皆さんは「労働の種類」というと何を思い浮かべるでしょうか？多くの人は、「肉体労働」と「頭脳労働」の２つを思い浮かぶことと思います。

・肉体労働と頭脳労働
「肉体労働」の多くは、体を使って周りに働きかける仕事であり、その対価である賃金は、労働時間や作業量をベースとして支払われます。「肉体労働」は、大昔からあった「仕事」の基本的な形態であり、その対価は、労働に対する手間賃と言えるでしょう。
　一方、「頭脳労働」は、一般に頭を使って周りに働きかける仕事を指し、その成果は、それを行った労働時間や作業量にリンクしないことも少なくありません。このことから、最近は「見なし賃金」などの形で、労働時間に比例しない形の対価支払いもなされるようになりました。

・労働の新しいタイプ
　最近は、これら「肉体労働」、「頭脳労働」に加え、「感情労働」というタイプの労働があると言われるようになっています。「感情労働」では、働く人は、周りにいる人々が、特定の精神状態を持つように、動作や言葉、態度、表情などを使って働きかけます。分かりやすく言えば「何らかの『意図的な振る舞い』が必要とされる労働」のことだと言えるでしょう。
「感情労働」では、働く人が「周りの人にもたらした(良い)感情」をベースに賃金が支払われます。「感情労働」は、もともとは、飛行機の客室乗務員の勤務を分析して提唱された労働概念ですが、人との対応を必要とするサービス業全般に、この「感情労働」の要素は、大なり小なり含まれています。「人に良い気持ちになってもらうこと」が、対価を頂戴するための要件の一部になっているからです。

・セキュリティという仕事は、どういう労働の種類に分類されるか？
　さて、ここで「セキュリティ」という仕事について考えてみます。セキュリティ業務も「人との対応を必要とする仕事」のひとつですから、「感情労働」の要素が多々入っていると見なせます。
　実際、セキュリティにおいては「周りにいる人々に与える印象」が、その場所のセキュリティレベルを左右することも少なくありません。そのため、セキュリティスタッフは、手入れが行き届いた清潔でパリッとした制服を着崩すことなくきちんと着用する必要があります。
　また、適度な声量の明瞭なあいさつや受け答えを行い、さらに颯爽とした一つひとつの動作から、周りの人々に「見るからに安心だ」と感じてもらわなければなりません。セキュリティサービスを高いレベルでシステム化し、品質を保つためには、それを提供するスタッフ一人ひとりの一挙手一投足が人に与える印象まで考えて設計され、実施されている必要があるということです。

・セキュリティは見せる仕事
　セキュリティという仕事には「見せる」という側面が多々あります。そのため、セキュリティサービスの質に、それを提供するスタッフが周りに与える第一印象の影響は無視できません。
　自衛官や警察官、消防官など、社会のセキュリティに携わる多くの人々は、自らの立ち振る舞いが周囲から見られるものであることについて十分に意識し、自らを律する訓練をしています。これについては、民間の立場からセキュリティサービスを提供する人間についても全く同様です。

　すぐれたセキュリティスタッフは、悪いことができない環境の原点、人々の安心感の原点が「自らの立ち振る舞いが周りにいる人々に与える印象」にあることを知っています。ホームセキュリティなどのセキュリティサービスでは、この「人々に与える印象」がとても重要なのです。

（参考)
・安心豆知識「いざという時に備えて訓練が必要」
・安心豆知識「その組織は人を育てているか　サービス業の宿命」
・安心豆知識「セキュリティは単純な価格比較では選べない」
・研修・教育　（セコムの研修・教育制度紹介ページ）

セコムＩＳ研究所
リスクマネジメントグループ
甘利康文