助する人の協同作業であることを忘れずに。介助される方に、「これからどう動くか」をしっかり説明し、息をあわせて動くようにすると、無駄な力を使わずにスムーズに介助ができます。
● 「ボディメカニクス」を活用したカンタン介助テクニック
ボディメカニクスを活用した具体的な介助例をご紹介しますね。
まずはイスに座った姿勢から立つときの介助。
向き合った姿勢で両脇を抱きかかえ「よいしょ」と持ち上げている方もいらっしゃるようですが、これでは大きな力が必要です。
でもちょっとしたコツで簡単に立ってもらうことができます。
座った姿勢のまま足を少し引いて、頭を下げるように「おじぎの姿勢」になってもらいます。
「おじぎの姿勢」になるとお尻が自然に持ち上がってきます。
そのまま背中を支えれば、ラクに立たせることができるんです。
前に別のイスなどを置いて手で支えてもらえば、前に転ぶことを防ぐことができますよ。
次の例は、ベッドから起き上がるときの介助です。
ベッドから起き上がるときも、コツさえつかめば介助にかかる力を減らせます。
まずは、仰向けの状態でおへそのあたりを見てもらうようにしてください。
すると首から肩のあたりが少し浮きます。
浮いた隙間から肩甲骨のあたりまで腕を入れ、体を密着させるようにして力を加えれば、簡単に起き上がってもらえます。
どちらも介護のある日常では、よくある介助だと思いますので、今日からでも実践してみてください。足を広げて体を安定させること、膝を曲げて重心を低く保つことをお忘れなく。
● 理学療法士さんに聞いてみましょう
介護する方が力を100%使うのではなく、介護される方が備えている力とあわせて100%の力になるのが理想。
なんでもかんでも「手を貸してあげなくては」と考えてしまいがちですが、決してそんなことはありません。介護される方に動く力が残っているならば、なるべく使うこと。そのほうが残存機能の衰えをゆるやかにすることができます。
ただ、症状や体の状態によっては、やってはいけないこともあります。
判断が難しい場合もありますね。
不安な場合、まずは理学療法士さんに相談してみてください。
理学療法士さんというと、"リハビリ=訓練をしてくれる人"というイメージがありますが、身体能力や生活環境などを評価して、どう身体を動かしたらいいのか、どんな道具をつかったらいいのか、日常の動作を考えてくれるスペシャリストでもあるのです。
「できること・できないこと」が何かを的確に判断できます。
どんな介助方法が最適なのか、介助する方、介助される方、両方に合った起こし方や寝かせ方を具体的に教えてもらえると思います。
介護生活を長く続けるには、介護する方の体を守ることも重要です。
理学療法士さんに「どうしたらお互いの体に負担なく介護を続けられるか」を率直に聞いてみてはいかがでしょうか。
介護する方が元気でいられることが、介護を続けることや介護される方の安心にもつながります。毎日の介護にぜひボディメカニクスを意識した動きを取り入れて、ご自身の腰や体を大事にしてくださいね。