医療情報サテライト

Vol.44 冠動脈疾患 第3回(全3回)

監修/中村淳先生
冠動脈疾患について
★注意したい3つのポイント
POINT③  心電図にもレントゲンにも出ない、突然死につながる
       攣縮性狭心症(れんしゅくせいきょうしんしょう)があることを覚えておく


 私はよく招聘(しょうへい)されて外国で治療することがありますが、心臓の血管や血液の性質などは人種によって大きな違いがあります。たとえば、欧米人は日本人より何倍も血が固まりやすく、そのために心筋梗塞になりやすいわけですが、日本人は欧米人に比べると血液がさらさらしています。
 そのことは血の固まりを防ぐ薬を使った場合、日本人は欧米人の3割から4割の量で効くことで分かります。ただし、心臓の血管がけいれんすることがあるのですが、この性質は欧米人より日本人のほうが圧倒的に多い。実はこの血管のけいれんが日本人の心筋梗塞の大きな要因のうちの1つであることは一般には知られていません。
 心臓の血管は動脈硬化でだんだん詰まっていくのに、どうして突然病状が悪くなるのか、どうして急に発作を起こして倒れたりするのか。
 心臓の血管は3本あって、たとえばそのうちの1本が緩やかに進行する動脈硬化によって狭まって血液の流れが悪くなると、側副血行路と呼ばれる血管が生じて、そこを通って残りの2本の血管から血液が補充されます。にもかかわらず、突然心筋梗塞になるのはなぜかというと、いま注目されている心筋梗塞の原因のうちの1つがこの血管のけいれんで起きる、攣縮性狭心症だからです。


 動脈硬化による狭心症の発症は大体、40~50歳から始まり、60~70歳にかけて発症のピークがあります。しかし、攣縮性狭心症の場合は、もっと早く40~50歳代にピークがあります。そして身体のどこも悪くないように見えるのに突然動脈硬化狭心症と別のしくみとしての冠攣縮によって血管が詰まって心筋が動かなくなり、時には死に至るのです。私見ですが、30~40代で突然死する人はこの攣縮性狭心症である確率が高い、と私は考えています。しかも心電図やレントゲンを撮っても何も出ません。けいれんは瞬間的に起きるからです。ただし、この病気はカテーテル検査をし、そのときにある薬を使ってこの病気があるかどうかを検査することができます。
 また、症状には特徴があります。症状が起きるのは朝と夜が多く、胸のあたりが分単位でもやもやしたり圧迫されるような感じがあります。そして、10分くらいの間隔でガーッと発症して収まります。
 これにタバコとか睡眠不足といったストレスが加わると、発作が起こりやすくなることが分かっています。
 この病気は頻度も高く、まれに死に直結することもある病気ですが、多くは診断さえつけば薬剤による内服加療のみで対処できます。いま述べたような症状が出たらこの病気を疑って、病院で診てもらってください。
 以上、私が日頃感じていることをお話しましたが、それは患者さんにこうした知識を持っていただきたいからです。医師も神様ではないのですから、たとえば医師の話を聞いて分からないときは納得のいくまで聞かれるといいし、セカンドオピニオン、サードオピニオンを求められるといいと思います。自分の身を守るためにはまず知ることが大切です。


冠動脈疾患
第1回
第2回
第3回
注意したい3つのポイント
中村淳先生プロフィール

中村 淳(なかむら すなお)
中村 淳(なかむら すなお) 中村 淳(なかむら すなお)
医療法人社団 三記東鳳
新東京病院
副院長兼心臓血管センター長
医学博士

【略歴】
大分医科大学医学部卒業
熊本大学医学部循環器内科入局
福岡徳洲会病院循環器内科入局
福岡徳洲会病院循環器科医長
ハートライフ病院循環器科医長
沖縄南部徳洲会病院循環器科医長
沖縄南部徳洲会病院循環器科部長
新東京病院循環器科部長
インドネシア、タイの病院の顧問医師
新東京病院副院長兼心臓血管センター長

【所属学会等】
熊本大学大学院非常勤講師
日本心血管インターベーション学会認定医・指導医・評議員
日本心血管カテーテル治療学会認定医・指導医・評議員