波動センサによる行動認識技術

近年、高齢者の総人口に占める割合の増加 に伴い、「見守りサービス」が注目されています。私たちが目指す見守りサービスとは、ユーザーの体調などを常に把握し、異常の際には適切な対処を行うものです。このサービスでは、緊急を要する事態をいかに迅速に検知し、素早く適切な処置を行えるかが重要です。そのためにはユーザーの状態をいつも的確に把握する技術が望まれます。その技術の候補の1つとしてカメラ画像による認識技術があります。カメラ画像は情報量が多く、状況を把握するのに有利である一方、プライバシー保護やユーザーの受容性の観点から利用できない場面も存在します。

本テーマでは、電波や超音波などの波動を媒体とするセンサで「バイタルサイン(呼吸や心拍)」と「行動」を捉え、プライバシー保護や受容性に配慮しつつユーザーの状態を把握する技術の確立を目指しています。波動センサは、カメラと比べて情報量が少ないものの、物体の大きさや動きなど何が起きているかを知るのに必要最小限な情報を獲得できます。そのためプライバシーを保護しながらも、ユーザーが倒れて動かないなどの異常状態を検知できます。

波動センサによる異常検知の例
波動センサによる異常検知の例

また、ユーザーの状態を時系列的に解析して普段の生活の様子も把握できます(例:トイレの利用頻度、就寝時間、心拍数など)。生活のパターンは、認知症や体力低下にともなう転倒などのリスクを評価することにも役立ちます。生活のパターンの変化からリスクの予兆を捉えられれば、リスクの緩和や防止などができると期待されています。

波動センサによる異常の予兆検知
波動センサによる異常の予兆検知

電波センサの特徴

電波は、周波数によって異なる性質があり、携帯電話の通信やテレビの放送、レーダーのほか、セキュリティや見守りなど幅広い用途に利用されています。近年は、衝突防止用の車載レーダーが普及し、マイクロ波やミリ波のデバイスの低価格化と高機能化が進んでいることも理由のひとつです。電波センサを見守りに利用する場合、車載レーダーやセキュリティとは使用環境やセンサの設置条件、検知対象に違いがあるため、用途に合わせてハードウェア・ソフトウェアの両面から最適なものにする必要があります。

電波はカメラと比較して多くの利点があります。例えばカメラは、雨や霧、暗闇などの環境では、何が写っているか判別が難しいことがあります。一方、電波はそれらの影響を受け難く、物体の位置や速度を安定して測定できます。
また適切な周波数帯を利用すれば、1センチメートル以下の微小な動きの検知や、木材やプラスチック等非金属で水分を含まない物体を透過したうえでの検知もできます。


超音波センサの特徴

超音波とは、周波数20kHz以上の人間が知覚できない音波です。微小な動きの検知ができるものの、電波より伝搬速度が遅いため高速な計測には向きません。しかし、水中での伝搬減衰が少ないという特徴があるため、電波センサでは難しい、浴槽に浸かった人物の状態検知などへの活用ができます。また超音波は電波の影響を受けないため、電波センサと比べて家電との共存が容易です。さらに超音波は壁を透過しないため、閉じられた居室内に限定した見守りもできます。

家庭内にセンサを設置する場合、センサの設置数は可能な限り少ない事が望まれます。しかし、単体で広い範囲を精度良く検知できる超音波センサは世の中には存在しないため、独自の超音波センサを考案と試作を行いました。


波動センサによる見守りの実現方法

本テーマでは、波動センサで取得した人のバイタルサインと行動の情報を組み合わせ、呼吸の乱れや転倒などの異常事態や体調悪化などの予兆の検知を実現します。バイタルサインの取得は、適切な周波数帯の波動を利用して、呼吸による胸の動きや心拍による皮膚の微小な動きを捉えることで行います。一方、波動センサは画像よりも情報量が少ないため、人の行動を把握するのは容易ではありません。そこで、ディープラーニングをはじめとした認識技術を応用し、人の位置と姿勢を推定し、時系列解析して行動を把握します。

バイタルサインを確認する方法として、スマートウォッチなどのウェアラブル端末を装着する選択肢もあります。ウェアラブル端末もプライバシーに配慮したうえでバイタルサインを確認する良い手段ですが、充電や入浴などで定期的に外すという煩わしさや、外したあと着け忘れる懸念があります。波動センサは、それらの懸念を払拭しつつ、行動把握の機能も併せ持つ優位性があります。波動センサによる見守りサービスは、ユーザーの多様な要望に応えられる選択肢の1つになると考えています。


関連特許

  • 特開2016-193020, 特許6412458,「超音波センサ」
  • 特開2019-158364,特許6716620, 「センサ装置及び変位判定システム」
  • 特開2019-158365, 特許6716621, 「物体判定装置及びセンサ装置」
  • 特開2019-168431, 特許6754793, 「センサ装置及び変位判定システム」
  • 特開2019-149622, 特許6716618, 「音波合成装置」
  • 特開2020-071050, 「超音波センサ及び超音波減衰装置」