開催レポート
第14回:「デジタル化した世界の『財』と『信用』」

今回は、「デジタル化した世界の『財』と『信用』」をテーマに、キャッシュレス化と取引のデータ化、そしてその進展によって加速する信用評価による課題をディスカッションする機会を設定しました。

様々な決済手段が生まれ、キャッシュレス取引も広がる中で、お金もポイントも借入金も区別なく数値データになり、体験としての差は曖昧になりつつあります。取引やコミュニケーションから生まれるログやレビューは、信用の基礎として、さらなる体験の変化を推し進めるかもしれません。こうした変化は、どんな課題・お困りごとにつながるのでしょうか。

話題提供では、Japan Digital Design CTO/政府CIO補佐官の楠さんから、お金や取引の歴史、今後のトレンドについてご紹介いただきました。その後のワークショップでは、メーカー、金融業や情報通信業などを始めとした業種・業界を超えた多様な参加者が、様々な視点から「お金や取引のデータ化が進む中での不安や、データによって生まれる信用」についての課題感を共有しながら、未来につながる、新たな「安心」について議論が展開されました。デジタル化した社会についてのもやもやした不安を可視化・整理し、未来の取引や信用のあり方について議論する場として盛会にて開催することができました。

開催日時

2019年2月12日(火)

話題提供

  • 楠 正憲

    Japan Digital Design株式会社 CTO、政府CIO 補佐官。
    インターネット総合研究所、マイクロソフト、ヤフーを経て2017年からJapan Digital Design CTO。2011年から内閣官房 番号制度推進管理補佐官、2012年から政府CIO補佐官、2017年から内閣府 情報化参与 CIO補佐官に任用され、マイナンバー制度を支える情報システム基盤の構築に携わる。2015年、福岡市 政策アドバイザー(ICT)、一般社団法人OpenIDファウンデーション・ジャパン代表理事に就任。2016年 ISO/TC307 ブロックチェーンと分散台帳技術に係る専門委員会 国内委員会 委員長。2018年 ISO/TC68 金融サービス メンバー。国際大学グローバルコミュニケーションセンター 客員研究員、東京大学大学院 情報理工学系研究科 非常勤講師なども務める。

総合ファシリテーター

  • 沙魚川 久史

    セコムオープンラボ総合ファシリテーター。東京理科大学 総合研究院 客員准教授、国研 科学技術振興機構 専門委員、ものこと双発協議会 事務局長。
    セコムにてオープンイノベーションチームを率いる。イノベーション推進に向け「セコムオープンラボ」を主宰。東京大学イノベーションマネジメントスクール修了、東京理科大学大学院 総合科学技術経営研究科修了、同院イノベーション研究科修了。専門領域はサービスサイエンス・技術経営・知財マネジメントで、大学や国立研究開発法人、産学官コンソーシアムなどでも活動しながら公私にわたりサービス創造の視座より共創協働を推進している。

当日の模様

今回は、「デジタル化した世界の『財』と『信用』」と題して、金融や情報通信を始めとした様々な業種の産業界中心の参加者73名とともにアイデアディスカッションを開催しました。

近年のICT技術発展により、様々な決済手段が生まれ、現金を不要とするキャッシュレス取引が広がり始めています。お金もポイントも区別なくデータとしてやり取りできるようになることで、生活スタイルまでも変化しつつあります。また、デジタル化により、取引やコミュニケーションのデータが蓄積され、信用情報として利用される信用スコアと呼ばれる取引体験も生まれてきました。こうした変化は、どのような課題・お困りごとにつながるのでしょうか。
今回のセコムオープンラボは、このデジタル化した世界における取引のビジネス上の課題、消費者としての課題を展望することが目的です。
イントロダクションでは、オープンイノベーションのコンセプトである「セコムの“共想”」とこれまでの成果などをご案内しました。そして、「デジタル化した世界」を巡る幾つかのエッセンスと今回のテーマに込めた背景についてフロアにインプットを行いました。
今回の話題提供は、「デジタル化した世界の『財』と『信用』」というテーマにあわせて、Japan Digital Design/政府CIO補佐官の楠さんが登壇。お金と取引における信用、そしてそのICT化について、いままでの歴史と今後のトレンドについて解説がありました。貨幣取引の起源から近年大きな注目を集めている仮想通貨や監視社会の海外事例まで、幅広いトピックについてお話いただきました。
今までの政府や大組織により担保される中央集権型の財・信用だけでなく、コミュニティの各個人によって担保される分散型の財・信用が実現されつつある中でも、それらを支える仕組みには共通点がある、これからの信用のためには取引のアイデンティティとプライバシーが鍵になるなど、『財』と『信用』にまつわる様々なトピックについて、沢山のエッセンスがありました。
続くワークショップでは、44団体73名の参加者が、11グループに分かれてディスカッション。ワークタイムを細かく区切り、議題を変えながら、キャッシュレス取引の普及やデジタル化によって私たちの生活がどう変わっていくのか、様々な視点から議論を展開。既に顕在化している問題や、現状ではまだ捉えきれていない新しい課題や不安感をもとにアイデアを議論します。
ワークショップの前半戦は、課題探索の時間帯です。キャッシュレス化の影響や取引データ利活用への不安、デジタル化された世界での信用、日々の生活で感じる不満感などについて、それぞれの視座から課題を掘り下げ、発散させながら議論を進めます。プライバシーやセキュリティ、インフラなど既に顕在化しはじめている問題や、コミュニティで信用を担保する新しい仕組みや新たな生活スタイルについてのもやもや感などを、多様な切り口から言語化し可視化していきます。
途中、コーヒーブレイクタイムでは、参加者が大きく移動し他グループと交わることで相乗効果を創出します。
また今回は、軽食のコンセプトを、議論テーマである「お金」に合わせて「金運アップ!」に設定。金運に縁起が良いといわれる食材の鶏や卵でつくったサンドイッチと、一万円札を模した「お札サブレ」をご用意しました。お金の姿を五感で感じることで、お金や信用のあり方ついてもう一度見つめなおし、コミュニケーションが進む議論の場を演出しました。
コーヒーブレイクを挟んだ後のワークショップ後半戦では、前半で出てきた課題を踏まえ、解決アイデアを探索。データ化した世界でのお金や信用における新しい不安を解消するサービスやプロダクトを考えました。今回は、誰もが生活者として深く関わるテーマなので、ビジネス上の課題着想よりも、消費者サイドに振り切った視点から未来の社会に求められるアイデアを生み出し、掘り下げていくグループが多く見られました.
ここで出てきた、幾つかの興味深いアイデアを、簡単にですがご紹介します。
  • 自分がいいと思うものにもっと高い対価を支払いたい。デジタル社会だからこそできる柔軟な取引を最大限に活用し、モノの価値を消費者自身が決める、「良いね(言い値)社会」
  • キャッシュレス取引ではお金を使うことの「痛み」が無くなり、金銭感覚を失ってしまう。「良き理解者」として、使いすぎ防止のために叱ってくれる仮想エージェント
  • データ化される自分の情報をコントロールしたい。購入履歴を自分に紐づく情報として残さずに、匿名のアバターに代理で購入してもらう「アバペイ」
  • 無機質な「キャッシュ」や乱立する「ポイント」ではなく、新たな価値の概念「得」による取引の仕組みを実現。「勝ち組」や「負け組」ではなく、損得を平準化した「WIN-WIN」の関係を実現する「“得”Buy」
  • 子どもがボランティアやお手伝い、勉強をしたときに「デジタルおこづかい」をあげることでお金の教育を行い、明るいキャッシュレス社会を作る「いい子を育てるデジタルおこづかい」
  • モノやサービスの価値は、知りたい時と、そうでない時がある。かざすとその価値を教えてくれる「ムシメガネ」、見たくないもの、見られたくないものを隠して守れる「サイバーたんす」
  • キャッシュレス取引でも、スマホやカード、番号などの「モノ」をなくすと使えなくなってしまう。早い段階で生体情報を登録し、生体認証により体一つで真のキャッシュレス取引を行う「Thingless決済」
ワークショップ後には、大判のアイデア整理シートに各テーブル内での議論と提案アイデアをまとめ、その成果を発表して参加者全員でシェア。
参加者全員による投票を行い、もっとも多く共感を集めたグループを「最優秀共感賞」、次点を「優秀共感賞」として表彰しました。賞に選ばれたグループのメンバーには、それぞれに「セコムの食」を副賞としてお贈りしました。
今回のセコムオープンラボは、体験の変化が進みつつある『財』と『信用』について、普段感じている課題や違和感などの非言語化メッセージを可視化し、共有することで、対話を深めていきました。今回取り上げたデジタル化やキャッシュレス取引についての価値観は、人によって千差万別です。全く異なる意見を持つ者同士の意見が交差することで、数多くの興味深いアイデアが生まれました。
ここで議論されたアイデアや、様々な視座からの課題感は、セコムを含め、参加者それぞれが持ち帰り、各々の視点から新たな“気づき・きっかけ”として活用いただけることと思います。参加者それぞれの分野から多くのアイデアが出され、参加者間で多くの気づきと新しい交流が生まれる場となりました。この場を起点に、様々なみなさまの想いが高まり、新しい創発が起きていくことを期待しています。

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