今村 俊樹

サウンドインフォ・プロセシンググループ

— 大学時代はどんな研究をしていましたか?

私は、生体工学専攻の福祉工学研究室に在籍していました。生体工学は、工学と医療の中間領域を研究する分野です。その中でも、工学技術で障害者の課題解決を目指す福祉工学にとても興味がありました。また、小学校時代に聴覚障害のある同級生が居て、当時はその人のために何とかしてあげたいと思っていたことを思い出したのも、この分野を選んだ理由のひとつです。

当時の研究テーマは、感音性難聴者と健聴者の聴覚特性の差異を測定して、難聴者に足りない音情報を工学的に補償するというものでした。聴覚障害の程度による個人差が大きく、成果は芳しいものではありませんでした。しかし、研究を通して医師や障害者の方々とたくさんお話できたことは、世界観を広げる一助になりました。また同じ研究室の仲間から、発声障害や視覚障害の研究について身近で学ぶ機会が多くありました。そのときの知識が、思いがけず就職後すぐに役に立ちました。

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— 就職後の経歴を教えてください

初めての大きな取組みは、発声補助に関する研究です。これは、喉頭ガンで喉頭を摘出した人の発声を補助する機器の開発に繋がるものでした。大学時代の経験や仲間の協力もあり、とても良い研究ができたと思っています。ハードウェアの試作機を自分で作り、実際に喉頭摘出者に使っていただきながら改良を進められたのも良い経験でした。研究成果は「電気式人工喉頭 マイボイス」として商品化され、現在も代理店経由で、多くの喉頭摘出者の方々の日常会話の補助具として使っていただいています。
障害者や高齢者の補助を行う研究では他にも、聴覚障害者の補助具開発や、高齢者の外出支援プロジェクトなども行いました。

また小型飛行監視ロボットの研究に、ハードウェアの担当として携わりました。まだ黎明期だったドローンやSLAM技術などに触れる機会があり、研究者としての幅が広がる良い経験でした。


— 今はどんな研究をしていますか?

現在は超音波を利用した、人間の状態を把握するセンシング技術の研究に従事しています。これは、一人暮らしの高齢者の見守りなどに応用できると考えています。家の中という生活エリアで見守りをする場合、プライバシー保護を考慮して、カメラ以外でのセンシング技術も重要になります。
この研究では、人間の状態を把握しやすくするため、超音波の送受方法に工夫を凝らしたことで、ユニークなセンサー特性を実現しました。この独自の特性を実現するために、シミュレーションによる音波解析、構造設計、試作の度重なる試行錯誤がありました。意図した性能に到達した時には、それまでの苦労が報われ、大きな達成感を味わうことができました。今は研究成果であるセンサーで、居室内の人の行動を把握するフェーズに移行しています。

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—普段の仕事や生活はどんな様子ですか?

普段はコーディングや、ハードウェアの試作と評価など、実験室を研究活動の拠点としています。実験室の1つである無響室にこもって実験をしていたときは、熱中して時間を忘れてしまうこともありました。一人で仕事をしていることが多いですが、ディスカッションや実験などで、大いに仲間に助けてもらっています。

退社後や休日は、仕事の文献を調査することもありますが、主に子供の面倒をみて過ごしています。共働きなので家事バランスにも気を配りながら生活しています。IS研究所は裁量労働制のため、時間の使い方の融通が利きます。子供の事情で、自宅で長時間の家事が必要な時期があったときも、出退社時間の調整ができて大いに助かりました。