開催レポート
番外編:「モノをつくる力で、コトを起こす『神山まるごと高専』開校初年度を学生と振り返る」

セコムがスカラーシップパートナーとして参画している私立高等専門学校「神山まるごと高専」(徳島県神山町)が開校して1年が経ちました。「神山まるごと高専」のコンセプトは「テクノロジー×デザインで、人間の未来を変える学校」。奨学金基金を拠出するスカラーシップパートナー11社で高専による「モノをつくる力で、コトを起こす人」の育成をサポートしています。

このスカラーシップパートナーという枠組みにより、パートナー各社ごとに企業名を冠した奨学生を受け持ちます。
セコムは、セコム奨学生に向けて、次世代の起業家を目指す学生たちが企業経営やビジネスの在り方を体系的に学べるよう、「神山まるごと高専」でアントレプレナーシップ講座を実施。

セコムの「オープンイノベーション推進担当」がプログラムを担い、「セコムという企業のケースを通じて『企業の営みやイノベーションプロセスを一般的に理解する』」というコンセプトで、毎月様々な角度から企業経営やビジネスの在り方について一緒に考え、議論しています。

企業というものを多角的に考えることができるセコムのプログラムは、神山まるごと高専内やスカラーシップパートナーからも好評をいただいています。

月例で開催されるセコムのアントレプレナーシップ講座の様子

セコムが実施するアントレプレナーシップ講座 年間計画(開校初年度)

今回は、そんなアントレプレナーシップ講座の2024年度初回開催に合わせて、開校初年度となる2023年度を終えたセコム奨学生らと一年間を振り返る座談会を行いました。先輩や前例がないできたての高専でさまざまな経験やルールメイクをしてきた過程を振り返り内省しつつ、今後を展望することが目的です。

入学時の神山まるごと高専に対する印象から全寮制の生活、セコムという会社の印象など、初年度の総括に加え、今の活動とその先を見据えた展望を座談会形式で聞いてきました。次世代の起業家を目指す学生たちの不安や葛藤、挑戦に対する考え方、経験を経て自信に変わってきた様子を感じることができる内容となっていますので、ぜひご覧ください。

※この記事は、2024年4月に入学したセコム奨学生二期生が、一期生とセコムとの対談を記事化したものです。

対談者

  • セコム株式会社 本社オープンイノベーション推進担当 リーダー / セコムオープンラボ総合ファシリテーター
    沙魚川 久史

    セコムでは、研究開発や科学研究助成事業責任者を経て、現在オープンイノベーションチームを率い、各種の新価値探索から「YORiSOS(よりそす)」「dot-i(ドットアイ)」など協働商品開発まで担う。イノベーション推進に向け「セコムオープンラボ」を主宰、挑戦的ブランド「SECOM DESIGN FACTORY」を立ち上げて展開中。社外では、東京理科大学客員准教授を経てフェロー、大学や国立研究開発法人、産学官コンソーシアムなどでも活動。主な著書に『知的財産イノベーション研究の展望(第5章)』(白桃書房)など。

神山まるごと高専 セコム奨学生

写真上段が二期生(現1年生)、下段が一期生(現2年生)。
(上段左から)市川珠莉南さん、宮本満さん、龍田元希さん
(下段左から)見代梨々香さん、メリットキアさん、山西遥斗さん、尾崎仁瑚さん

対談内容

1. はじめに

学生たちとリラックスして、構えずに本音での座談会ができるよう、色とりどりのドーナツや、お洒落なパッケージのお菓子を多数用意し、和やかな雰囲気でスタートしました。

2. 神山まるごと高専を選んだ理由

沙魚川久史(以下、沙魚川)

まずは一期生のみんなの自己紹介を兼ねて、入学前のことから話しましょうか。
まだ学校自体がないなか、みんなはどうやって「神山まるごと高専」を知って、そして進学を決めたの?

メリットキア(以下、キア)

母に勧められ、プレ学校説明会に応募して、実際に来てみたら学校のコンセプトが良くて、そこに惹かれて決めたという感じですね。
デザインが元々好きだったし、エンジニアリングの技術も学べるので、私にとっては自分で全てできるようになれることが魅力でした。

山西遥斗(以下、山西)

元々、プログラミングに興味があり、高専志望だったというのはありますね。キャンパスツアーに参加して、スカラーシッププログラムなど、大人と関われる機会が多いのも魅力的に見えました。元々、自分のロールモデルの方が高専生だったので、高専に興味があったというのもありますね。

尾崎仁瑚(以下、尾崎)

当時は進路のことをあまり真剣に考えていなかったんですが、サマースクールが気になったので参加してみました。参加してみたら意外と楽しくて、絶対にここに来たい!という感情があったのを今でも覚えています。

見代梨々香(以下、見代)

中学生の時に学校がつまらなくなって刺激が欲しいと感じていました。そんななか、母の勧めでこの学校を知って、いいなと思って。寮生活とか不安もあったけど、それは後から考えようと思って決めましたね。

3. 神山まるごと高専に進学してみて

沙魚川

実際、来てみてどうだった?親のもとを離れての寮生活とか寂しくなかった?
来てみたら、先輩もいないしルールもあまり決まっていなくて、自分たちで探りながら決めていく必要があって色々あったと思うのだけど。

山西

ここに来て一ヶ月くらいは、毎日が修学旅行みたいなテンションだったので、寂しくはなかったですね。
何も決まっていないという点では、寮のルールも自分たちで作ったので衝突はありましたね。
学生が二分して大きな衝突をして、すごく雰囲気が悪くなったこともありました。

キア

ミーティングもやめて、冷戦状態みたいな状況になった時期もあったよね。
最終的には、大人が介入して一旦落ち着いたって感じでしたね。それも含めて楽しいんですけど。

4. 主体的にやってきたこと

沙魚川

そんななかで、キアは開校してすぐ「まるごとファームクラブ※」を自分で作っていたよね。

※まるごとファームクラブ:神山まるごと高専最初の公認部活動。地元の方の支援を受けながら畑を運営している。1期生の大半となる31人が活動。キアさんが部長を務める。

キア

自分が趣味でやりたかったけど、相談していくと使える土地が手に入って、周りに少し声をかけてみたら人が集まって。自分が農業をしたかったから始めたのに、気が付いたらマネジメントになっちゃっていましたね。
大変なのは、お金を毎回チャレファン(予算を獲得するための高専事務局向けピッチ)で獲得することですかね。
何が必要かわからないから、必要になってから考えている感じですね。

沙魚川

夏休みにセコム本社に表敬訪問してきたときも、社長に「マネジメントを教えてください」って言っていたよね笑
一般的には、物事には予算があってそれに見合う計画があるので、ピッチで必要に応じて資金獲得するのって、非常にスタートアップらしい機動性があるよね。年間計画を立てようとかは思わなかったの?

キア

初めてすぎて計画も立てられないですね。これまではNPOに支援してもらっているので、これからは作った作物を売る等で、計画的にしていきたいと思っている部分はあります。

沙魚川

(尾崎)仁瑚は、「まるごとファームクラブ」でもその他のプロジェクトでも、うまくみんなをまとめているよね。裏回しとしてみんなの要になっている感じ。裏回しが上手いなぁと思ってみているよ。

尾崎

そうですかね。確かに、今年はFRC※での自分の役割は減らしたので、先頭に立つというよりは、裏で足りない部分や進んでいないところをフォローしている感じですね。

※ FRC:FIRST Robotics Competition、青少年を対象とした国際ロボット競技会。尾崎さんや山西さんが参加する神山まるごと高専のFRCチーム「Hanabi」は2024FRCハワイ大会でRookie Inspiration Awardを受賞。

山西

FRCと言えば、参加してみて感じたのは、FRCを学校の部活としてやっているところが他にないのは驚きましたね。
個人の反省としては、FRCで全体運営とか色々やってみたけど、なかなか進まなくて、途中からロボットだけに注力するようにしたんです。でも、全体運営から抜けた後にプロジェクトが進んだのを横で見ていて、諦めが早かったなと今は思っています。実際、その時はキャパシティーがギリギリだったんですけどね。

沙魚川

今回、この座談会用に昨年一年間の写真素材も持ってきたんだけど、見比べると(山西)遥斗がいちばん変わったというか、精悍になったと思った。音楽活動やテクノロジー、ファッション、たくさんのことを経験してきたよね。
見代さんのこの一年はどうだった?

見代

まだ表立った課外活動はしていないです。何かやりたくなって、気持ちが燃え上ってもすぐに火が消えちゃいがちな性格だから、プロジェクトに参加する前に冷めちゃうところがある。冷めてもやりたいことを貫けるようになりたいんですよね。数学とかで、そういう意識ができるようになってきていると感じているんです。

沙魚川

乗り越えられたら楽しいよね。でも、新しいことをやることが当たり前でプレッシャーに感じてしまうかもしれないね。「乗り越えなきゃいけない」って、無理をして絶対にチャレンジしなきゃいけないっていうことではないんだよね。今やっていることを積み重ねて上に向かうことができれば、それは十分に成長しているって言えると思うよ。
流されない自分になるのは大事だけど、停滞し続けるのはよくない。ここの折り合いはむずかしいよね。

5. 一年経った今、神山まるごと高専をどう感じているか

沙魚川

神山高専に来てみて、一年経った今、どう感じていますか?
今後の展望とか期待も具体的になってきたんじゃないかと思うんだ。

キア

昨年は個人で動いていたんですけど、学校として動く機会が増えてきて、組織として拘束されることが増えているように感じます。みんなの活動の足かせにならないようにしていきたいなと思っています。
みんなが自由に動ける組織にしていきたいです。

山西

FRCでハワイ行ったり、授業の一環でインドに行ってコロナに罹患したり、未知すぎるが故に予測不可です。いい意味でも悪い意味でも。
ひとつも音楽を知らなかった自分がイベントでDJをするなんて一年前まで思っていなかったし、高専を作った人も自分たちも、流れが思っていなかった方向に進んでいくことがあって、すごく刺激的な場所だと思っていますね。

尾崎

人とのつながりがすごいから、普通に生きていたら絶対に合えない人達がいっぱいいて。貴重な経験ができることが絶対に確定しているっていうのは、強く感じています。

見代

もう一年かぁ。一年が早すぎる。まだ何も始めていなくて5年間とかあっという間に過ぎそうで、早くなにかしたい。後悔しないようにがんばりたい。

沙魚川

僕自身、学校に通いつつ16歳から大人に揉まれながら仕事をしていて。大人になってその時のいろんな経験や人脈が役に立っている。人と違うことを経験すると、周りと違うポテンシャルを持つことに繋がるから、自信を持ってがんばってね。

6. スカラーシッププログラム、セコムについて

沙魚川

みんなは、スカラーシッププログラムの担当企業がセコムになった時、率直にどう思ったの?

山西

僕は、防犯カメラを作れるようになるのかなと思っていました笑

尾崎

そもそもスカラーシッププログラムってなにするの?って状態だったんですよね。みんなセコムのことは知っていて。知らない企業もあったので、知っている企業で良かったって感じでしたね。

沙魚川

何をしたら一番いいのかな、というのを考えながらだけど、でも、将来を考えたときに社会のことを知らずにやりたいことをやるのではなく、知ったうえでやってほしいと思った。
セコムの実ケースを通じて「会社・企業活動」を理解してもらいながら、アントレプレナーシップについてワークショップすると、リアルでいいかなと思ったんだよね。意外と社内のチームメンバーの勉強にもなっているよ笑

キア

軽く言っているように聞こえるかもしれないけど、けっこう、本気でセコムになってよかったなと思っていますよ笑

沙魚川

それはありがとう笑
で、まずは一年やってみて、社会や企業に対する理解や印象はどうだろう。何か変化はあった?

キア

去年までは大学卒業して入って働く場所=会社だったのが、いろんな選択があるということを知ることができましたね。
漠然と持っていた会社というものへの解像度が上がりました。同時に、セコムのこのオープンイノベーションチームが部署横断的でとても異質なんだなっていうことも感じています。

山西

最初はセコムといえばセキュリティのイメージしかなかった分、その事業領域の広さが理解できるようになりましたね。
何を聞いても欲しい答えが返ってくるからびっくり。
社会の要素を理解できて、社会全体・会社そのものについて学べたのが貴重だった。

尾崎

スカラーシッププログラムも、パートナー企業によって頻度が違うけど、セコムはFRCとか忙しいときはこちらの事情を踏まえて、ちょうどいい頻度でやってくれているなと感じています。
今日のアントレプレナーシップ講座※で話があった、グループ経営や株主総会の意味や、会長と社長の担う役割の違いとか、全然知らなかったから毎回新たな発見をもらっているっていう印象です。

※ 会社のステークホルダーにこの日のアントレプレナーシップ講座で触れていました

見代

今もこうして美味しいものを食べながら、リラックスして話せる環境って当たり前のことじゃないから、こういうことを大事に考えて実行できる会社っていい会社だと思う。

沙魚川

自由なことをするって本当に大変だけど、僕たちもイノベーションを起こすためにはどんな活動や組織が必要で、どうやったらうまくいくか、戦略的に考えてやってきたからこの環境を作れているっていうのもあると思うんだ。「戦略的に考える」、最初は難しいかもしれない※けれど、卒業する5年後はこのマインドが当たり前になっているといいよね。

※ 戦略とは何か、ということにこの日のアントレプレナーシップ講座で触れていました

7. セコム奨学生二期生(2024年度新入生)から一期生とセコムへの質問

最後に、開校二年目の2024年4月に入学したセコム奨学生二期生たちから、先輩やセコムへの質問を受けるかたちで座談を進めました。

龍田 元希

去年のスカラーシッププログラムで一番楽しかったことって何ですか?

山西

セコムのヘリコプターに乗って東京のテーマパークを上空から見ることができたことかな。すごく貴重な経験だった。

セコム所有のヘリコプターに搭乗した際の様子(昨年夏)

尾崎

曇っていたけどね。と言うか、楽しかったとか言っているけど、(山西)遥斗寝てたからね笑
ぜんぜん揺れなくて、わりと乗ってすぐに寝ちゃってたよね笑

見代

そのあと、原宿のセコム本社に行ってオフィス見て。めちゃくちゃ綺麗でびっくりした。

本社にて、オープンイノベーション推進担当と談話の様子(昨年夏)

宮本

いいなぁ。今年も企画してほしいです。

キア

セコムが実証運用を重ねてきたパーソナルモビリティにも乗ったよね!あれ楽しかった。
(尾崎)仁瑚と(山西)遥斗すっごい乗りこなしていたよね。

パーソナルモビリティ「C+walk T」の体験時の様子(昨年夏)

市川 珠莉南

あと学校のことだと、入学してすぐプログラミングの集中講座もあって、授業の雰囲気もこれまでとぜんぜん違うと驚きました。去年はどうだったかとか教えて欲しいです。

山西

あ~。そうだよね。勉強やテストもそうだけど、寮生活とかでもわからないことがあればいつでも聞いて!

沙魚川

そうだね、なんでも聞いていこう。寮生活や大人とのコミュニケーションも増えてくるし。
やっぱり声にして伝える、ってけっこう大事だと思うよ。言いにくいこともあると思うけど、はっきり分からないと相手もなかなか動けない。僕らも、一期生の先輩から相談されてはじめて気づくことあるし。
二期生のみんなも、先輩のいいところも悪いところも見て、一緒にさらに新しい学びをつくっていきましょう!

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