シングル介護の負担をきょうだいと分かち合う方法
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
「高齢の親との同居」をテーマにした連載も今回が3回目。
今回は、親と同居中の子と、実家を出たきょうだいとの「ギャップ」についてです。
親子といえども、お互いに年齢を重ね、生活リズムや価値観、考え方などの「違い」は多いもの。
親子という遠慮のない関係ならではの苛立ちやストレスもたくさんあることでしょう。
しかし、同居していないきょうだいには、なかなかそれがわかりません。
要介護度が軽く、まだ身の回りのことが自分でできる親御さんだと、「介護と言ってもたいしたことはないだろう」などと思われていることも。
それでは、さまざまな葛藤の果てに親との同居を選んだあなたの心が救われません。
今回は、同居していないきょうだいに、「何が大変なのか」を理解してもらう方法を探っていきましょう。
【あわせて読みたい!シリーズ「高齢の親との同居」】
・高齢の親との同居は何が大変?よくある「すれ違い」の解消法
・シングル介護の「見えないストレス」に負けないために
●シングル介護の大変さは「たまに顔を出すだけ」ではわからない
たまに実家にやってきたきょうだいが、親に優しく接して親も嬉しそうにしているのを見て、モヤモヤした感情を抱くこともあるのではないでしょうか。
たまに来て、親に優しくするのは簡単です。
過去に何があっても、ふだんは離れて暮らしているのですから冷静にもなれます。
親を立て、労わりの言葉をかけるくらい何でもないでしょう。
シングル介護で大変なことのひとつに「わかってもらえない」ということがあげられます。
親の介護で抱えているモヤモヤを、どこにも吐き出せない、きょうだいにも理解してもらえないのは、フェアではありません。
●「わかってもらえないつらさ」が最大のストレス
要介護度が重い寝たきりの親の介護なら、「大変だね」「大丈夫?」と誰もが心配します。
けれども、本当の大変さは、おむつ交換などの肉体的な負担ではありません。
かみ合わない会話や気持ちのすれ違い、小さながまん、ちょっとした意見のぶつかり合い、時には親の何気ないひとことに傷つくこともあるでしょう。些細な出来事の積み重ねが大きな精神的負担になっているはずです。
要介護度に関係なく、こうしたストレスは生じるものです。
ひとつひとつの出来事だけ見れば、小さなことかもしれません。
しかし、「わざわざ人に言うほどのことではない」とひとりで抱え込むと、自分だけ犠牲になっているようなネガティブな感情を生み出してしまいます。
ネガティブな思いのまま不満や怒りをきょうだいにぶつけても、相手にはきちんと伝わらないものです。言えば言うほど「わかってもらえないつらさ」が際立ってしまうことも少なくありません。
● 何がつらいのかを紙に書き出してみる
大変さやつらさを感情的に訴えても問題の本質は伝わりません。
きょうだいとの関係がこじれてしまうこともあります。
今の状況で感じている「負担」を具体的な言葉にして、説明できるようにしておくことが必要です。
家族関係の中で生まれるモヤモヤしたつらい気持ちの正体は、整理をしないと自分でもつかみきれないものだからです。
シングル介護の問題点や、それを担う子の負担をきちんと把握するためにも、ひとつひとつの出来事を紙に書き出してみましょう。
「病院の付き添いのために、月に1度は仕事で半休を取らなくてはならない」
「ひとりでお風呂に入ると危ないので、寄り道をせずまっすぐ帰っている」
といった時間的な負担はもちろん、
「良かれと思って言ったことや、やったことを、否定される」
「きちんとできないことが増えたが、本人が認めたがらないので、そっと後始末している」
など、気持ちの面のつらさや、老いと寄り添いながら過ごす自分の日常の大変さを、思いつくまま書いてみてください。その日にあった出来事を、メモしておくだけでも良いと思います。
考えながら文字にしたり、読み返したりすることで、冷静になれますし、自分の考えや感じていることを客観的に眺めることができます。そして、頑張っている自分を労ってあげてください。
きょうだいに話をするときも、それを見てもらえれば、少しはシングル介護の日常が垣間見えるでしょう。
物事を人に伝えたいとき、誰かにわかってもらいたいときには、「紙に書いてみる」という作業がとても効果的です。
● 「同居のきっかけ」をはっきりさせておく
シングル介護中の方に、やっておいてもらいたいことがもうひとつあります。
それは、なぜ自分が同居することになったのか、そのときの気持ちや経緯を明確にしておくこと。
誰が望んで同居したのか。
自分から決めたのか、親から言われて同居したのか。
きょうだいがいるなかで、なぜ自分だったのか。
未婚でも、家を出て自立した生活を選ぶ道もあるはずです。
自分の人生の幸せを追求する権利は誰にでもありますし、子に親の面倒を見る義務があるとすれば、きょうだいは平等に負担すべきです。
家庭を持たないことを理由に「同居するのが当たり前」だと思われたら、たまりません。
今は独居でも自宅で在宅介護生活が送れるサービスや制度が整っていますし、ひとりが不安なら施設に入居するという選択肢もあるのですから。
「老いた親の暮らしが心配で、自分から同居を選んだ」
という方も、本来なら他のきょうだいと同様に家を出て暮らして「たまに実家に顔を出して親に優しくする」という生き方を選ぶこともできるということを、思い出してください。
「私はひとり暮らしをすることもできた」
「親のために同居を選び、そのために犠牲になっていることもある」
自分の立場をはっきりさせ、きょうだい間で共通の認識を持っておくことが大事だと思います。
なんとなくシングル同居を続けていたら、あなたが今の生活に納得していると思われてしまいますし、きょうだいは当事者意識を持たないかもしれません。
でも、「なぜ私が同居しているのか」をはっきりさせておけば、負担の押し付け合いや、理解のない言葉に苦しむことも減らせるのではないでしょうか。
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