開催レポート
第21回:「ユーザー視点で考えた、これからの"公共空間×ロボット"―セコムの新セキュリティロボット『cocobo』ができるまで」

2021年7月6日、今回はこれからの"公共空間×ロボット"をテーマに、6月に発表したセコムの新セキュリティロボット「cocobo」のケースについて、デザイン面で協働した株式会社ロフトワークとのコラボレーション企画としてオンライン配信で開催しました。

公共空間との調和という意味性の再定義も織り込んだ「cocobo」のデザインプロセスでは、警備員が人に与えていた印象をインターフェースに落とし込む点も重視しています。また、コンセプトを策定する過程では、公共空間を設計する建築デザイナーなどからもインスピレーションを得てきました。デザインコンセプトである"警戒心を与えつつ安心感が持てる、「威圧」しない「威厳」があるロボット"をどのように策定し、そして形にしていったか。なぜ、「機能」だけでなく「印象」にまで踏み込んだのか。その背景にある、「公共空間におけるこれからのロボット」や「人の業務だけでなく、役割を代行するロボット」など、ユーザー体験を起点に考えてきたプロセスはどう進行したのか。

「cocobo」デザインプロジェクトの中心メンバーが集まり、実現に至るまでのプロセスを振り返りながら、ユーザー体験視点を踏まえた、これからの公共空間におけるロボットのあり方や調和について座談展望。Zoomウェビナーにて視聴者の質問も交えながら、ライブ配信を行いました。YouTubeにてアーカイブを配信しています。株式会社ロフトワークによるwebレポートとあわせて、ぜひご覧ください。

ロフトワークによるwebレポートはこちら

登壇者

  • znug design(ツナグデザイン) 代表 デザイナー クリエイティブコミュニケーター
    根津 孝太氏

    1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多くの工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、ものづくり企業の創造活動の活性化にも貢献。「町工場から世界へ」を掲げた電動バイク『zecOO』、GROOVE X『LOVOT』、トヨタ自動車コンセプトカー『Camatte』『Setsuna』、ダイハツ工業『COPEN』、タミヤミニ四駆『Astralster』『RAIKIRI』などの開発も手がける。ドイツ iFデザイン賞、COOL JAPAN AWARD 2019(LOVOT)。2014~2021年度 グッドデザイン賞審査委員。著書『カーデザインは未来を描く』。

  • 株式会社ロフトワーク シニアプロデューサー
    柳川 雄飛氏

    大学卒業後、Web広告業界で6年間にわたり営業・メディア開拓・新規事業立ち上げまで様々な事業に従事。その後、2014年に株式会社ロフトワークに入社。プロデューサーとして企業のコミュニケーション戦略から新規事業のコンセプト策定、Webサイトリニューアルなど幅広いプロジェクト設計を担当する。また本業の傍らで、地域活性のプロジェクトに関わったことがきっかけとなり、ロフトワークでも、地域にまつわるプロジェクトへと活動の幅を広げている。

  • セコム株式会社
    オープンイノベーション推進担当 リーダー / 東京理科大学 イノベーション研究センターフェロー

    沙魚川 久史

    1976年生まれ。東京理科大学大学院 総合科学技術経営研究科およびイノベーション研究科修了。セコムでは、研究開発や科学研究助成事業責任者を経て、現在オープンイノベーションチームを率い、新価値提案から協働商品開発まで担う。イノベーション推進に向け「セコムオープンラボ」を主宰、挑戦的ブランド「SECOM DESIGN FACTORY」立上げ。本社企画部担当課長を兼任。
    社外では、東京理科大学客員准教授を経てフェロー、大学や国立研究開発法人、産学官コンソーシアムなどでも活動。主な著書『知的財産イノベーション研究の展望』(白桃書房)、内閣府「第3回日本オープンイノベーション大賞」経済産業大臣賞受賞。

  • セコム株式会社
    技術開発本部 開発センター デザイングループ リーダー

    田中 義久

    1970年生まれ。拓殖大学工学部工業デザイン学科卒業。
    照明メーカーを経て、セコム株式会社に入社。2001年に初代ココセコムがグッドデザイン賞受賞。
    手のひらに収まるセキュリティ機器から飛行船まで、開発センターで生み出される、新規サービスの製品デザイン業務に従事。

モデレーター

  • 株式会社ロフトワーク マーケティング リーダー
    岩沢 エリ氏

    2015年入社。マーケティングのコミュニケーション担当として、イベントの企画・設計を通じたロフトワークとクライアントとの最初の接点づくりを担う。
    これまで培ってきた、インタビューを主体としたマーケティングリサーチの経験と、新規事業担当としてシェアオフィスや就業支援学校の立上げ・運営など、様々な場づくりを経験してきたことから、プロジェクトのマーケティング戦略設計支援も行う。人の関係が変わる場づくりと普通の中に眠る個性を引き出すことに関心をもちながら活動中。

1.イントロダクション

はじめに、イントロダクションとして、社会の変化や多様化する価値観に取組むセコムオープンラボ、またそこから始まるセコムのオープンイノベーションによる新価値創造について沙魚川よりお話ししました。ここではその中でもセコムのオープンイノベーションによる探索と創造のプロセスについてのエッセンスをご紹介します。
※根津さんだけ都合上リモート参加

沙魚川セコムはサービスの会社。モノづくりのオープンイノベーションというだけではなく、コミュニティとか人の交差点で今何が起きているのか、ということに関心があります。それを可視化する仕組みとして「セコムオープンラボ」に取組みながら、そこで得た気づきからサービスを創ってきました。

沙魚川既存の商品の研究開発、後続アップデートはセコムの開発センターや研究所でやっています。私たちオープンイノベーションチームは、そうしたリニアな延長でない異なる可能性を「探索」して「実装」するということがミッション。探索し、仮説を立てて、プロトタイプを作って、そのユーザ検証を繰り返す「リーン開発」を採り入れながら、いろいろな可能性を模索して実装を進めています。こうした取り組みにより昨年度には内閣府「日本オープンイノベーション大賞」も受賞できました。

沙魚川このプロセスのなかで、可能性のある“異質なものを異質なままで”商品にすることは本当に難しい。そうした、少しこれまでとは違うけれども面白いもの、可能性があるものをどうすれば商品化できるか、ということで、既存のセコムブランドとは違う挑戦的な取組み・商品専用の「SECOM DESIGN FACTORY」という新しいブランドを策定しました。
コーポレートブランドの連想の範囲に無い、新しい位置付けのものはこのブランドからだそう、ということ。お客様にも「これまでと少し違う」と理解をいただけるし、会社のなかでも「これまで通りの開発アプローチじゃなくていいんだ」と理解が進む。いろいろな商品や取組みをこれまで実装してきた。今回のcocoboもその一つ。

沙魚川ただし、cocoboのケースは、オープンイノベーションの探索的な商品という形ではありません。これまで自律のロボットを研究開発しながらサービス運用していて、セコムの既存のR&Dのなかで継続的なロボット開発をしています。機能とかファンクションは継続的な開発でいい。一方で、ロボットがもたらす「意味」はこれまでと一緒で良いかどうか考えないといけない。

ということで、今回のロボットの「意味性を問う」というところを私たちのオープンイノベーションでプロジェクト化して進めてきた。cocoboのロボット開発全体のなかで意味性をデザインするプロジェクトを担ったという形。セコムにとっても、リニアな研究開発と我々のような探索的な商品創りが合流をするという新しい取組みであったと言えますね。

2.cocoboデザインコンセプトから考える、これからの“公共空間×ロボット”

どのような形でデザインプロセスが進んでいったのか。当時の素材などを柳川さんから紹介しながら、全員で振り返りと展望を行いました。

―― プロジェクトの組成

岩沢さん継続的な開発を進めていたなかで新しく「意味を問い直す」というPJTということで、従来のデザインプロセスとどう違ったのか、ということもお伺いしたいと思います。

柳川さん今回のcocoboデザインの取組みはオープンイノベーションの流れを汲んだプロジェクト。やってきたことは多岐にわたる。PJT計画を作るところからセコムさんとロフトワークで進めてきました。今までのセキュリティロボットとは異なる進め方でないといけないということを意識しました。PJTテーマとなる「問い」の策定が重要なポイントでした。

柳川さんPJTで取り組む前半側をロフトワークが中心にファシリテーションし、後半の実際に手を動かすところを根津さんにファシリテーションいただいた。セコムさん側からは、今回のPJTを始めるにあたり、どういう期待感でしたか?

沙魚川そうですね。これはオープンイノベーションのPJTなんですね。つまり、作ってください/成果を納めてください、ではない。一緒に、議論しながら形を決めていきましょう、ということ。私たちがオープンイノベーションのPJTでもっとも重要視していることは、マインドセットが違う人と議論して実装に移していくこと。マインドセットが同じ人たちと議論しているとこれまでと同じものしかできないから、異なる知をいれたいわけですね。

沙魚川デザイナーとしてはセンサーのことをよく知っていて、なおかつ移動体のデザインをよく知っている方じゃないと難しい。デザイナーが必要なのではなく、そういうスキルのある人と議論をすることが大事。なので根津さんはものすごく最適なパートナーでした。

田中車のデザイン出身だと初めにイメージありきが多いのかなと思ったら、根津さんはそんなことなくて、最初から信頼を感じながら進めることができましたね。

根津さんありがとうございます(笑)。一人で照れています。
※根津さんだけ都合上リモート参加

柳川さんロフトワークでも、この話がセコムさんから声掛けあった際、これ誰と一緒にパトーナシップ組んでいくのがいいんだろうかとなって、根津さんしかいないな、と。

田中根津さん出てくるかもしれないな、と予感がしてましたよ。セコム本社のエントランスにみなさん来た際に、やっぱり根津さん来たな、と思いました。

岩沢さんどんなメンバーでやっていくのか、もかなり重要なところかなと思いますよね。

沙魚川当事者同士が、このPJTおもしろいね、って思わないと良い議論にならない気がしていて。仕事だからということではなくて。なので、正式にオファーをする前に、柳川さんに渋谷であったときに「こういう話があるんだけどどう思う」と話をして「おもしろいと思いますか」と。

岩沢さんそんなところから始まっているんですね。

根津さんチームの居心地のよさというか、仲良しクラブでは勿論ないんですけど、ほんとにクリエイティブなことを真面目に楽しく扱える場ってそんなたくさんある訳じゃないので、幸せを感じながらやらせて頂いてました。

柳川さんさきほど役割分担の話をしてましたけど、あれもバツっと分かれているというよりかは、タスクを全部みんな一緒に、全員でやっているという感じなので、そういう前提で聞いていただければ。

岩沢さん誰がリードしているかとか、そういう感じなんですね。

―― プロジェクトにおける問い

柳川さんPJTのゴールは、「巡回警備ロボットの外装デザインの方針を定め、機能要件をベースに3Dデザインデータを制作する」ということ。セコム開発センターの方での機能要件が進んでいるので、みんなで作ってきたコンセプトを機能要件と兼ね合わせながらどうやって3Dデータに落とし込めるか。

柳川さん冒頭にこのPJTは「問いのデザイン」が非常に重要だったと話しましたが、その前段として、今回のテーマでは「もともと人がやっていたこと」をどれだけロボットに投影できるかがポイントになると考えていました。普段生活しているなかで見かける警備員の印象をどうやって反映できるか、が一つの議論です。さらに言うと、これがどういう場所で、どういう環境で、導入されるのかということも踏まえながら、今回でいうと商業施設とか空港とかという公共空間における自律巡回の警備ロボットっていうのはどういうものなのか、っていうことを考えていく必要性があった。

柳川さんそのなかでPJTから出てきたキーワードとして「威厳」と「威圧」に着目して進めてきました。「威厳」と「威圧」をどうバランスしながらデザインをロボットに反映していくかということで、いろいろな例をみんなで見て感じる印象をマッピングしながら考えたのが、「警戒心を与えつつ安心感が持てる、「威圧」しない「威厳」があるロボット」。

沙魚川そうですね。これは正解があるわけではなくて、いろいろなものをマッピングしていくなかで我々のスイートスポットってどこかなというのを二次元のマップの中で定めていったということ。で、我々が定めたスイートスポットが、「威圧」という軸のなかではパワーが少なくて、「威厳」という軸のなかではパワーがあるというものだったんですね。

岩沢さんこういうのは今までのロボット開発でもあった考え方なんですか?威圧と威厳のような「意味」のところとか。

田中意味性みたいなことは社内でも当然話として出てくるんですが、今回大きかったのは、みなさんの意見。社内でやると社内が思っている意見が非常に強いので。そういう意味で今回は改めて拡がりをもって見れたんじゃないかと感じています。

沙魚川このPJTは冒頭に出てきた「SECOM DESIGN FACTORY」のPJT、と位置付けたんですが、そうすることで議論はすごくしやすくなるんですね。「セコムのなかのデザイン哲学に縛られなくていいんですよ」となるんです。なので、いろんな人の議論を聞きながら、そこにセコムのデザイン哲学も合わせこんでいって新しいものを考えるということが、田中さんにとってもストレスなく出来たはずなんですね。

田中後でいろんなスケッチが出てくるかもしれませんけど、それが形として現れて、逆に刺激の方が強くて。普段だと纏めるところを考えちゃうんですけど、そことの自分の戦いみたいなところが出てきたかなと。

岩沢さん早めに纏めない、ということですね。

田中どうしても早めに纏めたい方向に普段は頭が行ってしまうので、今回は一つ越えていけるものがあったと感じますね。

柳川さん言葉では定義できるんだけど、形にどうやって落とすのかっていうのが難しいんですよね。

根津さんおもしろいなーと思ったんですよね、素直に。デザイナーってやろうと思えば筋肉だけでデザインできるみたいなところがあって。ほとんど何も考えないで、手だけで。手癖みたいなものですね(笑)。今回それはダメだな、っていうのはまず最初に感じましたね。
筋肉も使うんですけど、筋肉を使う前にちゃんと頭を使わないとこれはダメだなっていう。

岩沢さんこれが当時でてきたラフスケッチですかね。

柳川さんこれ最後の方ですね。かなり絞り込まれた段階で出てきたもの。

根津さんホワイトボードに書いてた絵ですからね、これ。出来レースじゃないんですよね、ほんとにその場でデザインが生まれているっていう。それを象徴していますよね。

―― プロジェクトの流れ・プロセス

柳川さんプロジェクトの流れをご紹介すると、デザイン思考でご存じの方も多いと思うんですが、ダブルダイヤモンドとなる発散-収束、発散-収束という形を踏まえて、今回のPJTではトリプルダイヤモンドになっているのが特徴的。リサーチ、アイデアスケッチ、3Dモデルコンセプトの各フェーズで発散して統合してというプロセス。

柳川さんまず、今回のロボットを導入していく公共空間、空港とか商業施設を自分たちで見ないといけないということで、そこに行って、登場人物がどういう所作をしているかということを見て来た。これを基に、マッピングして統合するという作業をして威厳と威圧のスイートスポットを見つけた後に、メンバーみんなでアイデアスケッチをして、たくさんの付箋にイラストを描きながら擦り合わせていくというプロセスをやりました。その中から統合していったもので3Dモデルをカチッと作る、というのが大まかな流れ。

田中アイデアスケッチはショートタイムでどんどん回して、みんな面白いアイデアが出ていて。この段階から可能性を感じましたよね。

柳川さんこれなんか、左上は動物っぽいイラストですよね。これ沙魚川さんが描いたやつですかね。

沙魚川そう、ですね、これは(笑)。このPJTのコードネームがあって、X4(エックスフォー)って言うんですけど。X4だからフォックスにしたっていう(笑)。

沙魚川最終的に経営陣から今回のPJTに対するコメントをもらうなかで、「ロボットをデザインするというから動物っぽいものかと思ったよ」と言われたので、これを見せて、いちおう出しましたという話は致しましたね(笑)。

岩沢さん面白いですね。どうして動物なんでしょうね。

沙魚川今回の、ロボットの意味性みたいなところをリニューアルしようというのは社長の指示でもあるんですけど、そのなかで「デザインには遊び心が必要」ということも言われまして。最終的なデザインを経営陣に確認した際も、デザインそのものの良し悪しよりも「このプロセスはどんなだったの」とすごく聞かれました。このプロセス自体が、セコムデザイナーの田中さん含めてみんなで楽しくデザインしてきたんだということを説明したところ「それはすごく良いものになったんだろう」と。

沙魚川で、「デザインには遊び心が必要」って言われたので、動物、X4でフォックス、ってなったわけですけど、やっぱり駄洒落じゃダメなんですね(笑)。だから僕の案はあまり共感がなかったですね(笑)。

田中遊んでデザインしちゃおうみたいな(笑)。

根津さんホワイトボード何枚も使って、与件の整理もしていきましたね。こんな風に考えましょうね、みたいなところを。カタマリ感とか方向感とかそんなキーワードもありましたね。

柳川さん機能要件があったので、それをベースにしながらどうやって「威厳」と「威圧」のバランスを取っていくかっていうところ設計していく作業ですよね。この後、最終的に出来たもののなかにもこれがしっかり反映されているのでそれも見ていただきたいんですが。

柳川さんこれを踏まえてPJTメンバーで実際の形に落としたイラストを付箋に何枚も描いて。このなかで緑のシールがあるものが最終的なcocoboのデザインに近いもの。キャラクター性に近いものも持っていて、「威厳」と「威圧」をロボットで表現するときの表情感みたいなものも意識して。

根津さんここで票の集まっているやつって、二世代目だったりもするんですよね。一世代目で誰かが描いたやつをみて、それをまた別の人がこういうのも良いんじゃない、と。そういうその場でデザインが進んでいくというライブ感。この小さいスケッチを見ながら誰かがまた小さいスケッチを描いていくということを繰り返していましたね。

柳川さんこれで三案くらいに絞って、根津さんに描いていただいて、セコムさんの役員に持っていって、一つに決まったと。

沙魚川この三案を持っていったのは、僕らのなかでこの三案にキャラクターがあって決め兼ねたというのがあるんですね。コミュニケーション性が高い方がいいのか、直線感が高いものがいいのか。我々のなかでも意見が割れたので、役員に決めてもらうということではなく、ここは「役員も交えて議論をしよう」と。その結果、最終的な一つに、みんなでそういう理解が出来るよねとフォーカスしていったという感じ。

根津さん三つそれぞれにキャラクターがあって。やっぱり一番右のものはどちらかというと従来手法に近い匂いも残しているんですよね。決まった左のものはそういうところから一番距離感のあるものだったんですけど、やっぱりそういうものに皆で合意したってことは大きな意味があったんじゃないかと、今振り返ってみても思いますね。

沙魚川これでスケッチが決まって、デザインに落とし込む作業がここから始まった、ということですね。

―― デザインプロセス

岩沢さんデザインの部分を根津さんからお話しいただければ。

根津さんロボットが珍しかった時代から、ロボットが身近になった時代で、その存在感って変えていくべきですよねというのはお話ししてきたとおりの流れですよね。みんなでスケッチを描いて「確かにそうだね」となったところを紐解いていくと、まず、低重心で安定感のある姿勢は威厳に繋がっているね、とみんなで考えたわけですね。一方で、威圧していない要素としては、全体として曲線的で柔らかなフォルムですね、やさしさもちゃんとある。もう一つ、威厳があるという点で、これはちゃんと機能のあるものだなというのを感じさせるわけですが、ボディ中心部分にセンサー類を非常に合理的にレイアウトしているんですね。文字通り芯を通している。芯を感じさせるということで威厳を出せているんじゃないかと考えている。

根津さんまた、威圧しないという要素として、ボディ両側の部分が別パーツになっていて、例えば使用される空間それぞれに調和させていくことができるよねと。色であったり、場合によっては素材感みたいなことですね。カスタマイズできるということで調和をより促進できる。そういったことは威圧しないということに貢献できると考えています。

沙魚川これがすごく重要で、実際我々がこれまでロボットを運用するなかでも、今回なぜロボットの意味の変化に取り組んだかということなんですが、飽きたからとか、なんとなく新しくしたいから、ということでなくて。これまでロボットを提供した当初は、ロボットが自律で公共空間を走るということがなくて、そういった時代では「この走っている子は何の子ですか」というのを形で表している必要があったんですね。だからいかにも警備然、セコム然としたデザインである必要があった。

岩沢さん当時はそうだったんですね。

沙魚川当時は。ただ今は、例えば根津さんがデザインした「LOVOT」を含めて、いろんなロボットが公共空間とか家の中にも入りこんでいて、ロボットと一緒に生活することがもう珍しくないよねという時代にあって、そういう現代におけるロボットの意味性について、再定義が必要になったんですね。

沙魚川こういう背景のなかで、いろんな人がいて、いろんな場があって、お客様のニーズもパーソナライズ化されているんですね。一様のものをみなさんに当て嵌めていくのはもはや難しくて「こんな風にできないの、あんな風にできないの」とお客様からロボットに対してお声がけをいただくことって本当に多いんです。その一つが、このカスタマイズというところで「我々のエリアを走るロボットはこういうカラーが良いなぁ」とか「こういうロゴを入れたい」とか、いろんなオーダーをいただくことがありました。これが、我々が運用するなかでユーザーがロボットに求めることでもあったんですね。

岩沢さんロボットが当たり前に一緒に暮らしていくっていう現代になったなかで、公共空間のロボットのデザインでカスタマイズという話も出てきましたけど、これは根津さんも意識したことなんですか。

根津さんそうですね。今回の命題と言っても良いですね。威厳、威圧という言葉は存在感を表す言葉で、デザインを表しているわけではないと思うんですね。どういう存在感を僕たちは規定していくのか、という深いテーマだと思うんです。ロボットというものに対して人々の意識は変わってますよねというなかで、だからといって誰も答えは知らないわけですよね。そのなかで警備ロボットとしての存在感を規定していくのは非常に面白いです。

沙魚川実際このPJTのなかでも、PJTメンバーだけで作ってきたわけではなくて、公共空間を設計する建築デザイナーの方はどう思うの、っていうことをヒアリングしたり。そういういろんな知というか意見、視点を取り込みながら、これを反映するわけではなくて、うまく理解をしながら我々の方で形にしていったというところはありますよね。

柳川さんリサーチの過程のなかで、我々が施設を周るだけではなく、インスピレーショントークとして建築家の方にお話を聞いたりして、公共空間の中におけるロボットの存在をどういう位置づけとして出していくのがいいのかというインプットを得ながら考えていくというプロセスは採り入れましたね。

岩沢さん今回のPJTのキモとして、意味性を問い直したってところが根幹だったのかなというのを感じますね。

田中これまで、セコムのロボットとして、X・X2とやってきて、Xのときは警備用のロボットが珍しかったから目立たせるというのもありますが、人のいない広大な敷地を警備するというのがメインなのでセコムステッカーのイメージから「見せる警備」を分かりやすく作ったというのが2005年でした。それをそのままブラッシュアップしたのがX2で、今度は公共空間の人がいるなかで動かすことがメインに変わっていったと。そこから今回のテーマに繋がっているというのが大きなところですね。

岩沢さんちなみに視聴者の方から改めて「意味性」という言葉がどういう定義なのか知りたいです、っていう質問もあるので補足ありましたら。

沙魚川デザイン・ドリブン・イノベーションという言葉があって、これはイタリアのロベルト・ベルガンティという方が推進する「イノベーションの原点がデザインである」という考え方ですね。このデザイン・ドリブン・イノベーションを日本語に直すと「意味のイノベーション」ということに繋がります。「意味のイノベーション」というのは、ある一つのものに対する捉え方を再定義しようということなんですね。

沙魚川例えば、ガラスのグラスを重たいものにすることで、水を飲む時間が長くなって結果的に食事時間が長くなるから、会話も含めて食事の時間がより長く楽しめるよね、というような。そういう捉え方の話ですね。グラスは軽い方がいい、という一面でなく、重たいグラスにすると食事の時間が豊かになるという捉え方もできるよね、というのが「意味のイノベーション」ですね。

ですから、これまで私たちがロボットの形に求めていた「これは警備のロボットだというのを誰もが見てわかる」という意味性ではなくて、“ロボットを見たときのユーザーの心に何を根付かせたいか”を変えていきたかったということ。これを再定義した結果、「公共空間に寄り添える、調和する」ロボットを作っていこうという結論に至ったんですね。

柳川さん警備員という人が持っている要素を捉え直して、これをどう定義して、ロボットという別のものに転換するというのが今回のチャレンジポイントだったと感じますよね。

―― cocoboという名前

沙魚川名前は社内公募で決めたんです。公募をするということは、これが何であるか社員に公開をしないといけないんですね。秘密に開発している通常の流れに対して、開発途中のものを社員全員に公開して、「こういう愛らしいロボットが出来ました、意味性の再定義にも踏み込んでつくりました、だから名前もこれまでの延長でないものにしたい」と公募を行いました。経営陣も含めて審査をして選定したという形。ロゴは、公募途中の経過を、根津さんや柳川さんにお送りしながら、ロゴのイメージ進めておいてくださいとお願いしていました。

柳川さんロゴは短期間でしたよね(笑)。

根津さんなかなかハードな(笑)。でも、すごくいい名前になったなぁと思ったのと、名前が決まったときにロゴがポッと頭に浮かんだので、これはもうイケるって思って。SECOMさんのロゴでCOがとても印象的に組み合わさっていて、そこを使えるなと。なんとなく抱きかかえるように、やさしく、みんなを守ってあげるよっていうイメージでデザインしているんですね。

―― 紹介映像動画をみながら、ロボットの機能も含めて

柳川さんこのcocoboの紹介映像は実際の空港のなかですよね。

沙魚川はい。この映像もロフトワークさんに撮っていただいて。映像に出てくる機能的なところとかセンサーは、開発チームの方で次のロボットはこうしたいと決まっているところがあるんですね。ですから、機能要件が策定されながら、並行してデザインも進むという非常に難しい話ではありましたね。

岩沢さん機能要件のところは田中さんも関わっていたんですよね。

田中X、X2という資産があって、そこからの流れがあるので。開発についてオーソライズが取れていたものが、デザインを改めて最初から検討して反映されているので、実機になったときのクオリティが全然違うという。

沙魚川自分でエレベータを呼んで行先フロアを信号で送ってフロアに着いたら降りて、ということも自律で行います。あと、屋外も走るんです。屋外は屋内よりも走行環境が悪くて、斜面があったり段差があったりするんですが、そういったところも走れると。
充電台も根津さんにデザインいただいたんですが、充電しながら立哨して立ったままの警戒ができる。あとはAIによって、異常なもの、例えば倒れた人とか不審物のようなものを自分で認識して検知して、警備員を呼びます。

柳川さん不審者への白煙による威嚇はすごいですよね。

田中X、X2からいい感じで引き継がれていますね。

岩沢さんcocoboは、いま試験運転されてるんですよね。

沙魚川そうですね。6月の間にも成田空港さんでテスト走行をしていました。量産をしているところなので、年内には販売開始できますね。

岩沢さん「評価はどのようにされてますか」と質問が来ています。多分このPJT自体のことですね、「評価の結果、変えたところはありますか」と。

沙魚川ハードウェアは開発センターで信頼性試験とか評価プロセスに則って行っています。ソフトもそうですね。デザインは、スケッチをCGに起こしてCADに起こして設計に移していくわけですけど、その過程でセンサーの配置と整合がつかなくなって変えたりということは根津さんにやっていただりしましたね。

根津さんはい、よりよいセンサーを選択していく過程で少しデザインのディテールが変わった、というようなことはありましたし、今後も微妙に変わることはあるかもしれませんね。

田中印象が変わらないようにして上手く機能を当てこんでいくというのは、もうできてますね。

3.クロージングと総括

岩沢さん最後に、今回のテーマである「公共空間×ロボット」について、今回のcocobo PJTで意味を問い直して見えてきたこれからの公共空間とロボットのキーワードをみなさんから。描いてもいいですし、言葉でも。

沙魚川公共空間の主役は“場”なんですね。そこに人が集まってくる。でもその一人ひとりが持っているストーリーというかナラティブというか、物語もそれぞれ違うんですよ。だから、多様化しているんだけど、公共空間のもつ目的は一つ。いろんな人たちが物語を持ってやってくる公共空間を如何にスムーズに稼働させるか、ですね。ロボットはやはり黒子なので、公共空間という場をスムーズに稼働させるための黒子として多様な物語のなかにどう寄り添っていくか、ということが求められると思いますね。

柳川さんみなさんと改めてPJTを振り返ると、「存在感」みたいなものがキーワードかなと思っていて。ちゃんと人に警戒心とか安心感を与える存在として、ちゃんとそこに居るっていう。これからのテクノロジーとかAIが普及していくなかで、これを担っていくキャラクターとか存在感を紐解いていくのが大事かと思いました。

田中一所懸命、描いてみたんですけど。cocoboのcoと絡めて無限大∞みたいにしようと思ったんです。

根津さんちょっとちょっと!僕もまるかぶり(笑)!

柳川さんさすがですね、この二人(笑)。これ合わせてないですからね。

田中無限大ぽい感じにしたかったのは、有人環境のなかでロボットっていうのは今まではインテリジェンス=無人化という少し冷たい感じがあったんですけど、ここから暖かい印象としてどういったものが出来るのか、すごくこれから期待できるなと。

根津さん同じなんですね、僕も。やっぱり公共空間ということをキーワードにしたときに、閉じた開発よりも、今回のようにみんなで考えていくオープンな開発がすばらしい時間だった。こういうなかでしか生まれてこないものがあるな、っていうのを僕も強く実感したので。今後の可能性を感じさせていただける貴重な体験になりました。

岩沢さん最後のインフォメーション、お知らせをセコムさんから。

沙魚川cocobo、これから色々なところで走っていくと思います。ぜひ写真をとってシェアしていただければ。
あと、明日7月7日に、スマホの「ごっこランド」という“〇〇ごっこ”をするアプリ内に、「セコムごっこ」がオープンします。このなかで、コレクション要素の乗り物として、cocoboも出てきます。cocoboに乗って街をパトロールして困りごとを解決していく、ということができるようになります。ぜひプレイしていただければ!

岩沢さんぜひダウンロードしてくださいね。みなさまどうもありがとうございました!

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