ホーム > ホームセキュリティ > 月水金フラッシュニュース > 月水金フラッシュニュース・バックナンバー > 「言葉が伝わる」とはどういうことか
〜形をもたない「セキュリティ」を研究する立場から〜
2018年も4月、新年度のスタートです。組織における異動や新入学など、新しい生活を始めた方も多いかと思います。新しい環境では、周りに自分がどういう人間なのか自己紹介したり、抱負を語ったりする機会も多くあります。そのような際に、自分の考えていることを間違いなくなく伝えることは、とても大切なことです。
今回は「言葉が伝わる」ということがどういうことなのかという観点から、セキュリティについて考えてみたいと思います。
・「100グラムの肉」はどれくらい?
全世界の共通語の一つに、「数字」があります。数字で示されているものは世界共通で伝わるものと考えられています。実際、「100g(グラム)の肉」は、世界のどこでも「100gの肉」でありブレることはありません。
一方、この「100gの肉」が「大体どれくらいの量なのか」といった実感は、「100gの肉」という表記だけで伝えることはできません。「100gの肉」という表記は、その「100gの肉」を、実際に見たり持ったりする経験によって形づくられた「共通イメージ」と一緒になってはじめて、人に伝わる「言葉」になるのです。
・尺貫法がわりと最近まで使われていた理由
モノの重さを「グラム」で表すメートル法が日本で完全実施されたのは、1966年であり、それほどに昔のことではありません。前回の東京五輪があったころ、肉屋ではまだ「百匁(もんめ)○○円」という表記も使われていたのです。当時の肉屋で買い物をしていた人々が育ったころは、尺貫法による匁(もんめ)が広く一般的に使われていました。そのため昭和30年代頃までは、「グラム」よりも「匁」の方が、実感をもってイメージしやすい人が多かったというのが、店先で尺貫法が使われ続けた理由でしょう。(ちなみに「百匁」は、メートル法では「375g」です)
・コミュニケーションには何が必要か?
言葉によるコミュニケーションに欠かせないのが、人々の間で「表記とその表記が表すモノの対象のイメージ」が共有されていることです。「アンモニアの臭い」や「塩素の臭い」が、中学校などの理科の教材で説明されていることがありますが、まったく異なった臭いであるにも関わらず、両方とも「鼻を刺すような刺激臭」と書かれていたりします。「アンモニアの臭い」も「塩素の臭い」も、それを嗅いだことのない人間には「言葉で伝える」ことはできません。「アンモニアの臭い」という言葉は、アンモニアを嗅いだことがあり、それによって頭の中に「その臭い」の「共通イメージ」を持った人間の間でしか「コミュニケーションの道具」として機能しないのです。
・「リスクコミュニケーション」に必要なこと
たとえば、新生活における抱負で「前向きに頑張ります」と言ったとき、抽象度の高い、この言葉によって「話し手」が表現しようとしたイメージと、「聞き手」が受け取ったイメージの間に距離が生じることがあります。このように、伝えたいイメージが「概念」の場合、そのイメージが人々の間で大きく異なることは多々あるでしょう。その話し手と聞き手の「イメージの間の距離」は、言葉によるコミュニケーションで起こる「誤解」の大きな原因になります。
セキュリティやリスクマネジメントなどの分野では、広く人々に「『安全・安心』を感じてもらうための広報」である「リスクコミュニケーション」を行う場面が存在します。そのリスクコミュニケーションを行うとき、私たちは、「安全」や「安心」という概念、すなわち「実体を持たない対象」を、言葉を使って伝えていかなければなりません。その時、話し手と聞き手の「イメージの間の距離」をどう小さくするかは、人々に「『安全・安心』を感じてもらう」ために必要不可欠な検討事項となります。
この概念と言葉の対応関係をどう担保し、人々が持つ「共通イメージ」を形作っていくか。セキュリティ、安心・・・、形をもたない対象を研究する私たちは、言葉とその言葉が指し示す対象、そしてその共通イメージに関する検討も進めていかなければならないのです。
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