夢や希望を持つことは人を元気にすると言われます。今の日本、人々に夢と希望を与えるニュースが待ち望まれています。最近ではこの６月、宇宙のはるか彼方、小惑星「イトカワ」に向かった探査機「はやぶさ」が、無事地球に帰還したニュースがそれに当たるのではないでしょうか。7年もの長期にわたり宇宙を航行し、数々のトラブルを乗り越えて無事地球に戻り、カプセルを分離後に、自らはオーストラリアの夜空で、流れ星状の軌跡を残しながら燃え尽きる姿を見て感動を覚えた方も多いかと思います。日本各地のプラネタリウムで上映されている「はやぶさ」の映画は、その人気のためロングラン上映となり、夏休み中に公開された「はやぶさ」の展示は、どこでも長蛇の列だったと聞いています。

「はやぶさ」は多くのトラブルに見舞われ、その帰還は奇跡と言われますが、どこが奇跡なのか考えてみましょう。世の中には、多くの分野でその道の「名人」と呼ばれる人が存在します。彼らは、自らの専門分野において、口ではうまく説明できない「勘」と呼ばれる感覚を持ち合わせています。この力によって「状況が見える」ことから、常人では考えられないことを当たり前のようにやってのけることができるのです。

　彼らは、この常人離れした勘を、一体どのようにして身につけたのでしょうか。勘を身につけるために必要な要件はいろいろあるかと思うのですが、絶対に欠かせないものの一つに「経験」という項目があげられます。その分野の数限りない経験、そして時には失敗が彼らの感覚を磨き、勘と呼ばれる特殊な能力を身につけさせたと言えるかと思います。名人と呼ばれる人に、年輪を重ねた人が多いのもうなづけるところです。「はやぶさ」の帰還が奇跡と呼ばれるゆえんは、今まで誰も経験していなかった、惑星の公転軌道を回る天体まで行って、多くのトラブルに見舞われながらも、地球まで戻ってくるという、「これまでだれも経験のない」超長距離往復飛行を行った点にあります。経験がないということは、経験に裏打ちされた「勘」を養うことができないと言うことです。実際、人類が持つ多く分野の知見は、先人たちの経験によってもたらされ、さまざまな形で世代を超えて社会で伝承されてきたものです。

　さてここで、泥棒の名人について考えてみましょう。名人の漁師は、これまでの数限りない漁の経験から、どこに魚がいるかを見抜きます。医師の世界での名人も、これまで経験したあまたの経験から、検査をする前から多くの病気について概ねの見当をつけられます。泥棒の名人も、これまで経験した多くの「経験」から、いったいどこに金目のものがあるかを見つける勘が養われています。そのため、名人級といわれる泥棒は、無駄な家さがしはせず、金目のものを見つけることができるのです。

　それでは、泥棒から財産を守る方はどうなのでしょうか。守る方についても同様で、これまでどれだけ多くの経験を積んだかが、その人間や組織が「守りの名人」たるかどうかを左右します。すなわち、どれだけ長い間経験を積み、どれだけの件数の対象を守り続けているかが、その人間なり、組織なりの「名人度合い」を決める大きな要因になってくるのです。過去のコラムでも書きましたが、ホームセキュリティは家電量販店で売っているような家電製品ではありません。人が運用に携わる「サービス」なのです。その意味で、ホームセキュリティサービスを選ぶ際にも、「経験が名人を作る」という視点が重要になってくるのではないかと思います。

（参考）
・セキュリティは単純な価格比較では選べない（2009年3月2日「安心豆知識」）


セコムIS研究所
セキュリティコンサルティンググループ
甘利康文