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不正のトライアングル理論
犯罪学の分野に「不正のトライアングル理論」と呼ばれる有名な理論があります。20世紀半ばにアメリカのクレッシーという犯罪学者が、組織における内部不正犯罪者を調査して導き出した理論で、組織で働く人間が、職場内で横領をするに至る3つの条件を示したものです。
不正のトライアングル理論では、「組織で働く人間は、(1) 他人に打ち明けられない金銭的ニーズ、(2) 犯行の機会、(3) 犯行を(自分なりに)正当化する手段、の3つが揃ったときに横領(内部不正)を行う」と言っています。
一般的に言うと、
(1) 人に知られたくない理由で金銭的に困っている。
(2) 周囲の目がなく、お金を横領しても誰も気づかない。
(3) 唯一の目撃者である「自分自身」に言い訳ができる。
これら3つが揃ったときに、人は犯罪者になり、横領をするということです。
この理論は、組織において内部不正が行われるための3つの条件を示したものですが、個人が防犯対策を行ううえでも参考になります。
自分自身への言い訳
個人の防犯対策を考えるうえにおいては、「金銭的に困っている」は、守る側では積極的に関与できない項目であるため、ここでは触れません。2つめの「周囲の目」の存在については、本コラムで過去何回も触れていますので、今回は3つめの「自分自身への言い訳」について考えてみます。
不正のトライアングル理論では、「盗んだのではなく、借りるのだ」とか、「下げ相場の一時的な損金で、相場が戻れば問題ない」、「これは自分への報酬の一部だ」など、人が横領という犯罪を行うためには、「自分自身を説得するための言い訳」が必要だと説いています。
これらの「言い訳」は、ニュースで流れることも多く、皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。私たちの頭にも残っている言い訳の数々は、不正のトライアングル理論の3つめの要件、「自己正当化の必要性」を裏付けるものであり、私たちが「悪いことをするためには何らかの言い訳が必要である」ことを物語っていると言えるでしょう。「人は、自分自身を納得させるための言い訳なしには、そう簡単には悪いことはできない」ということです。
「言い訳の余地をなくす」という防犯対策
これを横領ではなく、個人の防犯に当てはめて考えてみます。個人宅への泥棒の侵入手口の1位は「無施錠」。すなわちカギがかかっていない所から侵入するという手口です。この「無施錠」ですが、泥棒にとっては、扉や窓を破るという手間がかからないだけでなく、「カギをかけていない方が悪いのだ」、「無防備である方が悪いのだ」という(自分自身への)言い訳がしやすいのです。
多くの防犯対策は、それなりの時間と手間をかけた場合、破ることは不可能ではありません。しかし防犯対策をすることによって「侵入にそれなりの時間と手間をかけさせること」は、周りから見られるリスクを増やすことに加え、「言い訳の余地をなくす」ことにつながります。防犯対策を手間暇かけて破るという行為のためには、自らを「完全なる悪人」にしなければならないからです。
それを本業として行う本当のプロの「専業泥棒」以外の人間には、「良心」が残っている場合も少なくありません。その人間が、泥棒という行為を行うためには、その良心を押さえつけ自らを納得させるための、なんらかの「言い訳」が必要なのです。この言い訳の余地をつくらない。ちょっとした用心や防犯対策が効果を発揮する理由の一つです。
防犯対策には、単に物理的に侵入しにくくする手段を超え、泥棒をその気にさせないという効果があることがお分かりいただけるのではないかと思います。
セコムIS研究所
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甘利康文
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