看取りの不安や疑問に答えます
こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。
「在宅看取り」をテーマにした連載の第3回。
今回は、看取りを検討する際の不安解消についてまとめます。
「在宅で看取りはできない」と思っている方は少なくありません。
仕事が多忙、自身の体力や体調に自信がないなど、介護をする家族側にもいろいろな事情があるものです。
ましてや看取り前提の在宅介護となれば精神的な負担も加わります。
それでも「本人の希望なら、本当はかなえてあげたいけれど...」という気持ちがあるなら、在宅看取りは決して不可能ではありません。
「在宅で看取りができない事情」をどうやって乗り越えるのか、看取りを検討する際によくある不安や心配の解決方法をまとめます。
【あわせて読みたい!シリーズ「在宅看取り」】
・看取りの前に家族がやっておくべきこと
・在宅の看取りって実際どうなの?看取りのリアル
● 「在宅看取り」でいちばん大切なこと
看取りを視野に入れた在宅介護は、通常の在宅介護と大きな違いがあるわけではありません。
それまでの日常生活の延長に、看取りはあります。
異なることがあるとすれば、家族の気持ちの在り方。
いつも頭のどこかで残りの日々を考えながら暮らす心境は、ずっと平常心ではいられないでしょう。
だからこそ、看取る家族のコンディションが非常に重要。
疲れてイライラしたり、心のゆとりがなかったりする状態では、看取りにも悔いを残してしまうかもしれません。しっかり食事や睡眠を取り、心身の状態を整えておくことが何より大切です。
身内の死はあなたにとっても大きな出来事です。どう向き合い、受け止めるのか、まずは自分を大事にしてくださいね。
実際に在宅での看取りを体験した方に話を伺いました。
「仕事が忙しくて帰宅が遅くなったときも、家に帰れば本人がいる。
『ただいま』と声をかけると母はいつも嬉しそうな顔をしていましたし、私も癒やされました。
家事の合間に話しかけたり、寝る前にちょっと顔を見に行ったりすることもできるのが、在宅の良さ。
残された時間が少ないからこそ、毎日、気負いなく会える自宅環境は良かった。
病院に通う時間をつくろうと思ったら、体力的にも精神的にももっと大変だったでしょう。
忙しい人ほど、在宅での看取り介護はおすすめかもしれないですね」
家族が笑顔でそばにいてくれることこそが、介護される本人にとっての幸せということです。
一日中一緒にいられなくても、特別なことはしなくても、穏やかな気持ちで寄り添うことができれば十分なのかもしれません。
介護を担う側が良い状態でいられることが肝心。
毎日できるだけリラックスして過ごすことが、看取り介護のポイントです。
● 「したいこと」「したくないこと」を決めておく
自宅で看取りをするなら、家族がどこまで介護を負担するかを決めておきましょう。
大事なのは家族のコンディション。
やりたくないことははっきり「自分にはできない」と言ったほうが良いです。
介護を受ける本人を前にそんなことは言えない・・と躊躇することであっても、看る側も看られる側も親子や夫婦である家族であり、これまでも本音で語り合ってきた家族として自分の気持ちを話して良いのです。
「おむつ交換や排泄(はいせつ)介助はできそうにない」と思うなら、必要なタイミングでヘルパーに入ってもらうこともできます。
実際のところ、「介護はいっさいできない」というご家庭もあるものです。
そのようなケースでも、「自宅で最期を迎えたい」という本人の意思を尊重するために、どうしたら実現できるかを考えるのがケアマネジャーの役目。
訪問介護サービスで排泄や清潔の援助を受けながら看取り介護をサポートできるように段取りし、家族には必要最低限のことだけアドバイス。あとは、本人との残りの日々を一緒に過ごすことも可能です。
看取り介護は、通常の在宅介護とは優先順位が異なります。
穏やかな精神状態を保つために、家族の負担はなるべく減らすことが大切。
「したくないこと」の反対に「最期にしてあげたいこと」がきっとあるはずです
たとえば好物を少しだけでも食べてもらいたい。
家に、親しい間柄の人を呼んで楽しかった思い出を一緒にたくさん語り合いたい。
言葉が話せなくなっても、聴覚の機能は残っているそうです。
やさしく手を握って話しかけるだけでも、ご本人はどれだけ幸せで安心した気持ちになれるでしょう。
そうしたことに時間をかけることが悔いのない看取りにつながるのです。
「してあげたいこと」と「したくないこと」を整理しておくことが肝心。
介護のせいで笑顔になれないなら、いっそ介護をすべて他人に委ねてしまう方法もあることを、覚えておいてください。
● 「在宅での看取り」を最終決定にしなくてもいい
在宅での看取りを「できない」を思う事情が介護負担なのであれば、介護サービスが解決してくれます。
ヘルパーやケアマネジャーだけではなく、訪問医や訪問看護師とも連携しながらチームで看取りに対応しますので、看取りを家族だけで抱える心配はありません。
「自宅で看取る」と決心して在宅介護をはじめても、人生の終わりにはどんなことが起きるのかは誰にもわかりません。
「日々衰えていく姿を目の当たりにするのがつらい、やっぱり家では看取れない」と決意が揺らぐこともあるでしょう。
身近な人の死は、誰だって怖いし、不安です。
医師から予後や最期の状態を聞いて覚悟していても、そのとおりにいかないことは往々にしてあります。
一度決めた在宅看取りの選択であっても、やってみてダメなら、別の選択肢を選んでも良いのです。
終末期に対応してくれる病院や施設を選んだほうが、気持ちのゆとりが生まれ、家族としてやってあげたいことができるかもしれません。それも選択肢のひとつです。
「最期は自宅」と強く思っていても、そのときを迎えると家族の意志が揺らぐことは少なくありません。
救急車を呼んでしまい、病院で亡くなってしまった。
延命処置はしないのが本人の意志でも、どうしてもその決断ができない。
身近な人の死は、誰だって怖いし、不安です。
決めていたとおりに立ち居振る舞いできなくても少しも不思議ではありません。
在宅介護が十人十色であるように、看取りもいろいろなカタチがあって良いのです。
最期の場所が自宅以外になってしまったとしても、自分を責める必要はありません。
これまでたくさんの家庭の看取りを見てきましたが、どのような最期であれ、大切な人の死に正面から向き合ったことが看取りを意識して関わったことであり、その経験はその後も家族の支えになっていると感じます。
看取りに、「こうしなければいけない」という決まりもルールもありません。
本人の意思を受け止めて生きていくのは見送った側です。
残されるご家族にとって良い選択ができることを、心から願っています。
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