空間情報とマルチソースデータの連携手法

いつでもどこでもユーザーの状態を把握するには

現在、セコムは「あんしんプラットフォーム構想」の実現を目指しています。あんしんプラットフォームの特徴は、「時間や空間にとらわれないサービスの提供」や「一人ひとりのお客様に寄り添ったサービスの提供」です。これらを実現するためには、時間や場所に依らずユーザーの状態を把握することが必要です。

ユーザーの状態を把握する手段には、IoTデバイスから取得したセンシングデータや、空間情報、POI(Point of Interest)データなどを活用するものがあります。空間情報とは、現実世界の地形や建物の位置、形状、設計情報、各種属性情報、センサーやカメラ、SNSなどから得られたリアルタイム情報を含んだデジタルデータの総称です。またPOIデータは、店舗の位置やAED等の設備の位置、特定の場所におけるイベントの開催情報等といった、空間の特定の位置における人々の興味の対象を表すデータです。ただし、一企業が大量のIoT機器を設置したり、あらゆる場所の空間情報やPOIデータを生成したりするのは、コストや権利などの観点から困難であるという課題があります。


複数の組織がもつデータを活用

現在、IoTデータや空間情報、POIデータは、さまざまなサービスに活用するために複数の組織が生成・収集・管理しています。そこで本研究では、自社だけでなく他の組織がもつデータ(以下マルチソースデータ)も活用し、あらゆる場所でユーザーの状態を把握するアプローチを検討しています。マルチソースデータを活用するためには、次の4つの課題を解決する必要があります。

  1. ユーザーの所在地周辺の空間情報やPOIデータ、IoTデバイスの有無をどうやって知るか
  2. データアクセス方法をどうやって知るか
  3. 形式やファイルフォーマットをどのように扱うか
  4. データの利用権やプライバシー、セキュリティをどのように扱うか

本テーマでは、1と2の課題を解決するためにメタデータを活用します。メタデータとは、データの作成者や作成日時等といったデータの特徴を説明し、検索しやすくするためのデータです。このアプローチでは、時空間的にデータを検索するためのメタデータを扱う環境を構築します。この環境を利用すると、ユーザー周辺の空間情報やPOIデータ、IoTデバイスとセンシングデータの有無を検索できるだけでなく、そのデータへのアクセス方法も把握できます。

3の課題を解決するためには、マルチソースデータの相互運用性(Data Interoperability)の向上が必要です。相互運用性とは、異なるシステム間であってもデータを同様に解釈することができる能力を意味します。現在、マルチソースデータの形式やファイルフォーマットは、管理する組織ごとに異なっていることが多く、相互運用性は高くありません。相互運用性を向上するためにはデータの仕様を策定し、標準化することが必要です。各組織が標準化された仕様に従いデータを扱うことで、相互運用性が高まります。ただし、それらの仕様はデータを活用したいサービスにとって、必要な情報がデータ項目として盛り込まれている扱いやすいものであることが求められます。 例えば、警備業であれば図面データのみならず、センサーの設置場所やそのセンサーの監視対象の情報が必要になります。一方、出入管理サービスでは、各部屋のセキュリティレベルの情報が必要になります。
IS研究所では、スマートホームや建物の運用・維持管理などの、具体的なサービスの実証実験を行っています。本研究では、その実験を通してサービスへの活用に有効なマルチソースデータ仕様を検討しています。

空間情報とマルチソースデータの連携
空間情報とマルチソースデータの連携

標準化したデータ仕様を普及

データ仕様は標準化されたとしても、普及するとは限りません。標準化されたデータ仕様を普及させるためには、どの組織でもそのデータ仕様に準拠したデータを扱うことにメリットがあり、加えてデータが扱いやすくなければなりません。そこで、標準化されたデータ仕様に準拠したデータを、セコム以外の組織も採用することを目指し、本研究で検討したデータ仕様を、社会実装する活動も行っています。複数の組織と、データ活用社会のビジョンを共有し、それを実現するための課題解決に取り組むことが重要です。その一環として、社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)のスマートホーム部会・スマートホームデータカタログ ワーキンググループや、東京大学グリーンICTプロジェクト(GUTP)のBIM基盤ワーキンググループの活動にも参加しています。