ホーム > ホームセキュリティ > 月水金フラッシュニュース > 月水金フラッシュニュース・バックナンバー > 「確かにこの目で見た」はあてにならない 〜指差喚呼のススメ〜
一つひとつを指さし確認
鉄道やバスなどの公共交通機関では、乗務員が信号や車内の表示装置の一つひとつを、指で差して「○○良し!」、「△△良し!」と声を出して確認することが行われています。私たちがこの行為を目にすることが多いのは鉄道やバスなど公共交通機関だと思います。しかしもともとは、鉱山における採掘現場などのリスクが多い場所で、労働災害を減らすために始まったものと言われており、鉱山などの現場では、一人の単純ミスが、そこで全員の命に関わることも少なくないことから、そこで働くものの知恵として生まれたものではないかという説があります。
ヒューマンエラーを減らす手段として有効
確認しなければならないモノの一つひとつについて、腕を伸ばすという大きな動作を伴いながら指で差し示し、大きな声で「○○良し!」と発声して確認するこの安全確認行為は、「指差喚呼」(しさかんこ)と呼ばれています。この行為は、労働災害事故のみならず、人のミスであるヒューマンエラー全般を減らす手段として有効であることが、安全に関するさまざまな研究で明らかにされています。
視覚がだまされる例
私たちはなぜミスをしてしまうのでしょうか?「この目で確かに見たから間違いない」というセリフもしばしば耳にしますが、私たちの視覚は、思った以上にアテにならない感覚だということが、これまでの認知科学の研究から分かってきています。皆さんは「杏マナー」というコトバを知っていますか?
これから、このコトバを使ったマジックをお見せします。
杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー
ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏
杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー杏マナー
ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏ーナマ杏
皆さんには「杏マナー」と、それをひっくり返した「ーナマ杏」の文字列が、どのように見えるでしょうか?多くの人には、「杏マナー」の文字列は右下がりに、逆に「ーナマ杏」の文字列は右上がりに見えたのではないかと思います。フォントを横に並べた「文字列」であるため、傾いていないことは明らかであるにもかかわらず、私たちの視覚では、どうしてもそう見えてしまう。これは、「杏」、「マ」「ナ」、「ー」の文字の一つひとつに含まれる「横棒の位置」が、徐々に下がったり、上がったりすることで感じてしまう視覚上の錯覚であるといわれています。
思い込みよる視覚の混乱
私たちの視覚の「アテにならなさ」を、文字列で表現できる視覚上の錯覚(文字列傾斜錯視)の一例で示しましたが、私たちの視覚は「思い込み」によっても簡単にだまされてしまいます。
次は、このコラムの文章の後にある絵をご覧ください。まずは上に示した絵です。皆さんは、この絵のAとBで示した部分の「濃さ」がどう見えるでしょうか。実はこの絵のAとBは同じ「濃さ」なのです。しかし、私たちの目にはどうしてもそうとは感じられません。
そして、下に示したAとBを連結させた絵を見ると、両者は確かに同じ濃さであることが分かります。ところが、この「連結部分」を何かで隠すと、とたんにAが 濃く、Bが薄く見えるようになってしまいます。
これは「Adelson錯視」と呼ばれる有名な錯覚の一つで、私たちが生まれたときから無意識のうちに学習し続けてきた「影に関する事前知識」が、視覚を惑わすことで発生する錯覚と理解されています。
これらに代表される錯覚は、「この目で見たから間違いない」というセリフが、思いの外信用できないことを示す例といえます。このように、「無意識に働きかけるもの並び」や「ちょっとした思い込み」、「事前知識」などによって、私たちの認知能力は簡単に歪められてしまうのです。
指差喚呼は「思い込み」の排除に有効
確認しなければならないモノの一つひとつについて、腕を大きく伸ばして指で差し示し、大きな声で「○○良し!」と発声して確認する指差喚呼は、ヒューマンエラーを減らす手段として有効であることが確認されています。これは、一連の動作と発声、そしてそれを自らの耳で聞くことが、「ちょっとした思い込み」や事前知識などによって引き起こされる「人間の誤認知」確率を下げるからであると理解できます。
セキュリティの現場においても
人によるサービスが原点の「セキュリティの現場」においても、ヒューマンエラーを減らす手段として、視覚だけでない感覚も使った「指差喚呼」が励行されています。セキュリティ用途では、味覚はあまり使われることはありませんが、人の持つそれ以外の4つの感覚をフル活用した「指差喚呼」が励行され、「安全・安心」な環境を維持することに大いに役立っているのです。
最後に、住宅の泥棒被害の多くが、住人の施錠し忘れ(無施錠)というヒューマンエラーによって起こっています。「『火の元』良し!」、「『窓締め、施錠』良し!」。私たちも、日々の生活で指差喚呼という先人の知恵を、積極的に使わせてもらい、「思い込みなどによって発生するヒューマンエラー」対策をしてみてはどうでしょうか。コストもかからず、簡単に実現できる、日々の防犯対策になりますね。
(参考)
・安心豆知識「私たちが惑わされやすい思い込みの傾向」
・データから読む「侵入手口の主流は無施錠箇所からの侵入」
・Adelson錯視(米国・マサチューセッツ工科大学)
(今回の「Adelson錯視図」は、作者によって使用が認められています)
セコムIS研究所
リスクマネジメントグループ
甘利康文
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