第277回 【インタビュー】警視庁「警備広報」の方に聞く!大規模イベントの雑踏でトラブルにあわないための対策
3月3日、世界6大マラソンのひとつに数えられる「東京マラソン」が開催されました。今年はあいにくの雨でしたが、過去最多となる約3万8000人の方が出場し、約3万5000人の方が完走したそうです。観衆が大勢集まる大規模なイベントでは、事件や事故のリスクがあるため、警察を中心とした厳重な警備体制が敷かれます。
今回は、そんな群衆警備の花形とも言える「警備広報」の方にインタビューし、イベント時に混乱に巻き込まれないための安全対策などを伺いました。
2019.3.13更新
前回は、ハロウィンやカウントダウンなどの大規模イベントで、女性が性犯罪や窃盗などの被害にあわないためにどうしたらいいのかを、警視庁生活安全部の渡辺裕子警視と桑原リカ副主査に伺いました。
今回は、いわゆる「DJポリス」としておなじみの「警備広報」の方に、雑踏特有のリスクや安全対策についてお聞きします。
警視庁警備部警備第一課の川元一郎警視、第四機動隊 広報係の菊池光巡査と瀧田はなの巡査がインタビューに応じてくださいました。
- プロフィール
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●菊池光巡査
平成26年4月に警視庁に入庁し池袋警察署地域課にて交番勤務。
平成29年9月に第四機動隊に異動し警備などの職務を経て、平成30年9月に広報係として勤務、現在に至る。
警備広報として、デモ、板橋の花火大会、明治神宮の初詣、渋谷のハロウィンなどを担当。全体を見ながら、安全でスムーズな誘導を行っている。 -
●瀧田はなの巡査
平成26年4月に警視庁に入庁し玉川警察署地域課にて交番勤務やパトカー勤務。
平成30年3月に第四機動隊に異動し、平成30年7月から広報係として勤務、現在に至る。
警備広報として、板橋花火大会と渋谷のハロウィンなどを担当。玉川警察署時代の平成29年11月、アメリカのトランプ大統領が初めて来日した際に警視庁警備部で作られた「女性警戒部隊」に選抜され、宿泊先ホテルの警備やメラニア夫人や娘のイバンカ大統領補佐官の身辺警備、昭恵首相夫人とメラニア夫人の小学校視察にも同行し、警備にあたった。
雑踏・治安・災害の混乱を防ぐ「警備広報」
- 警備広報は、いわゆる「DJポリス」として知られていますが、機動隊 広報係のお仕事はどのようなものなのでしょうか
- 川元警視: 警視庁には第一から第九までの機動隊と特科車両隊の10個の機動隊があって、それぞれに広報係がいます。
雑踏の群衆に向けて、人混みの中での事故を防止するためのアナウンスをするのが仕事です。
平成25年6月のワールドカップ最終予選警備において、渋谷のスクランブル交差点でのアナウンスが若者の心に触れて、いわゆる「DJポリス」としてマスコミなどにも取り上げられるようになりました。正式名称は「警備現場広報」です。
- 機動隊では、大きく分けて3つの警備を行っています。
ハロウィンや花火大会、マラソンやサッカーなどで行う「雑踏警備」。
デモ行進の規制や、テロなどが発生したときの事態収拾をはかる「治安警備」。
地震や台風などの際に駅などで起きる混乱をさけるために誘導する「災害警備」。
人が集まる理由はさまざまですが、混み合う場所では混乱が生じる恐れがあります。
事態や状況が把握できないと、どのように行動したらいいかわかりませんよね。
そのようなところで機動隊の広報係は、安全に誘導するための呼びかけをおこない、人の流れをつくって事故防止に努めているのです。
- 広報係の方は、人混みでどのようなところに着目してアナウンスしているのでしょうか
- 菊池巡査: 私たちは広報車という車の上から群衆を見ています。
遠くまで見渡せるので、人の流れもわかるのです。
「この流れがこのまま来たら、あの辺りで混乱が起きそうだな」と判断したら、そうなる前に立ち止まらないよう声をかけたり、別のルートを案内したりして、流れを滞留させないようにします。混乱が起きてからでは遅いので、あらかじめ遠くの人にも呼びかけるようにしています。
警備現場は一瞬も同じ状態はなく、生き物のように常に変化し続けているので、事前に予測して、タイミングを逃さずに呼びかけることが欠かせません。
大規模イベントで起きやすい危険
- 年々盛り上がりを見せるハロウィンのイベントですが、一部の群衆が暴徒化するなど、危険な一面も話題になっています。広報係の方から見て、混乱が起きる予兆などはあるのですか
- 瀧田巡査: だれかひとりが目立った行動をすると、それを真似る人が現れて、どんどん混乱が大きくなってしまうことがあります。
楽しいイベントならではの高揚感や一体感があり、不特定多数が集まる場では普段とは違う行動をする人が少なくないということですね。
私たちも、注意を払ってアナウンスしていますが、イベント時に問題のある行動をしている人がいたら、できるだけ近寄らないようにしたほうが安全です。
盛り上がって楽しそうに見えても、巻き込まれたら身に危険がおよぶこともあります。
イベントの雰囲気にのまれないこと、周りに合わせないことが大切です。
- 女性の場合は特に気をつけたほうが良さそうですね。ほかにはどんな危険が起きやすいですか
- 菊池巡査: やはり人が多いと、ぶつかって転んだりする危険性が高いですね。ぶつかり合いでけんかなどのトラブルになることもありました。
また、バッグの開閉口があいていて、財布を取られてしまう被害なども起きています。
私たちはそうしたトラブルが起きないように目を配っていますが、イベント時は独特の雰囲気になるので、いつも以上に周囲への警戒が欠かせません。
楽しむところは楽しみながら、気をつけていただきたいですね。 - 瀧田巡査: 特に女性に気をつけていただきたいのは、花火大会や夏祭りなどのイベントです。
浴衣を着る機会が増えると思いますが、つまずいたり、足を取られたりして転ぶ方が少なくありません。
着慣れていないと体が動かしにくいので、普段の感覚で歩くと危ないかもしれません。
「浴衣の女性の方は足元に注意してください」と繰り返し伝えるようにしています。
大規模イベントを安全に楽しむためには?
- イベントは楽しいものですが、いろいろな危険があることがよくわかりました。そのうえで、どうしたら安全にイベントを楽しめるか、アドバイスはありますか
- 菊池巡査: 広報係は、群衆のなかにいる皆さん一人ひとりが、危険な目にあわないよう、全体を広く見渡しています。
目立つ行動をする人にほかの人がわーっと集まったり、だれかがぶつかって転んでしまったりすると、人の流れが止まってそこで事故が起きます。
そうならないよう、いち早く異変をキャッチして周囲の皆さんに安全な行動をとるように伝えるのが役目なので、ぜひ耳を傾けてほしいと思います。
- 菊池巡査: 大きな花火大会、お祭りなど大規模なイベントでは、機動隊が警備につき、広報係が呼びかけを行っています。
交通情報などもお知らせしていますし、大事なことは繰り返し伝えていますので、冷静になってよく聞いていただくのが安全のポイントです。
たとえば、イベントが終わったあとは、駅へ向かう道に人が集中して、混乱が起きやすくなっています。危険が起きないよう、別の最寄り駅や違うルートをご案内することもあります。
大勢が一斉に動き出すと、心理的に前の人について行きたくなりますが、広報係の言葉も聞いていただき、安全のためにご協力いただけるとうれしいです。
結果的にはそのほうがスムーズに帰途についていただけると思います。
- 現場にいる警察官の指示に従うことが、安全対策のひとつなのですね。ほかに、女性が身を守るために知っておいたほうがいいことはありますか
- 瀧田巡査: 先ほど、盛り上がっている群衆には近づかないほうがいいと言いましたが、ひと気の少ない裏通りなどにも注意してください。
表通りはイベントでにぎやかでも、一歩路地に入ると雰囲気がガラッと変わることもあります。そういった場所で狙われるリスクも、女性は念頭においておいたほうがいいと思います。
また、ひとりでいる女性はどうしても狙われやすくなりますので、イベントに参加するときは複数で一緒に行動したほうが、安全性が高まります。お互いに注意しあってくださいね。 - 菊池巡査: 何か異変があったときは、近くにいる警察官にすぐに知らせてください。
ハンドスピーカーでアナウンスをしている警察官には話しかけにくいかもしれませんが、気にせずに声をかけてください。
事情を聞き取り、ほかの係員につなぐなど、適切に対応しています。
皆さんが安全にイベントを楽しむために、われわれ警察官がいますので、不安なことはどんなことでも遠慮せずに伝えてください。
イベント時の安全について、前回伺った警視庁生活安全部での話とはまた別の視点で伺うことができました。
・雰囲気にのまれず冷静に行動すること
・警察官の言葉に従うこと
イベントに遊びに行くときは、この2つをぜひ思い出してくださいね。