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泥棒の服装と不審の判断基準

 泥棒の格好を思い描いてみてくださいと言われて、黒装束にほおかむり、唐草模様の風呂敷を背負ってというような、江戸時代の泥棒をイメージする人は、今ではさすがにいないとは思いますが、実際の泥棒は、どのような服装をしているのでしょうか?警察のデータでは、泥棒の服装で一番多いのはスーツ、次に作業着、普段着、それにジャージが続くという結果となっています。

 先のコラムで、泥棒が一番嫌うものとして、何かあったときにアクションを起こしてくれる「周囲の目」があることを述べさせていただきました。泥棒がスーツを好むのは、この「周囲の目」に気づかれにくくするためなのです。

 スーツを着てアタッシュケースを手にした見慣れない顔の人物が、住宅街をうろうろして侵入先を物色していても、個人宅を営業して回っているセールスマンと見分けがつきません。作業着は、この点不利になります。作業着で住宅街をうろうろしていた場合、「周囲の目」に怪しいと思われることがスーツにくらべて多いからです。作業着では、雑踏に紛れ込んで、逃走する場合にも目立ちます。泥棒の格好は、いかに周りに溶け込んで、目立たないかというところからきています。

 さて、皆さんは、お隣の家に作業用軽ワゴン車で乗り付け、屋根にハシゴをかけた人間が、「○○工務店」「××住設」などと書かれた作業着を着ていた場合、怪しいと感じることができるでしょうか?おそらくこのような状況では、怪しいと感じることができる人間は多くないのではないかと思います。先のケースとは違い、このような場面では、作業着の方が自然だからです。

 人は、ある人物が「そこにいてもおかしくない人間かどうか」を判断するのに、無意識のうちに、周りの状況とその人物の服装やふるまいに違和感がないかという点をその尺度にしています。それゆえ、アタッシュケースを持ち、スーツ姿で住宅街を歩いている人物に対して、その時間その場所にいてもおかしくない人物、すなわち怪しくないという判断を下しがちなのです。住宅街を物色する、一般の泥棒の服装として、スーツ姿が多い理由です。

 同様に、作業着を着た人物が、隣の家に軽ワゴンで乗り付けて、屋根にハシゴをかけても、周囲の状況とその人物の服装の整合性という観点から、多くの人はまったく不審には感じません。その人物がもし泥棒だったら、窓の点検をしているようなふりをしてカギを壊し、堂々と侵入することができます。

 重要なので繰り返します。人は、ある人物が「不審」かどうかを判断する上では、周りの状況と、その人物の様子(服装やふるまい)に、整合性があるかどうかを、無意識のうちにその判断基準にしています。人が本能的に持つ、この判断基準を逆手に取ってくる悪い人がいる、ということを忘れないようにすることが、犯罪被害にあわないようにするために重要かと思います。

セコムIS研究所
セキュリティコンサルティンググループ
甘利 康文

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