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・人々の生活に溶け込み、社会を変えた物理学の新たな進化
先日、明るいニュースが日本中を駆け巡りました。青く輝く「発光ダイオード(LED: Light Emitting Diode)」の素材を見出し、実用、量産化を実現することで、世の中を青く照らし出した日本人研究者3名がノーベル物理学賞を受賞したニュースです。
私たちの身のまわりを見ても、照明や信号機、テレビなど、青色LEDの技術が使われているものは枚挙にいとまがありません。本コラムを目にしている皆さんの多くは、今まさにこの瞬間にも、この技術の恩恵に預かっています。この文章を見ている液晶ディスプレイにも、この技術が使われているからです。物理学の新たな進化が、これほど社会に溶け込み、実感できる形で人々の日々の生活を変えた例はあまり多くはないのではないかと思います。
・青いセロファンで「青い光」は実現できるのか?
自宅のテレビで、この「青色LEDのニュース」を見ていたときに、「なぜ青いセロファンではダメなの?」と子どもに聞かれました。確かに、舞台照明などでは、ライトの前に「青いセロファン」を置くことで「青い光」を作り出しています。しかしこれは、もともとのライトの光が、青を含んだすべての色からなる「白い光」だからできることなのです。
「青いセロファン」は、すべての色を含む「白い光」から、青い光の成分だけを選択的に通し、他の色の成分を通さない働きをします。これが、白い光を発しているライトの前に、青いセロファンを置くと「青い光」を得ることができる理由です。「青い光の成分」をほとんど含まない赤色LEDや緑色LEDからの光を、青いセロファンに通しても、思うような「青い光」は作ることができません。
・モノの色は、なぜその色に見えるのか?
これと同じことが、照明光で照らされた「物体の色」についても言えます。セコムのロゴが青く見えるのは、「青いインク」が青い光の成分だけを反射するからです。赤についても同様で、セコムステッカーの赤は、「赤いペイント」が赤い光だけを反射することによって赤く見えています。
世の中に実在する物質の「モノの色」は、すべての色の光を含む「白い光」で照らされた時に、そのモノの表面の物質が何色の光の成分を反射するかで決まります。私たちが感じる「モノの色」は、「白い光」で照らされることが前提となっているということです。
・犯罪や事故を防止するための「青い照明」
皆さんの中にも、駅のホームの端が青い光で照らされていたり、公園の明かりが青い光だったりするのを見たことがある人はいるのではないかと思います。
防犯の分野に「青い光が犯罪や事故を防ぐ」という説があります。元々は、英国の商店街で、景観をよくする目的で街灯の色を青くしたことが始まりです。その後、その街で、犯罪が減ったことから、「青い照明」が防犯につながったのではないかと話題になりました。それが、日本でもテレビのバラエティ番組で取り上げられたのです。
これが当時、犯罪に頭を悩ませていた自治体や警察の目に止まり、「青い照明に防犯効果あり」ということで、日本の街でも、青い光が防犯灯に使われるようになったという経緯です。しかしこれは、「青い光、それ自身の効果」なのか、それとも「青い照明が犯罪者に防犯意識の高い地域だと思わせる効果」なのか、本当のところは分かっておらず、まだまだ研究が必要な分野です。
・「青い照明」の副作用
青色LEDによって簡単に実現できるようになり、「青い光が犯罪や事故を防ぐ」という説によって広まったこの「青い照明」ですが、一方で困った副作用をもたらしました。「モノの色」が分からなくなるという副作用です。
繰り返しとなりますが、私たちが感じる「モノの色」は、「白い光」で照らされることが前提となっています。「青い光」の下では「白」は白く見えず、青く見えます。「赤」は黒っぽく見えることでしょう。青い照明を使った場合、「全身黒ずくめ」に見えた不審者が、実は「黒いズボンと赤いジャンパーを着ていた」ということは、十分起こり得るのです。
その本当の効果は別として、地域の防犯活動の象徴として「青い照明」の導入を進めようという動きがあります。しかし、「防犯」のために新しく明かりの導入を考える場合、この「私たちが感じるモノの色が、白い光で照らされることが前提」となっていることを頭に置いて、「青い色の照明が色による証跡性を損なう」ものであることを考慮しなければなりません。
技術の進歩は、人々の生活をより便利にし、社会を豊かにします。しかし一方で、それは思いもかけない副作用をもたらすことがあります。青色LEDによって簡単に実現できるようになった「青い照明」についても、「防犯に効果あり」と言われる反面、モノの色を分からなくするという副作用があることを覚えておいていただければと思います。
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