乳癌のほとんどは浸潤癌といって、周囲の組織へ入り込み、かつ遠隔転移をする、たちの悪い癌です。しかしそれでも早い時期に見つけ治療すれば治すことが出来ます。
乳癌の進み具合を分類するのが病期です。分類する基準は、「腫瘤の大きさ」、「乳房周囲のリンパ節への転移の度合」、「遠隔転移の有無」の3項目を目安にしています。後の2項目、リンパ節への転移や遠隔転移等は手術や検査等で決めなければなりません。一般の人にとっては病期を分類するのに分かりやすいのは、腫瘤の大きさでしょう。
病期Ⅰ:
世界の基準を一定にしないと比較検討できませんので、腫瘤の大きさが2cmまでのものとされています。
白人女性の乳房は大きいので2cmのしこりでも触れず、非触知乳癌症例としてしばしば紹介されています。
この様なことで2cmまでと決められたのでしょうが、比較的乳房の小さい日本女性の場合は1cm以下でも触ることは可能です。
しこりが小さい病期Ⅰの時期に手術をすれば予後は非常に良好です。
しかし、中にはこんな小さいしこりの時期でもリンパ節へ転移していたり、遠隔転移をしている場合もあり、この様な時は病期ⅡⅢⅣとなります。
病期Ⅱ:
腫瘤の大きさが2.1cm以上5cm以下の病期です。
5cmのしこりともなると相当大きく、御自分でもいやな予感がすることでしょう。
先日テレビでくるみ大の乳癌を自分で見付け、手術を受けた症例が紹介されていましたが、くるみ大のしこりはけっこう大きなしこりです。
後に述べますが自己検診をしていればもっと小さい時期に見つけることができたでしょう。
くるみ大の乳癌の紹介は適切ではありません。
一般の方には、くるみ大まで大きくしても良いと思ってしまうからです。
公の報道機関ならば、小さいしこりを自分で見付けた事を報道し、こんな小さいしこりでも見付けられるのだということを紹介して欲しかったと思います。
病期Ⅲ:
しこりの大きさだけからいうと、長径5.1cm以上のものが病期Ⅲです。
指3本の幅くらいの大きなしこりです。
リンパ節へ転移していることが多く、進行癌といわれています。
病期Ⅳ:
しこりが比較的小さくとも、胸の壁にくっついていたり、皮膚をつきやぶっておできの状態になっている乳癌です。
あるいは目に見えませんが、骨や肺、肝臓等へ遠隔転移をおこしたものをいいます。
乳癌のおできをよく診察することがあります。
おできにしては、周りの皮膚の炎症がひどくありません。
この様な状態を「潰瘍形成」といい、「花の咲いた乳癌」ともいい、あたかもカニの甲羅のようになることもあります。
通常の浸潤癌以外に、Paget癌、非浸潤癌という2つのタイプがあります。
この2つのタイプの乳癌は、予後が良好なので別分類の癌にしているほどです。
Paget癌は乳頭が徐々に破壊されていきます。び爛、亀裂、湿疹などで始まります。
皮膚科を受診することが多く、治療により、一時的に軽快しますが、完治することはありません。
このような病変に対して乳頭のタッチ細胞診を行えば、初期のうちに癌細胞を認めることができます。
もう一つの非浸潤癌は文字の通り、癌細胞が周囲の組織へ広がっていない状態です。
しこりを触れるぐらいの大きさになっても周囲の組織へ広がっていないので良性の線維腺腫のしこりと全く同じ感じに触れます。
「線維腺腫間違いなし」と思っても経過観察はせず、針細胞診、針組織診、あるいはしこりを取り出して確定診断を行う方がよいようです。
しかし、これら2つの予後の良好な癌は乳癌全体で1~2%しかないまれなものです。
乳腺の量が少なくなるにしたがって、乳癌の発生も少なくなります。
授乳をすることにより乳腺が減ります。育児(授乳)の経験のない女性に乳癌が多いのは、このことが一つの理由です。
乳癌が心配になる年齢になると、もう授乳の機会はないでしょう。
この予防法は「時はすでに遅し」です。米国の小学校では、日本で行っている月経の教育は後回しにして、将来妊娠・出産の機会があれば、充分にしっかり授乳する様にと、教育しています。
授乳の機会が来る前に、教育することは大切です。
その他乳癌になる危険因子がありますが、これといった予防法はありません。
乳癌の予防法はこの程度しかないわけですから、やはり他の臓器の癌と同じように早期発見し、早期治療が最良の方法です。早く見付ければ乳癌で死なないですみます。 |