子どもの安全に関する研究

子どもは社会の未来を担う宝です。しかし近年、子どもが被害者となる事件のニュースを頻繁に目にするようになりました。これまで比較的安全だと思われていた地域においても子どもを狙う事件が起きています。インターネットでの情報拡散により異常な犯罪が報道されることが増え、事件がより身近に感じられるため、子どもの安全に対する不安は日増しに高まっています。

略取・誘拐事件の年次推移
略取・誘拐事件の年次推移

本テーマでは、より効果的な安全教育のあり方を見極めることが目的です。そのために、子どもの安全に関する情報収集や分析と、体験型安全教室による効果測定を行います。またこれらの結果をもとに、さまざまな子どもの安全の活動に落とし込み、実践するというサイクルで進めています。


効果的な安全教育の在り方を調べるための研究

安全教育は、大学や公的機関、各種研究機関などで、防犯標語の作成や防災ワークショップ、通学路の安全点検、ヒヤリハットマップの作成などたくさんの取組みが行われてきました。しかし、実際にどのような安全教育の取組みが効果的かは、まだ明らかにされていません。
本テーマでは、セコムが小学生を対象に安全について学ぶ「セコム子ども安全教室」を通じて、効果的な安全教育は何かを探る実験を行っています。知識を学ぶ座学だけではなく、体験型のコンテンツを作成し、子どもたちが実際に体を動かして学ぶことによる効果を調べる実験を行いました。

セコム子ども安全教室
セコム子ども安全教室

下図は、荷物の有無によって走る速さがどれだけ違うかを、子どもたちが実際に走って測定した結果です。この体験では約50mの距離を3、4年生の子どもたちが走ったときに、荷物がある場合は何も持たない場合と比べて1秒ほど速度が下がりました。またこの年齢では男女差があまり大きくありません。
実際に荷物がある場合とない場合の違いについて子どもたちに聞くと、「荷物がない時の方が断然速く走れた」という意見があり、測定値よりもさらに体感的な違いを大きく感じていることがわかりました。実際に走って比べてみることは「より速く逃げるには荷物を捨てて逃げる」という大事なポイントを伝える上で非常に有効な方法だと考えられます。

荷物の有無による走る速さの違い
荷物の有無による走る速さの違い

また下図は、座学型と体験型のそれぞれの安全教室を受けた子供たちに、「不審者から逃げるときに気を付けることは何か」という質問をしたときの回答です。座学型を受けた子供たちは逃げる「場所」を重視したのに対し、体験型を受けた子供たちは逃げる「方法」を重視しました。助けてもらえる「場所」を知っておくことは大切ですが、その前段階として「どうすれば逃げられるか」を知るために、実際に体験することが有効だとわかります。

不審者から逃げるときに気を付けることの回答の比較
不審者から逃げるときに気を付けることの回答の比較

この他にも、「助けを求める声がどれだけ聞こえるか」「不審者の声掛けに対してどのように答えるのが良いか」などの体験を行いました。体験型の安全教室を通して、子供たちは座学だけでは得られなかった気付きを得られます。他にもさまざまなチャレンジを実施してデータを増やし、より効果的な安全教室の実践につなげていきます。


子どもの安全に関わる活動の実践

本テーマは、セコムで行う子どもたちの安全を守るための活動の企画や情報収集、情報発信、コンテンツ作成などの中心的な役割を果たしています。研究で得られた知見を各活動に活かせるだけでなく、活動の中で得られた知見を研究にフィードバックできます。以下は、セコム子ども安全教室以外にも本研究が関わる活動の例です。

子どもの安全ブログ

子どもの安全に関わるコンテンツを合計1000本以上掲載し、月5万~10万PVを獲得しているブログです。防犯だけでなく、防災や事故予防、季節ごとの注意など、子どもに対する不安について正しい情報と対策を紹介しています。本テーマの担当者、舟生主務研究員がコンテンツの多くを作成しています。

キッズデザイン協議会をはじめとした外部活動

子どもたちが安全・安心に、健やかに成長することができる社会と、子どもたちを生み育てやすい社会づくりを目指す、産官学民が連携した協議会です。発足当時から舟生主務研究員が理事を務め、現在は研究開発部会長を務めています。
この協議会では標準化事業として、子供の安全に配慮した製品や環境、サービスを促進する「キッズデザインガイドライン」の作成が行われており、セコムのサービス業としての視点が取り入れられています。このほか調査研究事業、「キッズデザイン賞」の顕彰事業、広報事業など多岐に渡る事業で、舟生主務研究員がセコムを代表として取り組んでいます。またキッズデザイン協議会のほか下記の団体にも参加しています。

  • 防災教育チャレンジプラン(内閣府)実行委員
  • 防犯教育に関する連絡会議 (警視庁)委員
  • 地域安全マップコンテスト審査員 (オゴー産業株式会社主催)
キッズデザイン賞
キッズデザイン賞

講演・セミナー

報道やネットを通した社会情勢や、警察から発表された犯罪データなども取り入れた講演を実施しています。全国各地の保護者や教員向けの講演のほか、各種イベントや警備業協会の研修、警察学校、大学での講義なども実施しています。また日本安全教育学会で研究成果を毎年発表し、知識の共有を行っています。

取材対応など

新聞、テレビ、Webサイトなどでの子どもの安全に関する取材に舟生主務研究員が対応し、情報を発信しています(2017~20年度で82本)。

書籍・絵本等の執筆、監修

安全に関する知識を伝えるため、舟生主務研究員が書籍の執筆や監修を行っています。また、子ども自身が安全について学べるよう、安全をテーマとした絵本の監修も行っています。

  • 白いおばけのスー(2005 駒草出版)
  • わたしをみて、おかあさん!(2007 瑞雲舎)
  • 大切な子どもの守り方(2015 総合法令出版)
  • 子どもの防犯マニュアル(2017 日経BP社)
  • 自分を守る!身近な危険(2019 小学館)など
子どもの安全に関する書籍
子どもの安全に関する書籍

子どもがITを安全に賢く使いこなせるようにするための啓発活動

近年は、子どものスマホの利用率が高まり、小学生のほぼ半数、高校生のほぼ全員がスマホを利用しているという調査結果があります。それにともない、ネットリテラシーを十分に身につけていない子どもたちが、動画サイトやSNSなどで犯罪やトラブルに遭遇するケースが急増しています。子どもたちが、新しい情報流通の仕組みに接することで起こりうる危険性について調査し、安全で有効な利用の仕方について伝えていく取り組みを行っています。

このようにマルチチャンネルでより多くの方々に子どもの安全について啓発していく方法を探り、より効果的な安全教育と情報発信の在り方を追求して社会に提供していくことで、子どもたちが安全に健やかに成長していくことのできる社会づくりのための研究を今後も進めていきます。